第一章8
夕方になると、タカハタベルクの市街地は戦場から屠殺場めいた空間へと変わった。
「こんにちはー! 元気してますかー!」
自動小銃と軽機関銃の集中射撃を浴びて撃破された車両の窓から、ノエルは車内を覗き込む。
「くたばれ……」
左目から神経だけで繋がった眼球を垂らし、顔の右半分を炭化させたダークホーム社の女性隊員がノエルに悪態をつく。
「おお。生きてる生きてる。ナイスでーす。もう一人はどうかな?」
もう一人の女性隊員は微動だにせず先ほどの女性隊員の膝に突っ伏していた。背中には噴火口のような銃創が幾つも穴を穿っている。
「使えそうなのはこれだけ?」
「他は統括本部長が解体しちゃったじゃないですか」
「うわー。段取りミスった。ごめん」
「絵的にアレですけど、もうコレ使うしか無さそうですね」
「しょうがないね。てへっ、反省反省」
部下の隊員と打ち合わせを終えたノエルは中にいるダークホーム社の女性隊員ごと車を燃やすよう言い、隊員達はその通りにした。やがてガソリンが燃え尽きると、ノエルはまだ煙を上げて燻っている車体から炭化した死体を引きずり出す。
「君もする? 楽しいよ」
「わ、わ、私は遠慮しておきます」
先ほどの新米隊員は気を失い、担架で運ばれていってしまった。ちょっと悪いことをしたなぁとノエルは反省する。
気を取り直したノエルは黒焦げになった死体を何度も殴りつけ、硬いブーツの底で踏み潰す。執拗に殴られ続けた死体の頭はすぐにもげてしまった。
「ナイスだね!」
十分に死体を損壊させたノエルは、自らの手で死体を広場の木に吊り下げた。死体の首に『私は売春婦。そして、それを誇りに思う』と書かれたプラカードを付けた上で。
「いいねぇ。実に前衛的だ」
車両に乗り、R&R(休息と息抜き)のためグリーンゾーンに戻るノエルには、今から何が起きるかわかる。
バイオレンスと人の不幸が三度の食事より大好きな各校の報道委員会は喜んで今ノエルがデコレートを施した死体の写真を校内新聞の一面にするだろう。そして最初の情報が与えたショックが薄れ、報道委員達が自己反省に終始するまでの間に、面目を潰されたダークホーム社は報復に乗り出す。
表向きはそういうことになり、公式記録にもそう記される。
今から茶番劇が始まる。
世界平和のための茶番劇が。