PROMISE 3
「サブ……S中佐、確かに私はもう少し身分を隠す努力をしなさいとは言ったわ」
緑の芝生や花畑が広がるキブツ内に建ち、窓に手榴弾避けの金網が張ってあるシャローム学園学生寮の一室でレアは呆れの声を発した。
「でもあそこまで露骨にしろと誰が言ったのよ。逆に目立ってどうするの」
オリーブドラブの軍服に身を包む細い切れ長の目をしたシャローム学園の予備役ヴァルキリーは不審者と勘違いされ、つい七分十二秒前にMAGAVことシャローム学園国境警察の隊員達から袋叩きにされたS中佐の痛む頭を氷で冷やしている。
「これは私の責任ではなくレアさんの教え方が悪かったことが原因です。補償としてアルハンブラ(注2)での夕食を要求します」
レアと同じ恰好をしたS中佐はシニガミマガジン(注3)のページを捲り、女性的なフォルムを維持しつつも六つに割れた見事な腹筋と逞しい上腕二頭筋が強烈な自分と姉妹同然の付き合いがあるヴァルキリー――と彼女は自称している――サブラ・グリンゴールド中佐の水着グラビア写真を見開きにする。
「素晴らしい。これには百万ドルの価値がありますね」
「はいはい良かったわね」
そして溜め息を吐いたレアがアルハンブラに電話で問い合わせるため部屋を離れ、
「予約取れたわよ」
筆で『フジツウさんはすごいひと』と書かれた掛け軸が強烈なインパクトを放っている以外にはこれといった印象を受けない簡素な空間に戻ってきたとき、艶のある黒い長髪のヴァルキリーはもういなかった。
「ホントに勝手な人なんだから……」
代わりに置かれていたのはシャローム学園軍のヘルメットを被った、どこか寂しげな表情がプリントされた白く丸いクッションだけだった。
注2 カモ自治区にある高級料理店。
注3 アルカにおいて非合法に販売されているヴァルキリーのグラビア写真が掲載された月刊雑誌。シニガミ(死神)とはヴァルキリーの暗喩である。