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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 RAID ON FINAL FRONT 1950
180/285

第三章5

「固着」

「固着」

「固着」

「固着」

「固着」

「固着」

「固着」

「固着」

「固着」

「固着」

 同じ声質をした少女達の声が格納庫の中に連続して響き渡り、徐々に開いたハッチから差し込む光によってその声の主が露わになった。

 ヴォルクグラード人民生徒会の残党が亡命の見返りとしてマリア・パステルナークの再来を作り上げようと目論むシュテファニア・グローフの一派に提供した遺伝子データによって、再びこの世に生み出されたクローンヴァルキリー達だ。

 次々に色とりどりのマナ・ローブを纏って出撃していくダークホーム社のクローンヴァルキリーは、その全員がOVTローブを纏っていた。背中の飛行ユニットは前進翼で、肩と腰には大型の推力偏向ノズルが装備されている。手には身の丈よりも大きいロングバレル付きのマナ・パルスライフルを携えていた。

 沸き立つような戦闘にクローンヴァルキリーが加わった。

 飛行するクローンヴァルキリーから放たれる粒子ビームが地面を薙ぎ払い、スピリットウルフ社のPMC隊員や戦車を蒸発させる。爆発音と共に激しく地面が揺れた。

「馬鹿! 私達まで殺す気!?」

「ちゃんと狙って撃ちなさいよ!」

 ダークホーム社のPMC隊員は塵埃、硝煙、細かい金属などが入り混じった空気を吸い込み、塹壕の中で激しく咳き込む。

「人形風情が! 調子に乗るな!」

 練度と経験で勝るスピリットウルフ社のヴァルキリーは一対一の戦闘ならクローンヴァルキリーを易々と撃墜できたが、そのことに気付いたクローンヴァルキリー達はヴァルキリーに向けて三方向から一斉に攻撃を仕掛けた。一人は撃墜するヴァルキリーだが残りの二人には対応が間に合わず、背後から両腕を粒子ビームで切断され、歯や顎の骨を砕いて口に無理矢理押し込まれたマナ・パルスライフルによって頭を吹き飛ばされる。

 瞬く間に戦場の制空権を奪ったクローンヴァルキリー達は縦に並んで滞空し、マナ・パルスライフルの照射を地上に浴びせた。

 粒子ビームの先にいたスピリットウルフの隊員達はすぐ近くで起きた爆発音に聴力を奪われた。方向感覚を失い、周囲を見回していると、上空から黒い塊が落ちてくる。

「なんだこれ……」

 隊員達の前に湿った音と共に叩きつけられたのは、まだ生きている同社所属のヴァルキリーの残骸だった。手足は付け根からもげ、頭部は鼻から上が肉塊になっていた。

「私、どうなっちゃったんですか? 何が起きたんですか? 目が見えないんです……体の感覚がない……足が痛いのはわかるけど……」

 スピリットウルフ社のPMC隊員達はヴァルキリーの残骸を放置した。助けて、助けて、目が見えないよと連呼する残骸は最終的に後退する味方のティーガー重戦車に大きな破裂音を立てて踏み潰された。まるで碾き臼のようなキャタピラの下で、鈍い音を立てながら少女の残骸が地面を湿らせる。

 空に少女達の――クローンヴァルキリーのくすくすという笑い声が響き始めた。ヴァルキリーや双方のPMC隊員が息絶えていくたび、クローンヴァルキリーの白い肌が赤みを増していき人間らしいものへと変わっていく。人殺しを楽しみ、人殺しの中で人間に近付いているのだ。

 地上で仁王立ちになり、両手にAK47自動小銃を持って味方の後退を援護していたスピリットウルフ社のヴァルキリーが腹部を粒子ビームに貫かれた。濃緑色のローブに生じた裂目から大量の内臓がぬめった音を立てて滑り出す。

「くっそ……」

 ヴァルキリーは必死の形相でその場に踏ん張り、内臓を腹に戻そうとするが、誤って自分の内臓を踏み、その場に転んで絶命した。

 その様子を笑顔を浮かべて眺めていたクローンヴァルキリーの一体に向けて、二両のティーガー重戦車が発砲する。恐ろしい破壊力を持つ砲弾を何発撃ち込まれても、マナ・フィールドは破れない。それでも被弾の衝撃でクローンヴァルキリーは痛めつけられた。スピリットウルフ社PMC隊員達はクローンヴァルキリーを取り囲むと、自動小銃から拳銃に至るまで大小様々な火器の掃射を浴びせた。やがてクローンヴァルキリーのマナ・フィールドは防御能力の限界を上回る量の攻撃を叩き込まれて崩壊、待ってましたと言わんばかりに放たれたティーガー重戦車の主砲弾が少女の右肘から先を消し飛ばす。

 無表情でその一体は残った左手で落ちていた自動小銃を拾い上げ、撃った。だがすぐに弾切れを起こし、迫り来る重武装の兵士達に背を向けて逃走しようとするが、足を撃ち抜かれてしまう。左肘だけで前に進もうとするが、間も無くして戦車のキャタピラという死の粉砕装置に機能しなくなった両足を巻き込まれた。悲鳴と共に少女の華奢な上半身が大きく仰け反り、胎児を通過させたことのない骨盤まで瞬く間に飲み込む。顔はトマトのように赤く膨れ上がり、目玉が血流と共に眼窩から飛び出した。次に肢体がキャタピラに吸い込まれ、クローンヴァルキリーを輪郭の無い塊として地面に刷り込んだ。

 

 エーリヒ・シュヴァンクマイエルとスピリットウルフ社の最精鋭部隊を乗せた数機のヘリは、その上空を高速で通過していく。

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