第三章1
「エレナ・ヴィレンスカヤが一人で出撃した?」
一九四八年九月三日――三時間の短い仮眠から目覚めたエーリヒ・シュヴァンクマイエルはサンキョ・デポに置かれたグレン&グレンダ社製大型モニターに流れるヴォルクグラード人民学園とガーランド・ハイスクール双方の生徒会役員が揃って停戦に関する声明を出す臨時放送を見る前に、ノエルから新しい問題について報告された。
「モサドからの情報によると彼女はルナ・マウンテンに向かっているよ」
「わかった。グールスキン作戦の開始を前倒しにする。準備が終わり次第、君も出撃を」
外に出たエーリヒはZPU‐4対空機関砲やB‐10無反動砲を荷台に積んだ日本製ピックアップトラックの車列の前を歩きながら話す。
「急だね」
「自由ヴォルクグラード軍はラミアーズやSACSと違ってプロトタイプ達が共感できる明確かつ筋の通った理由を持っている。もしも戦いが長期化してしまえばアルカ各校で燻ってる僕達への不満分子が彼らに味方することだってあり得るんだ」
「オッケー。了解」
「あの……」
頷くなり抱き付いてきたノエルの開いたジャージの胸元から溢れそうになっている豊満に触れたエーリヒは声を詰まらせてしまう。
「じゃあ、そろそろ私の方も前倒しにしてもらえないかな?」
「えっ……いや……その……わ、わかりました……でも初めてだから……」
艶やかな恍惚の微笑を浮かべるノエルにぐっと腰を抱き寄せられたエーリヒは何故か敬語で応じつつも決心を固め、目を瞑り、震えながら彼女に唇を近付けた。




