第三章5
項垂れるユーリを乗せ、エレナに護衛されたヘリはサカタグラード郊外のガーランド・ハイスクールが管理するベースキャンプへと着陸した。
ベースキャンプには絶え間なくエア・ヤマガタのヘリが離着陸を繰り返して負傷兵を降ろしていた。野戦救護所の前にはマリア派とロイヤリストの兵士が肩を並べている。疲れ切った彼らの顔にもはや戦意は微塵も残っていない様子だった。
「あの……自分にも何かできることはありませんか?」
ヘリから降りるなりユーリは野戦救護所を覗いて手伝いを申し出た。
「あんた医療の経験は?」
腕に赤十字の腕章を付けたガーランド軍の衛生兵がそれを聞いて不快感を露にする。
「ありません」
「だったらその辺で大人しくしてろ。迷惑だ」
「でも、自分にできることがしたいんです」
「素人にできることなんて何もないんだよ!」
衛生兵は年が極めて近いであろうユーリを指差し、唾を飛ばして怒鳴り声を上げた。
「頼むからもうこれ以上余計なことをしないでくれ! もううんざりなんだよ!」
他の衛生兵がやってきて制止するまで彼は罵詈雑言をユーリに浴びせた。
「僕は何もできない……」
ユーリは完膚なきまでに打ちのめされた。都合良く誰かが手を差し伸べ、全てを良い方向に変える力を授けてくれるわけもなかった。
「ユーリ君、私はもう行きますね」
今はローターを止め駐機状態になっている、ここまで乗ってきたヘリのキャビンでユーリが項垂れていると、どこからかエレナが現れた。
「行くって、どこに?」
「本校舎です。同志大佐から防衛戦の指揮を執るよう通達を受けました」
「駄目だよ……殺されちゃうよ……」
ユーリは涙目でエレナの手を掴んだ。
「僕を一人にしないで……僕を守って……助けて……」
「お断りします」
冷淡な口調でエレナはユーリの手を跳ね除けた。
「貴方を守れと命令されていません」
「守ってよ……だって僕は……僕は姉さんの弟なんだよ……?」
「ではお聞きしますが」
エレナの青い瞳が今にも小便を漏らしそうなユーリを睨みつける。
「貴方は、貴方の姉さんではないですよね?」
目の下の筋肉を引き攣らせながらエレナは言った。
「私は同志大佐しか守りません。ユーリ君、貴方を守ったのは守れと言われたからです」
エレナから冷淡な言葉を浴びせられた瞬間、既にオーバーヒートしかけていたユーリの頭の中は一気に真っ白になった。心臓が爆発するかのように脈打つ。
「私自身にとっては貴方など、ただの使えないゴミクズに過ぎません」
エレナは「では」と身を翻し、絶望して地面に倒れ込むユーリに背を向けた。