サブラ対メカサブラ 5
「あのねぇ」
ヒトデや海藻と共に砂浜に打ち上げられて口から勢い良く海水を噴き出しているS中佐を目の当たりにしたレアは眉間に深い皺を寄せる。
「アンタ腐っても海軍特殊部隊の隊員じゃない。なのに泳げないってそれどうなのよ」
「泳げないのではありません」
突然真顔になったS中佐は豊満な胸を上下に微震させながら起き上がる。
「私は足が着く場所でしか泳がないのです」
「全くもう……わかったから大人しく向こうでアメフラシでもつついてなさいよ」
「私は今まで一度たりとも溺死した経験はありません」
「あるわよ。二十二回も」
苦々しげに即答したレアの表情の曇りを見逃さなかったS中佐は彼女にその理由を聞こうとしたが、直後の爆発音がそれを阻んだ。
「あそこはDH社の跡地がある場所ですね」
弾かれたように同じ方向を向いた二人の視線の先には立ち昇る黒煙があった。
「でもSW社はもう撤退しているはずよ」
レアの言う通りつい九日前、トビシマ・アイランドではアルカ最大手の民間軍事企業であるSW社とその座を奪わんとするDH社が激しい戦闘を繰り広げていた。戦いはエーリヒ・シュヴァンクマイエル率いるSW社がライバル企業の本社社屋を制圧するという形で終わったが、両社の兵士達は既にこの島から完全に姿を消しているはずだった。
「休暇を終了します」
「ちょっ……」
人間不良品のS中佐からテルアビブのマリア・パステルナークと畏怖される戦乙女、サブラ・グリンゴールドへと変貌した少女は一体どうやったのか見当もつかない早業でオリーブドラブの軍服に着替え、その上に南アフリカ共和国製チェストリグを羽織った。
「固着」
彼女は唖然とするレアの前で右手首のマナ・クリスタルを操作する。
「ああもう!」
レアは腰から伸びる支持架に装着された背部飛行ユニットから左右に延びる、イスラエルの国籍マークと敵味方識別用の黄色い三角形が描かれた前進翼を空中で翻し、安全装置を外したガリル自動小銃を携えて何かに引き寄せられるかの如く煙の場所へと急行するサブラの青い光跡を追いながら砂浜を疾走し始めた。
「アンタは一体何回死ねば独断専行は危ないってことを理解するのよ!」