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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 サブラクロニクルズ
192/285

HOMECOMING 1

 一九五〇年八月三日。

 夜空がマグネシウム・リボンの激しい燃焼によって照らし出された直後、真昼のように明るくなったその五百メートル真下で少女の頭が吹き飛んだ。

 骨片混じりの脳漿が勢い良く四散し、千切れた頭部は鈍い音を立てて塹壕の遥か後方に落着する。同時に真鍮製の空薬莢やスチール削り出しのマガジンが幾つも転がる塹壕の中で首から上を失った死体が白いセーラー服を赤く汚して崩れ落ちた。

「とんだ貧乏くじよ。ここの警備はイージーだって聞いてたのに!」

 肘と膝を黒いパットで覆ったガーランド・ハイスクール――十八世紀末に発生した巨大隕石の落下と、その後十五年に渡って続いた大規模な戦争で傷つき、巨大多国籍企業グレン&グレンダ社によって支配されたどうしようもない世界の中で各国が学園を使った代理戦争を行う地、アルカにおけるアメリカ合衆国の代理勢力――の女子生徒は無残な有様になった仲間の死体を見て悪態をつく。そしてショートカットの髪を揺らす彼女は通信販売で買ったグローブに包まれている手をセーラー服の上に羽織ったチェストリグ(注1)に入れ、二十九発の七・六二mm弾が装填された新しいマガジンをソ連製AK47自動小銃へ突っ込むと、本体右側のチャージングハンドルを引いて薬室に弾丸を装填した。

「イージーだって……」

 迫り来る敵兵目掛けて発砲しようとしたとき、彼女の真後ろにあった弾薬庫が吹き飛んで紅蓮の火柱が空を緋色に染めた。その輝きはかつて山形県と呼ばれ、今や誰一人旧名を覚えていない永久戦争地帯の北西部に伸びるショー&ナイ・エアベースの滑走路を夜の世界に浮かび上がらせた。

 続いて迫り来る所属不明の敵兵にM2重機関銃の絶え間ない掃射を浴びせていたトーチカが携帯式ロケット砲の集中攻撃で撃破されてしまう。

「バジャー2‐1よりレッドライダーへ、屑共が団体ツアーよ。構わないからスネークアイもナパームもクラスターも全弾ここに落として!」

 煉獄と化したコンクリート製特火点から火達磨になった若者達が悲鳴を上げながら飛び出し、倒れ込んで国同士の代理戦争で使い潰される人造人間プロトタイプとしての短い一生を終える阿鼻叫喚を目にした女子生徒は無線機を取るなり悲鳴にも似た声で上空の観測機に待機している前線航空管制官へ連絡する。

「こちらレッドライダー、四分で攻撃機を……待て、何かが通信に割り込んだ」

「ちょっと! 割り込んだって何よ! さっさと――」

 直後、無線機に怒声を浴びせた女子生徒のいる塹壕のすぐ目の前で爆発が起きた。鼓膜を引き裂かんばかりの炸裂音が鳴り響き、木っ端微塵に粉砕された仲間の手足や肉片がゴムボールのように地面上でバウンドした。

「あ……あ……」

 激しく咳き込んで煤と土だらけになった顔を上げる女子生徒の股間から生暖かい液体が溢れ、太腿の内側を伝ってコルダイト火薬臭い地面に染み込んでいく。

 彼女が失禁した理由は、すぐ目の前に戦闘機の速度と機動性、戦車の装甲と火力を人間サイズで実現したアルカ学園大戦における生態系の頂点が立っていたからだ。

 濃緑色のマナ・ローブを纏い、単独飛行を可能とするユニットを背負ったヴァルキリーという戦乙女は多くのプロトタイプにとって決して抗えない絶対的な存在だった。

 だが女子生徒が殺されると確信した瞬間、ヴァルキリーのすぐ後ろで渦巻いていた黒煙の中で青い光が瞬いた。

「――ッ」

 ソ連製無反動砲の砲身を右脇に抱えたヴァルキリーは只ならぬ気配を感じて振り向く。

 そこにはヴァルキリーだけが親和性を持つマナ・エネルギーの青い輝きに照らし出されたダビデの星があった。


 注1 前掛け式の予備マガジン入れ。

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