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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 サブラクロニクルズ
197/285

PROMISE 1

 一九五〇年八月十日。

 十八世紀末に発生した巨大隕石の落下とその後十五年に渡って続いた大規模な戦争で深く傷つき、今や巨大多国籍企業グレン&グレンダ社によって統治されている世界の中で各国が学園を使った代理戦争を行う地、アルカの上に広がる低い雲は今日も鉛色をしていた。

 重苦しい空の下で立て続けの爆発が起こる。バラバラになったプロトタイプ――アルカにて使い潰される戦闘用人造人間――の手足が四散して地面に転がった。

「マサダは二度と陥ちないのよ!」

 今まさに一人の敵を葬ったレア・アンシェルという名の少女は肩口まで伸びるショートカットを揺らしながらヘブライ語で叫び、攻撃対象への連射を終えて弾切れになった南アフリカ共和国製リボルバー式グレネードランチャーを投げ捨てる。

「もしもこの世界がユダヤ人によって支配されてしまったら」

 しかし、高圧的な声と共に青い粒子の輝きに照らし出された新しい敵がゆっくりと黒煙の中からその姿を現す。

「劣等人種共は憎しみに満ちた争いの中で互いを騙し合おうと努めるだろう」

「自己正当化したレイシストの被害妄想なんて!」

 濃緑色のマナ・ローブを纏い、単独飛行を可能とする後退翼が左右に伸びた汎用型ユニットを背負うヴァルキリーであるレアは怒りの声を発しながら、今なお先程の榴弾の連続爆発によって舞い上げられた土が音を立てて落ち続けている自分の周囲に墓標宜しく突き刺さった二丁のMG42機関銃を引き抜く。すぐに布を引き裂くかのような掃射音が鳴り響き、夥しい数の空薬莢が地面に零れ落ちた。

「約束を反故にし続けてきたユダヤ人らしい言い方だな」

 だがレアと同じように戦闘機の速度と機動性、戦車の装甲と火力を人間サイズで両立させ、アルカ学園大戦における生態系の頂点を登場から僅か数ヶ月で極めた存在は手を翳して展開した分厚い光の壁で押し寄せる七・九二mm弾を防ぐ。

「S中佐は私との約束を守った」

 五十発入りのドラムマガジンを撃ち尽くしたレアは十二キロもある汎用機関銃を投げ捨てると、次にこれもまた地面から伸びる米国製のBAR自動小銃を抜き取った。

「だから私はS中佐との約束を守る!」

「冗談は国旗だけにしろ」

 腰溜めで矢継ぎ早の銃撃を浴びせるレアを一笑に伏すかのようにヴァルキリーが手にした異形の大型火器から粒子ビームの一撃が放たれる。

「――ッ」

 レアは反射的にBAR自動小銃を投げ捨てて光の壁――ヴァルキリーだけが展開できるマナ・フィールドで迫り来る光芒を防いだが、激しい衝撃に吹き飛ばされて背後の建物に突っ込んでしまう。壁を突き破るなり夥しい量の土埃の中で背部飛行ユニットの左翼が折れ、彼女の口からは苦悶の声が漏れた。

「ごめん……サブラ……」

 瓦礫の中で痛む上体を何とか起こしたレアは自分に向けてヴァルキリーが近付いてくるのを視認し、誰のものでもない血によって赤く染まった手で手榴弾をマナ・ローブの上に羽織ったチェストリグから外す。

「約束……守れな……」

 そして、震える指でそのピンを――。

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