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第三章1
一九四九年五月十二日。
空には鉛色の雲がぎっしりと詰め込まれ、低く重い蓋のように世界を覆っていた。
モサドの魔の手に怯えるヴォルクグラード学防委員会の男子生徒が隠れる別荘――その背後に広がる海中を、ハイドロジェットをレイルに取り付けたシャローム学園海軍のヴァルキリーが潜航していた。濃紺のローブを纏い、酸素マスクで顔の下半分を覆ったヴァルキリー達は足のつく高さまで移動すると、水面から上体を出して双眼鏡を覗き込んだ。
「モサドの情報通りだ」
「私は頭を狙う。そっちは心臓を」
「了解」
シャローム学園海軍特殊部隊シャイエテット13に所属する二人のヴァルキリーは息を合わせ、ほぼ同時にバルコニーを闊歩するターゲットの頭と心臓を撃ち抜く。
目標の死亡を確認した二人はまた海中に消える。後は波の音が響き渡るだけだった。




