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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 DOWN THE RABBIT HOLE 1949
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第一章10

 深夜……小汚い出で立ちのタスクフォース599隊員達はサカタグラードとショー&ナイ・エアベースを結ぶハイウェイ112沿いに展開を終了していた。

 かつてヴォルクグラード人民学園の英雄と呼ばれたヴァルキリー、マリア・パステルナークの亡骸が今でも埋まったままと噂される道路沿いの地面には錆びてひしゃげた砲弾の破片が幾つもその鋭利な切っ先を覗かせ、干からびて元の三分の二以下の大きさにまで小さくなった名も無き兵士達の死体も所々に転がっていた。

「来た」

 岩や戦車の残骸に隠れた兵士達は、指揮官である元民間軍事企業SACS隊員のヴァルキリー、ミネット・メスターフェルドの声で一気に緊張感を高めた。

「みんな安全装置を外して」

 長いツインテールの髪をした彼女の命令。土と戦闘服の擦れ合う響きにAK47自動小銃のフルオートとセミオートを切り替えるセレクターレバーが上下する金属音が混じる。

「いい子よ……」

 ヴァルキリー特有のマナ・ローブを纏ったミネットはパッドで覆われた右膝を地面につけ、左膝を前に出して他の兵士と同じようにAK47自動小銃を構えた。

「そのまま進んで……」

 白い夜光塗料が塗られたアイアンサイトを覗き込み、暗闇にぼんやりと浮かぶそれの先にゆっくりと進む車列の先頭を捉えたまま銃口を横に動かす。

 先頭の車両がIED(注1)で吹き飛んだ直後、ミネットは大声で「撃て!」と命じた。

「どんどん撃て!」

「撃ちまくれ!」

 銃撃が車列の先頭に集中する。車体から激しい火花が散り、穴だらけになって煙を噴き出した車が停まった。ドアが開き、ボロ雑巾のようになった運転手が地面に倒れ込む。

「あんまり悪く思わないでよ。お腹が空いたら誰だってイライラするもの」

 ミネットはストックを通じて真後ろに押すような反動を肩に走らせながらトリガーを引き続ける。弾切れになると空になったマガジンを抜き、チェストリグ(注2)から新しいマガジンを取り出し、AK47自動小銃に突っ込んでチャージングハンドルを引く。

「最後尾を潰して!」

 ミネットが叫ぶと同時に別働隊がハイウェイ112を行く最後尾の車両を攻撃した。ポンプアクション式のチャイナレイク・グレネードランチャーから撃ち出された榴弾を浴び、爆発と共にトラックの窓ガラスが割れて炎が噴き出す。

 火の着いたタイヤから猛烈な勢いで黒煙が噴き上がり、火達磨になった運転手のヴォルクグラード兵が絶叫を上げて地面に倒れ込み激しくのた打ち回った。一瞬、物音が途絶えた直後――またもや爆発が起き、彼の頭や手足が千切れて飛んだ。

「撃て!」

「皆殺しにしちまえ!」

 口の両脇に溜まった硝煙で汚い縁取りを描くタスクフォース599の隊員達は一斉に物陰から飛び出し、力の限りトリガーを引いて身動きの取れなくなった車列と応戦しようとする書類上は同校の生徒達に銃弾の雨を降らせた。自分達が手にした自動小銃について前に立つと危ないことぐらいしか知らない彼らは碌に狙いなど定めてはいなかったが、それでも銃口の先で次々に死と破壊を産み出した。

「そろそろ仕上げね」

 身の丈よりも大きいマナ・サイズ――ブラックボックス化されたマナ兵器――に光の刃を展開させ、ミネットは背部ユニットから噴射して車列へと突進した。

 叫びながらヴォルクグラード兵達の前で青い粒子を帯びた鎌を振り上げ、右上から左下にかけて彼らが手にしたPPSh‐41短機関銃ごと胴体を両断する。間髪入れず、次に左下から右上にかけての斬撃を別の兵士に浴びせ、これまた両断する。

 もう何度経験したかわからない刃先で肉が抉られる感触をミネットが味わい、無残に切り刻まれた死体に背を向けた瞬間、自分達の装備したチャイナレイクではないグレネードランチャーから榴弾が放たれる気の抜けた音が彼女の鼓膜を打った。

「――ッ!?」

 ミネットが振り向いたその先で爆発が起き、吹き荒れる火と鉄の嵐の中で木っ端微塵になった人体が四方八方に飛び散った。

「新手だ!」

 真っ赤に焼けた鉄の塊がそこらじゅうを飛び交い始める。

「ぶっ殺せ!」

「撃ちまくって弾幕を張れ!」

 世の中の全ての銃がAK47自動小銃と同じように撃てると思っている、出自さえ怪しいタスクフォース599の兵士達は口々に悪態をつきながら狙いも定めずに乱射し始めた。だが右に銃口を向ければ左から、左に銃口を向ければ右から撃たれて血塗れの肉片を撒き散らした。

 次々に殺害される仲間の姿に恐怖し、もう嫌だと叫んで一人の兵士が銃を地面に叩き付けて逃走を図った――直後、トラックの陰から伸びた手が彼の後ろ襟を掴む。続いて指の第一関節から先が露出したオープンフィンガーグローブが口を塞ぐと、後ろ襟を放したもう一方の腕が背後から伸び、兵士の喉に指を突き入れて動脈を引き摺り出した。

 青い輝きがトラックの陰から空へと飛び上がる。輝きから伸びた曳光弾が空間を引き裂き、兵士達の頭や手足が千切れて舞った。鮮やかな血の花が咲き誇る。

「私は帰ってから考えることがあります」

 殺される――反射的に地面へと伏せたミネットの視線の先で、突如戦闘に加わったヴァルキリー……シャイエテット13のサブラ・グリンゴールドが静かに声を上げる。

「それは殺し損ねた敵のことです」

 サブラが纏っていたのはオリーブドラブのシャローム学園軍の軍服で、肘や膝はパッドで覆われている。青い粒子を絶えず放出する背中のユニットからは左右にイスラエルの国籍マークが描かれた前進翼が伸び、その前にはカナード翼(注3)が取り付けられている。チェストリグには明らかに限界量を超えた数のマガジンが押し込まれ、手を覆うのは第一関節から先が出る形式のオープンフィンガーグローブだ。

 サブラは地上の目標を視認するなり四十五度の角度で急上昇、ある程度の高度にまで達すると身体を反転させて目標へ急降下した。

 敵兵が放つ火花と炎と曳光弾が薄い光を放つマナ・フィールドの周囲で炸裂し、サブラは万が一の直撃を避けるため灰色の煙の中をジグザグに飛行した。

 サブラは制動をかけ、左足を前に出し、右足を下げる形で股を開き、少し前屈みになってガリル自動小銃を構える。左手でハンドガードを保持し、右手でグリップを握る。呼吸に注意し、優しく引き寄せるようにしてトリガーを引くと肩が真後ろの方向への反動で揺られた。銃口から飛び出した七・六二ミリ弾は薄暗い土地のあらゆる場所から撃ち上げられる曳光弾とすれ違い、その先にいた敵兵の頭や胸を貫いて絶命させる。

 無表情のままサブラは濃密に張り巡らされた銃弾の網に向け、頭から突入していく。目標は雑魚の敵歩兵ではなく虎の子のヴァルキリーだ。

「それぐらいで!」

 とあるタスクフォース599のヴァルキリーは銃撃を浴びて撃破された仲間の手から放り出されたB‐10無反動砲を空中でキャッチし、高速で迫り来るサブラに放つ。

「その武器は対空用ではありません」

「ほざけ!」

 長い黒髪を揺らして迫り来る砲弾を回避したサブラは瞬く間にそれを撃ったヴァルキリーとの距離を詰め、彼女に対して強烈な蹴りを浴びせる。鈍い音を立てて硬い軍用ブーツに覆われた踵が少女の柔らかい下腹部にめり込んだ。

「おの――」

 ヴァルキリーは最後までおのれとは言わせてもらえなかった。サブラは間髪入れずに強烈な左ボディブローを彼女の右脇腹へと叩き込み、内臓に激しい衝撃を走らせ、肋骨に幾筋もの亀裂を生じさせた。ヴァルキリーが悶絶して身体を捩らせると頭部にサブラの膝が突き上げられ、彼女の視界は暗転、脳が激しく揺さぶられた。

「舐めるんじゃないわよ! ユダヤ人の癖に!」

 切れた目尻から鮮血を迸らせて体勢を立て直したヴァルキリーが再装填済みのB‐10無反動砲を構えた時には、サブラは既に彼女の背後へと回り込んでいた。

 自分は間もなく殺されるという現実をヴァルキリーが察した瞬間、幾筋もの火線がガリル自動小銃の銃口から伸び、彼女の身体を背中側から撃ち抜いた。胸や腹部に穿った穴から歪んだ形の銃弾が飛び出し、直後に赤黒い血液が勢い良く噴き出す。

 こうしてサブラは三分足らずの間に十数名の敵兵とヴァルキリー二名を血祭りに上げた。


 注1 有り合わせの材料で作った即席爆発装置。

 注2 前掛け式の予備マガジン入れ。

 注3 運動性能向上のための前尾翼。

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