第二章6
「エレナ」
日が落ちつつあるショナイ平原のSW社前線基地で明日に備えて一人鉈を研いでいたエレナは突然、自分を呼ぶ懐かしい声を聞いた。
「同志大佐!?」
弾かれたようにエレナが振り向くと、そこには風に揺らぐ草原の中で琥珀色の瞳を持つ少女が濃紺の髪を揺らす姿があった。いつの間にか周囲も晴れ渡る青空になっている。
「同志大佐……」
エレナは鉈を落として立ち上がり手を伸ばす。
「……ーリを頼む。あの子はルナ・マウンテンにいる」
しかしエレナが最も敬愛したヴァルキリーは彼女が近付こうとすればする程、彼女が触れようとすればする程、遠く遠くへ離れていく。
「同志大佐! 待ってください! 大佐!」
そこでエレナは我に返る。自分の周囲には青空の下に広がる草原などなく、ただSW社の兵士達が基地内でT‐34/85中戦車に榴弾を積み込み、その傍らで日本製ピックアップトラックの整備を進める殺風景な光景だけが広がっていた。
「私は馬鹿な女だ。同志大佐はもうこの世にいないというのに」
エレナは使い古された自分のマナ・クリスタルを見た。
「貴方が言ったからではない。これは私自身の願いによって行うことです」