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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 A NEW BATTLE FIELD 1945
222/285

第一章1

 一九四五年五月二日。

「死だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 腹部に爆薬を巻き付けた黄色いレインコート姿のプロトタイプが七・六二ミリ弾で体のあちこちを深く抉られても構わず全力疾走して視線の先にいたヴァルキリーにしがみ付き、手元のスイッチを押す。

「続け!」

「我々も次のレベルへ!」

 閃光と共に手足と肉片が校庭に四散し、立ち込めた黒い煙の中から後続の自爆要員が飛び出して手近な目標に飛び込んでいく。

「畜生! 奴ら一体どこから出てきたんだ!」

「軍は一体何をしてるんだよ!」

 まだ二年前と前年の内戦が残した傷跡が残る校舎内に生徒達の困惑と悪態が響き渡る。

「こちらモシン2‐5、負傷者多数!」

 施設外では緊急出撃するも勢いに任せて猛攻を仕掛けてきた狂信的テロ集団を前にして同校の学園軍兵士らが苦戦を強いられていた。

「これ以上維持できません!」

「火炎放射器だ! 火炎放射器を持って来い!」

 この日、アルカ北西部に拠点を構えるソ連の代理勢力――ヴォルクグラード人民学園は遂にラミアーズによる大規模攻撃を受けた。

「死だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 テロリストが自爆する度に炎の奔流が空へと真っ直ぐ噴き上がる。爆発に巻き込まれた同校学園軍の兵士やヴァルキリーが絶命の声さえ出せないまま木っ端微塵に吹き飛ぶ。

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

 自爆要員が全滅すると続いて校庭に突入したレインコートにチェストリグ(注1)姿のラミアーズ兵の発砲音がコルダイト火薬の臭気を切り裂き始めた。

「ロシア人を次のレベルに連れて行け!」

 アルカという歪んだシステムからドロップアウトし、強烈な鬱屈と劣等感の中で正気を失ったプロトタイプ達が手にしたMP44短機関銃や一〇〇式機関短銃から猛烈な勢いで真鍮製の空薬莢が次々に排出されて幾つもの死体が横たわるコンクリートの上に転がった。

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

 内通者の手引きでこの場所まで遥々やって来た軍勢が、一九四三年のロイヤリスト兵や一九四四年のヴォルクグラード防衛評議会兵士のように奇襲攻撃を受けて大混乱の暴風が吹き荒れている校内へ突入せんとする。

「単純明快に言うと、私の仕事はテロリストの首と胴体を切り離すことだ」

 しかし自爆要員の極めて安価な命と引き換えに作られた壁の大穴に向かっていた一人のラミアーズ兵が足元を蹴って自らの肉体を眼前に投じた青い光源に首を跳ね飛ばされた。

「黙示録の天使……じゃない……!」

 仲間の体が血の噴水を上げて前方に倒れ込む様子を見て足を止めたテロリスト達の前でプラチナブロンドの長髪が揺れ、碌に狙いも定めずに彼らから放たれた弾丸が作り出した砂煙の中にマナ・エネルギーの輝きが消えていく。

「アベルは羊を飼う者となり」

 直後――濛々と立ち込める煙中から青い粒子の功績が一直線に空へと伸びた。

「カインは土を耕す者となった」

 思わずその輝きを目で追ったプロトタイプらの前にエレナ・ヴィレンスカヤが語りつつゆっくりと降り立つ。

「二人が野原に着いた時」

 翳した右手の前に作り出したマナ・フィールドで殺到する七・六二ミリ弾を受け止めたヴォルクグラード学園軍のヴァルキリーはすぐに掌を回転させた。

「カインは弟アベルを襲って殺した」

 それらの向きを変えると撃った側に浴びせ返して一度に七名を絶命に追い込む。

「戦わずにいられないのは生きるためだ」

 エレナは左右に後退翼が伸びる背部飛行ユニットのノズルから青いマナ・エネルギーの粒子を噴射しながらロングコートめいたマナ・ローブの燕尾を棚引かせて敵に突貫する。

「口を噤んだまま日々を送るだけでは――」

 両腰の鞘から抜いた鉈が右手で振るわれ一名の胴体を両断した。

「重みに押し潰されてしまう」

 下半身と切り離された上半身が校庭に落下する直前にエレナは別のテロリストに対して右上から左下にかけて鉈を振るい、

「私はお前達と戦っていない」

 更にもう一度右下から左上への一閃で切り裂いた。

「私は私と戦っている」

 二つの断面から迸った赤黒く生暖かい液体が二度のヴォルクグラード内戦を生き延びた手練の白い肌を汚すが、少女は構わず足元に視線を巡らせ、丁度良い場所に転がっていた二梃のDP28軽機関銃に向けて右足からスライディングし両手でそれを掴み取る。

「第二次ヴォルクグラード内戦を生き延びたのは私だけではない」

 彼女はラミアーズ兵の銃口が自分に向けられる前に飛翔、

「あの内戦が一体私にとって何だったのか、私はまだ答えを出せていない」

 地上数十メートルで緩い円を描きながら左右下方を二つの分隊支援火器で掃射した。

「だが貴様達は幼稚な衝動に駆られて気ままに殺戮を続けている」

 円形のドラムマガジンが付く自動火器から撃ち出された七・六二ミリ弾は唸りを上げてテロリストに殺到、黄色で覆われた腹部を貫き、続いて白いマスクごと頭部を四散させる。

「私が常に湧き上がってくる愛憎入り混じった衝動を必死に抑え込んでいるにも関わらず」

 一方的な殺戮の対象となったラミアーズ兵達はそれでも悪鬼の如き少女に対して果敢にMP40短機関銃やブレン軽機関銃を発砲するが、放たれた大量の九ミリパラペラム弾や三〇三ブリティッシュ弾は超高速で空往く戦乙女を捉えることはできない。

「恐れるな! 上位存在が見守っている!」

 運良く着弾した数発もエレナが背部飛行ユニットから放出する青のマナ・フィールドによって敢えなく防がれ一人また一人と肉塊に変えられていった。

「この黒い獣は心に噛み付くとすぐに全身に毒を回らせる」

 逆にエレナが二丁のDP28軽機関銃から送り出す弾は例外なくラミアーズ兵の手足を断裂させ、また別のテロリストの上半身と下半身を切り離す。

「すぐには解毒できない!」

 足元を抉りながら再び地に足を着けたエレナは右手でDP28軽機関銃を連射して敵を倒しながら体を左に向け、

「そして私は然程逞しくない!」

 右手の自動火器を下げつつ左手のソ連製分隊支援火器を連射する。マズルフラッシュの直後に相次いで息絶えた敵が倒れ込み臓物や血塗れの肉片を幾つも散らばらせた。

「貴様らとは違ってまだ正常な部分を残しているからだ!」

 最後に残ったラミアーズ兵が半ば腰砕けになりながら米国製のM1バズーカから放ったロケット弾を軽やかに横一回転して避けたヴァルキリーはその白煙を背に弾切れになった火器を左右に投げ捨てる。

「何が死による生からの解放だ」

 そしてテロリストに肉薄すると喉に黒いオープンフィンガーグローブで覆われた五指を突き入れて頸動脈を無理矢理外に引き出す。

「底辺なのは貴様も同じだろうに――!」

 刹那、真後ろから聞こえた新たな敵の怒声で鼓膜を打たれたエレナは振り向いて手足を痙攣させている絶命寸前のプロトタイプの体を放り投げた。

「お前達は競争から逃げた底辺に過ぎない。底辺にいる者は全てを否定される!」

 血霧混じりの煙の中から斧を掲げて飛び出したラミアーズのヴォルクグラード人民学園攻撃隊隊長――花菱有紀なるヴァルキリーは縦方向の斬撃を繰り出す。

「そうまでして自分が特別だと思いたいか!」

 エレナと同じ濃緑色の特殊な戦闘衣を纏い、背部飛行ユニットも右の手首に装着されたマナ・クリスタルのデザインも彼女と何一つ変わらない和州学園出身のヴァルキリーは、肉が蠢く断面を上にしてそれぞれ横倒れになった戦友を一瞥すらせずに旧マリア派最強のヴァルキリーとの距離を詰めて一撃を加えんとする。

「自分を正当化できんと息も吸えんからな」

 ソ連製ヴァルキリーは振り下ろされた斬撃を両腰部の鞘から抜いて刃が交錯するように構えた鉈で受け止める。強い衝撃で先端部がピンクのリボンで結われている長髪が靡き、余波で校庭に散らばった人体の一部や焼け焦げた銃器の残骸が吹き飛ぶ。

「虐殺者らしい台詞だ!」

 青いセミロングの戦乙女は全身の筋肉をフルに使って斧を押し込んでいく。

「そう言って、グリャーズヌイ特別区で一体何人殺した?」

 少しずつではあるが、半ば乾燥した肉片が何層にも渡ってこびり付いている錆びた刃が二本の鉈ごとエレナの端正な顔に近付いていく。

「答えろ……エレナ・ヴィレンスカヤ!」

 だがそこまでだった。

「七百六十二人」

「何……ッ!」

 上下のマナ・ローブの間に鍛えられた腹筋を露にしているヴァルキリーが両手を大きく左右に広げて有紀の手から斧を弾き飛ばしたからだ。

「殺した数は七百六十二人だ」

 エレナは得物の行方に気を取られて敵の眼前にも関わらず左右を見回してしまった敵の腹部にたっぷりと体重が乗った左ミドルキックを叩き込む。

「鉈で斬り殺した者、四百五十七名!」

 脛に走る肋骨が砕けた感触が消えないうちに右ローキックを有紀の左太腿に入れ、

「銃で撃ち殺した者、二百七十八名!」

 次に再度の左ミドルキックで左手を粉砕骨折に追い込んだ。

「後は知らん!」

 駄目押しでもう一発右ローキックを放って有紀の左大腿骨に亀裂を生じさせたエレナは右手で左下から右上への、左手で右下から左上への斬撃を放ち彼女の顔を切り裂く。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 X字の傷から血を噴き出したラミアーズの尖兵は両手で顔を覆って敵に背を向けるが、エレナは構わず有紀の背部飛行ユニットを蹴り飛ばした。

「どうした? 殺した人数を教えてやったのに嬉しくないのか?」

 鉈を投げ捨てたエレナは前のめりに倒れた有紀の飛行装置を両手で無理矢理レイルから引き剥がし、何とかして逃げようとする相手の喉に手を回して首を締め上げながら体重を掛けて押し潰す。筋肉質な腕が血管を圧迫して顔の傷口から溢れる血量を更に増加させた。

「狂人が……!」

「違うな」

 エレナは腰を伸ばされて完全に死に体になった戦乙女の側頭部に何発も左右のパンチを入れて脳を揺らし、次に激しく左右する頭部の後ろから手を回して顔を固定する。

「私はただ、社会が敵と認めたものに対して!」

 次に左手を口に突っ込んで思い切り下方へ引っ張った。

「道徳と善悪をわきまえないだけだ!」

 絶叫と共に有紀の口周りが熱したチーズ宜しく伸び千切れて熱い鮮血が溢れ出る。

「このようにな」

 ラミアーズの尖兵は耐え難い苦痛から逃れようと手足を激しく動かすが背中に馬乗りになられた状態での脱出は叶わず、最終的に上顎と下顎を完全に引き千切られて絶命した。


 注1 前掛け式の予備弾倉入れ。

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