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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 RAID ON FINAL FRONT 1950
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第二章7

 対空砲陣地の中では、トラックの荷台に載せられたソ連製のZPU‐4対空機関砲が空に向けて撃ちまくっていた。

 ダークホーム社は高高度と中高度をライントホター・ツヴァイに任せ、低高度は対空機関砲に防空任務を担わせる計画だったらしい。スピリットウルフ社の航空機がミサイル攻撃を嫌がって高度を下げれば対空機関砲の餌食になり、対空機関砲の弾幕を避けて高度を上げればミサイルが迫ってくるという仕組みだ。もっとも、ミサイルはノエルに無力化されたが。

「楽しそうだな。私も仲間に入れてくれ」

 ソノカは急降下する。対空機関砲の弾丸が迫るが、飛行機と違って人間サイズのヴァルキリーにはそう簡単に命中しない。ヴァルキリーが通常兵器に対して優位に立てるのはその小さいサイズにも理由があった。とにかくサイズが小さくて、通常兵器相手の戦闘を想定して作られた兵器では狙いにくいのだ。それでいてヴァルキリーの火力や機動性は戦車や戦闘機を上回るものだから手に負えない。

 ソノカは地上に取り付くと目の前で弾薬ケースを運んでいたダークホーム社の女子生徒の背後に回り込み、MP44自動小銃の木製ストックを思い切り後頭部に打ち付けた。鈍い音と共にリボンが付いた髪の毛もろとも後頭部が陥没し、目から泡立った血が噴き出す。

 湿った肉の音に気付いた別の女子生徒が二名、手元の銃を取ってソノカに向けようとするが、それよりも早く彼女の手はホルスターからモーゼル・シュネルフォイヤーを抜き取り二発ずつ銃弾を二人の頭に撃ち込んでいた。女子生徒の額から内部に入り込んだ銃弾は頭蓋骨を割り、脳味噌を飛び散らせた。

 ソノカはモーゼル・シュネルフォイヤーをホルスターに差し戻し、疾走の開始と同時にピンを抜いた手榴弾をトラックの運転席に放り込む。爆発が起き、鉄の破片がマナ・フィールドを激しく打った。

 別のトラックに女子生徒が駆け込み、急いで逃げ出そうとする。

「逃げるぐらいなら出てくるなよ」

 ソノカはトラックのボンネットによじ登り、

「どうせ入学式では『世界平和のために命を捧げます』とか言っていたんだろう。笑顔でな」

 膝立ちになると、ソノカは左手でトラックの天井を押さえつつ右手に携えたMP44自動小銃の銃口をフロントガラスに突っ込んだ。

「だったら殺される直前になって悪あがきするなよ。そういうのは興醒めするんだ」

 ドアを開けて女子生徒が逃げ出す前にソノカは零距離射撃を運転席へと浴びせる。至近距離から大量の銃弾を浴びた少女の頭が金属バットで思い切り殴られた南瓜よろしく粉々に砕け散った。

「死ね!」

 回転しながら千切れた人体の破片がそこかしこに転がる地面に倒れ込んだソノカの横に、今度は銃剣が突き立てられる。

「クソッ! クソッ! チクショー!」

 顔を恐怖に引き攣らせた女子生徒は力ずくで地面に突き刺さった銃剣付きAK47自動小銃を引き抜こうとするが、上体を起こしたソノカが左腰の鞘から抜いたナイフを女子生徒の首筋に突き刺す方が早かった。

 ソノカは手首の力を利かせてナイフの刃を回転させ、内部の頚動脈や神経をズタズタにしてから引き抜く。

 背後から「殺してやる!」と声が聞こえ、叫びが鼓膜を激しく振るわせた。

「また女か。もう殺し飽きたぞ」

 ソノカは背後に迫っていた女子生徒の喉にたった今殺したばかりの相手の血が付いたナイフを刺し入れ、思い切り顔面を殴りつけた。骨を粉砕された鼻とざっくり切り裂かれた唇から噴き出した生暖かい血液がソノカの傷跡が走る鼻筋や白過ぎる肌を汚す。

「男を殺したい。男をよこせ」

 周囲の敵に向かってソノカはMP44自動小銃の掃射を始めた。横薙ぎの銃弾の波で奮戦する女子生徒の上半身と下半身が真っ二つになり、千切れた手足が大量生産される。

「弾切れか!」

 ソノカがマガジンを新しいものへと差し替えようとしたとき、凄まじい閃光が瞬いて世界は真っ暗になった。

 爆煙が沸き上がり、視界は完全に塞がれる。大気は撃ち砕かれた壁材と硝煙に白い粉塵で満ち満ちてしまった。

 ソノカは煙の向こう側に圧倒的な数の敵が持つ無言の圧迫感を感じる。

 煙の中から無数の自動小銃の曳光弾が激しく撃ち出されてきた。

 一旦伏せて煙の中に一連射した上で、ソノカは破壊されたZPU‐4対空機関砲の影へと隠れる。他に隠れられそうな場所は無かった。

 反撃としてソノカはMP44自動小銃の銃身下に付いたグレネードランチャーを放つ。

 煙の奥で炸裂光が煌き、断末魔の悲鳴が重なり合って聞こえたが、敵の数は一向に減った様子はしなかった。倒しても倒しても敵は次々に現れた。

「オペラハウスへ、こちらローエングリン1‐2。対空砲の無力化に成功。だが敵に包囲されました。オーバー」

 インカム越しの無線で、ソノカはスピリットウルフ社の最高司令官を呼び出す。

 戦場は自分一人の力で生き延びるものだとソノカは考えているが、それを妄信しているわけではない。自分一人ではどうしようもできないことはあるし、有効でよりリスクの小さい打開策があれば迷わずそちらを選ぶ。

「大丈夫だよローエングリン1‐2。そう来るだろうと思って、既にガンシップを差し向けてある」

「了解。ガンシップへ繋いでもらえますか?」

「もう繋いでる」

 すぐに無線機からエンジンの爆音混じりの声が聞こえてきた。

「ローエングリン1‐2、こちらはガンシップ――フーゴー1‐3です」

「フーゴー1‐3へ、構わないから全弾ここに落としてくれ」

「そんなことはできません。ローエングリン1‐2、スモークを炊いて下さい」

「ローエングリン1‐2よりフーゴー1‐3へ、了解した。今スモークを炊く。スモークが炊かれている地点以外は全て敵がいると思っていい」

 ソノカは適当な場所にスモークグレネードを投げ、一目散に物陰へと隠れた。そしてマナ・フィールドを展開する。

「派手にやります。頭を低くしていて下さい」

 旧式となったユンカースJu52輸送機の機体左側キャビンに四連装の二十mm機関砲を搭載したガンシップは、ゆっくりと旋回しながら地上へ掃射を開始する。

 ガンシップは味方であるにも関わらず、ソノカの口の中に胃液の味がこみ上げてきた。

 中庭に展開していた敵兵が機関砲弾を受けて相次いで四散し、千切れた手足が地面に転がった。

 敵兵は自動小銃を空に向けて撃つが、機関車にポップコーンを投げつけるようなものだった。

 迷彩塗装を施された三発のガンシップは一方的に『地べたを薄汚く這い回る蛆虫共』を始末していく。着弾のたびに土煙が空高く伸び上がり、短時間の間に連続して炸裂する爆煙と土砂のキノコ雲が夏の眩しい陽光を完全に遮った。

 ダークホーム社PMC隊員の勢いがみるみるうちに失われ、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃走を始めた。

 同じようにガンシップに襲われた経験を持つ人間として、ソノカは敵兵がどんな思いを胸中に抱いているかを理解できた。ガンシップによる抵抗できない一方的な暴力の行使に直面すると、脳裏に一瞬『自分は確実に殺される』という恐怖が走る。そしてムカデが何匹も背中を駆け回っているような悪寒が心の奥底に封じ込めたはずの弱気の虫を呼び起こす。虫は瞬く間に全身を駆け回ってパニックをもたらし、人間から正常な判断力を奪うのだ。

「こちらローエングリン1‐2、敵の壊走を確認した。いいぞ、もっとやれ」

「フーゴー1‐3、了解。もう一度掃射します」

 一度『空からの死』を対空砲陣地に振り撒いたガンシップは再び掃射コースに入る。そして二十mm機関砲の火蓋を切った。

 爆発音じみた発射音が鳴り響き、ガンシップは回避行動をとる素振りすら見せず、堂々と飛行して機関砲弾の雨を地上に降らせる。土煙を上げて大口径の銃弾が地面に突き刺さり、対空機関砲の残骸や生い茂る木を徹底的に破壊し尽くした。

 着弾の衝撃が激しく大地を揺さぶり、球体状のマナ・フィールドを展開したソノカにも襲い掛かる。全身の骨が砕けてしまうのではないかと思うぐらい激しい。

 三つのエンジンの緩慢な爆音が絶え間なく響き渡り、それが近付いてくると機関砲の発射音が混じる。切れ間無く続く轟音の中には絶命していく敵兵の断末魔の叫びも混じっていた。悪夢以外の何物でもない。

「あれは世界を掻き回して殺すんだ」

 ソノカは夏の眩しい太陽の中をゆっくりと旋回する角ばったシルエットを見上げる。

 何だか嬉しくなって、気持ちが高ぶってきた。自分は充実感を得られる場所にいるとソノカは素直に思う。

 それは何故かはわからない。でも楽しい。

 理由なんてどうでもいい。楽しいことをする。

 ソノカにとって楽しいこととは戦うことだ。

 だから戦い続ける。

 楽しいなら、それでいいじゃないか!

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