第一章6
次々にダークホーム社の車両がタカハタベルクの街中にできた戦闘エリアに急停車し、学生服にチェストリグ、自動小銃という井出達のPMC隊員が降り立つ。彼らはすぐに突如襲撃を仕掛けてきたスピリットウルフ社という『同業者』に向けて発砲し、撃ち返されてくる銃弾を車両という遮蔽物で防いだ。
機関銃の弾丸に使われるコルダイト火薬の悪臭の中戦っていた一人のダークホーム社女性隊員が鋭い音を聞く。何かが弾け飛ぶ感覚が腹部に走り、急に両脚から力が抜けて地面に倒れ込んでしまう。立ち上がろうとした途端、内臓が溢れ出した。
「何ッ……コレ……嫌ッ……!」
女性隊員は湯気のたつ自分の臓物を必死で戻そうとしたが、上空をフライパスしたソノカに銃撃を受け、頭を血煙に変えられる。
「確認殺害戦果十五人目。二十人殺すと八千ドルのボーナス」
ダークホーム社と同じように車を遮蔽物にして戦うスピリットウルフ社の隊員達の横をソノカは駆け抜けた。
戦闘前の神経の昂ぶりと緊張感から一挙に解き放たれたソノカの体は戦場という空間で躍動する。
ソノカは高速でダークホーム社PMC隊員達の上空を通過し、その背後でタブク自動小銃を連射した。銃撃で次々に相手の手足が千切れ、臓物がぶちまけられる。銃弾を喉に受けたダークホーム社の女性隊員が夏の晴れ渡る青空を見上げ、膝から崩れ落ち、空薬莢だらけの地面に前のめりになって倒れる。隣にいた別の女性隊員の胸が弾け飛び、胸骨を剥き出しにして内蔵を垂れ流す。
更に別の女性隊員の頭部が爆ぜ、脳漿がレンガ造りの壁を汚した。
ソノカは着地して左膝を曲げ、体重を前方にかけてタブク自動小銃のトリガーを引く。押すような柔らかい反動が肩を刺激する。心地良い。弾が無くなるとチェストリグから取り出した新しいマガジンを横にしてタブク自動小銃のマガジンキャッチを押す。古いマガジンが地面に落ち、ソノカは新しいマガジンを銃に差し込む。そして間髪入れずに下から手を反対側に通し、小指の下側で銃の本体右側にあるチャージングハンドルを引いた。
「そういえば今何時だ?」
四十人程殺したとき、思い出したかのようにソノカは手にした時計を確認する。
「もう夕方の五時か」
背部飛行ユニットから青い光を噴射してソノカは戦場に背を向ける。普段は朝の九時から夕方五時までしか働かないというのが彼女のポリシーだった。殺害確認戦果によって支給されるボーナスについても無理はしない。
「こちらローエングリン1‐2、RTB(Return To Base・帰還を意味する)」
「グリューン6‐4よりローエングリン1‐2、了解」
強力なヴァルキリーが身勝手な理由で戦場から去っても、地上で戦うスピリットウルフ社の隊員達は一切文句を言わない。
より強力にして凶悪なヴァルキリーが今から戦場に現れるからだ。