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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 RAID ON FINAL FRONT 1950
176/285

第三章1

 タカハタベルクの町並みは廃墟と化していた。

 夕暮れで緋色に染められるのは寮への帰路をクラスメイト達と笑って歩く学生達ではなく、ナパーム弾の高熱や爆風で歪に捻じ曲がった街頭や焦げて焼け爛れた街頭のシルエットだった。

「さっさと消毒しろ!」

 建物は崩れ、その傍らで山のように積み上げられた生徒達の死体にスピリットウルフ社の社員がガソリンをかけ、ライターで着火する。死体の処理が間に合わないためだ。高温多湿の環境で死体は急速に腐敗し、死ぬ前に受けた損傷が激しかったことがそれに拍車をかけた。

「おかえり! エリー!」

 不自然なまでに被害を受けていないスピリットウルフ社の営業所で暇を持て余していたノエルは、執務室のドアが開いて人肉を好む野犬ですら吐き気を催す死臭と共にエーリヒが入ってくるなり、彼に抱きついてキスをした。

「うぉんちゅう!」

 エーリヒの顎を両手で固定し、柔らかく適度な湿気を有した唇を舌で強引にこじ開ける。そのままノエルは彼を壁に押し付けて、がむしゃらな動きで舌をエーリヒの中で動かした。

 密着した唇の間からくぐもった声を出しつつ、エーリヒはノエルの舌を軽く噛んだ。ノエルは嬉しくなる。本当に嫌がっているのなら、舌を噛み千切るのが筋というものだろう。

 唾液の糸を伸ばして唇を離すと、エーリヒは自分の首筋や腰を女性のように摩りながら、「だから……僕達は上官と部下だ。こういうのは良くないよ」と頬を染めた。

「だけどそれ以前に男と女。オスとメスだよ」

「もう……」

 エーリヒは気恥ずかしそうな様子で小さく呟くが、瞬時に奥手な青年からビジネスマンに限りなく近い軍人へと表情を変える。

「シュネーヴァルト学園から正式に新しい受注をもらった。トビシマ・アイランドでの攻勢を続行する」

「いくら出精値引したの?」

「百三十七万ドルだ」

「へぇ、『緊急かつ切迫した必要性がある』契約か。本校で大量虐殺をやられたらそういう風にもなるよね」

「競争入札の相手はいなかったよ」

 デスクに戻ったエーリヒは台の上に載せた鈴蘭に水をやり、葉の埃を布で丁寧に拭いながらそう言う。

「ただ、劣勢にある状態から戦術的勝利を繰り返して状況を打開する場合、最も効果的なのは効率的な敵の撃破……要するに一発逆転と学園の責任者に話してある」

「つまり越境攻撃。この間の続きだね」

「うん」

 エーリヒは冷蔵庫を開け、酒の瓶の中から牛乳の紙パックを選んで取る。そして椅子に座って口をつけた。

「昔は世界平和の担い手になるには高いハードルを越えなければならなかった。でもSACSがそのハードルを焼き払い、灰を撒き散らした。その灰から生まれたのが僕達PMCだ」

「それでもプロトタイプの九割がモルモン教徒や再生派のキリスト教徒だったら問題無かったんだけど」

「全くだね」

 エーリヒは溜め息を吐く。

「現実世界にいるのは命のやりとりというハイリスク・ハイリターンのアドレナリン全開スリルを楽しみ、防弾チョッキや重火器を身に付けるとゾクゾクするようなプロトタイプばかり」

「それでも……だとしても」

 眼鏡の奥でノエルは爬虫類じみた瞳を緩ませる。

「契約して代金を頂き、最高のサービスをクライアントに提供するのが私達『戦争請負会社』じゃないか」

 

 オフィスからノエルが去ったあと、エーリヒはとある人物に電話をかけた。

「ハロー?」

 すぐに受話器から声が聞こえた。

 声の主はつい数時間前、エーリヒの母校にしてスピリットウルフ社と契約を結んでいるシュネーヴァルト学園を襲撃したキャロライン・ダークホームだった。

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