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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 A NEW BATTLE FIELD 1945
221/285

プロローグ

 一九四五年五月一日。

「正義の味方にでもなったつもりか……」

 アルカ中部東――かつては山形市と呼ばれていたホテル・ブラボーなる地――のとある地下室に目隠しをされ、横一列に跪かされた全裸の少女の一人が喉奥から震える声を出す。

「お前達は癇癪を起した子供を同じだ!」

 だが黄色いレインコートに身を包んで顔を白いマスクで覆い、手にMP40短機関銃を携えた姿で捕虜を取り囲むテロリスト達は何一つ反応しなかった。

「自分の思い通りにならないからという理由だけで怒鳴り散らし、物を殴り付ける!」

 それでも後ろ手に縛られ、疲れ果てた痣だらけの体を凝固した血で汚すヴァルキリーは左右にそれぞれ別の学園出身の捕虜の存在を感じつつ言葉を連ねる。

「物事は突き詰めれば全てそこに行き付く」

 突然の返答と共に少女の背筋に剥き出しの電極が近付けられたかの如き悪寒が走った。

「この地球に最初の生命が誕生した時、そいつは一体何を考えた?」

 強引に目隠しを外された戦乙女と、彼女の鼻先数センチ先にガスマスクでその下半分を覆うヴァルキリーの冷たい視線が交錯する。

「戦争哲学か? 政治経済か? はたまた世界平和か?」

 テロ組織ラミアーズを指揮してホテル・ブラボー一帯を支配し、国家間代理戦争を行う旧名山形県に校舎を構える各学園に狂気と暴力による鉄槌を下すアビー・カートライトはエアフィルター越しの呼吸音を響かせながら乱暴に捕虜の後ろ髪を掴む。

「正解は生きたいという単純な欲求だけだ」

 魔境の王は今やマナ・クリスタルを失い、一切の良識や論理が通用しない地獄の軍勢に捕えられた少女が恐怖に震える様子を見て嬉しそうに目を細める。

「どうして……」

 アビーの目を正視できない戦乙女は地下室右上のモニターに視線を送る。ブラウン管の中ではドラケンスバーグ学園の校舎にトラックが突入して自爆する映像が流れていた。

「どうして……」

 アビーの目を正視できない戦乙女は地下室左上のモニターに視線を送る。ブラウン管の中ではパブリック・スクール・オブ・ブリタニカの新聞部室にラミアーズ兵達が侵入し、MP44自動小銃を乱射して逃げ惑う部員を片っ端から撃ち殺す模様が映し出されている。

「どうしてこんなことをするの……?」

 自分自身、ラミアーズ討伐作戦の最中にホテル・ブラボー近郊で捕虜となってしまったヴァルキリーは覚悟を決めて怯えながらも正面に向き直った。

「どうして?」

 途端にアビーは笑い出す。

「どうして?」

 髪の色をスプレーで薄緑に変えた戦乙女は手を放し、立ち上がって理解できないとでも言いたげに両手を広げる。

「そんなことも、そんなこともわからないのにヴァルキリーを?」

 マナ・ローブに身を包んだ狂鬼は手を元の位置に戻す。

「そんなことも、そんなこともわからないのに我々を批判する?」

 腰を下げたアビーは左手で再び捕虜の後ろ髪を掴み自分の顔に無理矢理近付けた。

「世界を破壊したい理由は、ただ単に世界を破壊したいからだ!」

 部屋全体に響き渡るかのような怒声が少女の心に恐怖と絶望の楔を打ち込む。

「そうとも」

 アビーは両目尻に涙を溜め、両膝を激しく震わせる敗者の前でガスマスクを外す。

「ひっ……」

 黒の防毒面の奥に隠されていた右口端の醜い傷口を目にした少女の恐怖は頂点に達し、股間から迸った異臭を放つ生暖かい液体が床に弾けた。

「腹が立って壁を殴るのに腹が立った以上の理由など必要ない」

 自分の行動理念を高々に叫んだ直後、ガスマスクを床に叩き付けたアビーは少女の喉に噛み付いて頸動脈を噛み千切った。

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