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第一章7
「モサドは私の命を狙うに違いない。助けてくれ」
事ある度に反ユダヤの言動を繰り返して人気取りを行っていたヴォルクグラード学防委員会の男子生徒は旧友の学園軍将校に相談を持ち掛けた。
「当たり前だろ。寝言は寝て言え」
電話口で誰にも聞こえない薄い声を唇から思わず零してしまった学園軍将校はそれを掻き消す程大きく力強い調子で「なんてことだ! それは大変です。私にお任せください。何とかしましょう!」と約束した。
数日後、将校から男子生徒に安全が確保されるまで海沿いの別荘に隠れているようにとの連絡があった。彼が力強い口調で「別荘の警備は極めて厳重で、蟻の入り込む隙間もありません。そして背後は海です。ご安心を」と付け加えたので男子生徒は了承した。しかし男子生徒は、将校の声にヘブライ語訛りがあることに気付かなかった。