第一章11
Q――グリンゴールド中佐は戦場で人を殺すことについて何の感情も抱かなかったのでしょうか。お話を聞いている限り、何の躊躇も感じていないように思えます。
A――質問に質問を返して大変申し訳ないのですが、人殺しについての感情とはどういうものでしょう?
Q――人を殺すことについての罪悪感や嫌悪感です。
A――わた……いえ、グリンゴールド中佐は戦場において一度もそういった感情を抱いたことはありません。
Q――それは何故だと思いますか?
A――その理由は幾つかあります。まず第一に、わた……グリンゴールド中佐は本国の精神科医が言うところの『生まれた時点で既に殺人への嫌悪感や抵抗感が欠落している例外的な二%』なのです。通常のプロトタイプやヴァルキリーは先天的に戦闘を好む性質を持っているとはいえ、九十八%の個体は長期間休まずに戦わせるとBFでのストレスや殺人への罪悪感で精神に異常を来たしてしまいます。しかし彼女は違う。
Q――他の理由も教えては頂けないでしょうか?
A――二つ目に、グリンゴールド中佐はBFにおいて敵と認識した存在を人間と思ってはいません。BFで彼女が銃口を向けるのは人間の言葉を話し、撃てば血を流す『人間に似た何か』に過ぎません。身近であればある程、自分達と姿が似ていれば似ているほど、殺す側は殺される側と同一化しやすい――つまり殺せなくなるのです。しかし殺される側は自分達と同一の存在ではなく、明確に自分達と違う存在だと認識できれば、同族殺しへの本能的な抵抗感は霧散します。
Q――では、なぜ今まで中佐は生き残ることができたと思いますか?
A――単に標的が出てくれば、標的よりも早くそれを撃つことができたからです。
Q――いくら人間扱いしていないとはいえ、やはり標的と人間は違うでしょう。
A――確かに標的と違ってグリンゴールド中佐が撃った相手は何かを喋っていたし、手にはAK47自動小銃を持っていた。でも、人を殺した気分にはなりませんでした。基本的には訓練と同じなんです。
Q――どのような訓練を行っていたのですか?
A――申し訳ありません。訓練内容については守秘義務があるため詳細にはお話できません。しかし、私がこれから話す内容である程度は察することができるでしょう。