第二章6
アルカ全校共通の規格で作られた、長方形でこれといった特徴のないヨーロッパ風の巨大な建物――ヴォルクグラード人民学園の学生寮――その一室にある、マリア・パステルナークの部屋を同居人のユーリは掃除していた。
「全く姉さんったら、いつまでたってもこうなんだから」
一歩踏み出すなり猛烈に出て行きたくなる衝動に駆られるマリアの部屋は至るところゴミだらけで何故こうなるのか掃除するたびにユーリは不思議でしょうがなかった。
ユーリは居間で点けっぱなしになったテレビから流れる校内放送の音声を聞きつつ掃除を進めた。なんでも本校で爆弾テロが起き、ヴァルキリー狩りが行われているらしい。だがユーリにとっては大して関係のないことだ。この学生寮は姉の息がかかった精強なタスクフォース501の兵士達によって完全に守られているし、第一テロリストが本国で言えば民間人である自分を襲う理由などあるはずがない……彼はそう思っていた。
突然、来客を知らせるチャイムが鳴った。
「はい。今行きます」
ユーリはゴミ袋を置き、エプロンを外して玄関へと歩いていく。
「こんにちは! 英国カーレスリング協会から来ました!」
ドアを開けると、そこには両手でハートマークを作ったヴァルキリーの笑顔があった。
「ラブリーエンジェルなノエルちゃんです!」