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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 A NEW BATTLE FIELD 1945
224/285

第一章3

「久々に殺しまくったんだろうな。良い肌色してやがる」

 午後五時を回り、人血の如く赤い夕焼けが窓から差し込む廊下を進んでいた学生服姿のエレナ・ヴィレンスカヤは明らかな悪意が込められた男子生徒の言葉を耳にした。

「おい、やめろよ」

「構うもんか」

 アルカを席巻するテロ集団の大規模攻撃を受けるも、中までの侵入までは許さなかったヴォルクグラード人民学園の校内で足を止め、声の方向に引き締まったその肢体を向けたタスクフォース563のヴァルキリーは階段横の柱に寄り掛かってこちらに視線を向ける旧ロイヤリストの男子生徒達を見る。

「何か御用ですか? 中尉殿」

「だからやめろって……」

 嫌味ったらしく言葉の最後に付け加えた右の男子生徒を左の級友が窘める。

「すみません」

「気にするな。私は気にしない」

 左の男子生徒に気遣いの言葉を送ったプラチナブロンドの戦乙女は右のプロトタイプに今日多くのラミアーズ兵の死を見届けた青い双眸を向けた。

「――ッ」

 鋭い眼光を浴びた少年は気まずそうに一歩後退る。

「私はこの学園の実権をお前達が握っていることを知っている」

 エレナは小指を折る。現在ヴォルクグラード人民学園を支配しているのは人民生徒会の恐怖政治を嫌って他校に亡命し、その後帰還したロイヤリストと呼ばれる生徒達だった。

「私は自分が白眼視されながらも必要とされている事実を知っている」

 次に薬指を折る。だが、人民生徒会を倒して政権を奪取したマリア・パステルナークをシュネーヴァルト学園と共に打倒したロイヤリストの新政権で軍の中核を担っていたのは皮肉にも旧マリア派のプロトタイプやヴァルキリーだった。

「そして私は、他に行き場所がない故にロイヤリストの軍門に下った自分が白眼視されて当然の行為を働いたことを知っている」

 最後に中指を折る。一九四三年のグリャーズヌイ特別区におけるジェノサイドを筆頭に、エレナら旧マリア派の九十%は非人道的な戦争犯罪に関わっていたが、ロイヤリスト達はアルカ真実和解委員会によってこれを事実上の無罪放免とした。

「だが」

 ヴァルキリー特有の指の折り方を見せたエレナの眉間に寄った皺が少しだけ深くなる。

「私は今日、ラミアーズがこの学園に突如攻撃を仕掛けて自分がそれを迎え撃っている時、お前が一体どこにいたかは知らない」

 自分が安全な地下シェルターにいた事実を見抜かれた男子生徒は返す言葉が見つからず押し黙ったが、彼がアルカ真実和解委員会では到底払拭できなかったマリア一党に対する複雑な感情故に先程の言葉を吐いたと察しているエレナはその光景に溜飲を下げることもなく、それ以上は何も言わずに足早にその場から立ち去った。

「失礼します」

 七分十二秒後、端正な顔立ちの少女は生徒会オフィスのドアを開けた。

「お待ちしておりました」

 部屋の最奥部からの声がエレナを出迎える。

「誰だ貴様は……?」

「ミス・マガフとでも名乗らせて頂きましょう」

 椅子を回転させて立ち上がり、壁に背を預けたエレナと同じ女子用の学生服に身を包むヴァルキリーは目元を覆う仮面を直しつつ自己紹介を済ませた。

「ふざけた名前だ」

 エレナは自分をこの場所に呼び出した存在を前に失笑を漏らす。

「一体私に何の用だ?」

「わた……いえ、我々は本日の貴方の戦い振りを拝見致しました」

 百七十センチ超の引き締まった肢体と長く艶やかな黒髪を持ち合わせる知的な戦乙女は涼しげな口調で話し始める。その言葉の端々には独特が訛りがあった。

「我々はヴィレンスカヤ中尉の能力を非常に高く評価し、近日中に開始される各校合同のホテル・ブラボー攻略作戦への参加をお願いしたいと考えています」

「何を馬鹿な。お前は軍の高官でもないだろうに」

 再びエレナは失笑を漏らすが、ミス・マガフが何も言わずに右手で差し出した命令書を受け取って目を通すなり表情を険しくした。明らかに司令部が作った正式なものだった。

「どういうことだ……?」

「我々の手にかかれば、そのような書類を公式な形で作り出すことなど造作もありません」

 仮面の戦乙女は悪く言えば他人事めいた口調で続ける。

「我々はラミアーズという道徳的にも良識的にも正当化されていないテロリストの存在に心を痛め、可能ならば彼らを永久にこのアルカから排除したいと考えています」

「こんな書類を自前で我が軍に作らせることが可能なお前達なら、ラミアーズを内側から崩壊させる位はできそうだがな」

「我々が影響力を持っているのはアルカ外部と繋がりを持つ組織だけです。ラミアーズはアルカで生まれ、アルカの中だけで成長してしまった組織です」

「だとしても、そこに私が関わらなければいけない理由は見つからないな」

 言葉に独特な訛りを響かせるヴァルキリーの首が左右に揺れた。

「いいえ。理由ならばあります。あるからこそ、我々は中尉にお声掛けしたのですから」

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