第二章5
「子供達の殺し合いによって守られる平和に価値はない!」
「グレン&グレンダ社はアルカの真実を公開しろ!」
世界中の都市と同じように隕石落下の傷跡が生々しく残る南アフリカ共和国の首都プレトリアでもユダヤ人に支援されたエーリヒ・シュヴァンクマイエルがアルカの真実を暴露したことに端を発する反グレン&グレンダ社のデモ行進が行われていた。
「子供達の死を利用するな! 子供達の死を利用するな! 子供達の死を利用するな!」
親からアルカ学園大戦とは『戦争のようなゲーム』や『子供同士の戦争ごっこ』であると教えられ、犬や猫の耳と尻尾を生やしたカラフルな髪の美少女達がアトラクションめいた戦いを繰り広げる創作物に触れて育った人々は大声を上げて大通りを進む。
「お電話ありがとうございます。スピリットウルフ社でございます」
殆ど警察同然のグレン&グレンダ社警備員が催涙ガス弾や警棒による殴打でデモ隊に制裁を加える一方、シャローム学園からSW社に出向しているレア・アンシェルは夜の十二時を回った今も事務仕事に明け暮れていた。
「はい。お世話になっております」
白人だけが住むことを許されている区画の一角に複雑な法手続を経て作られた一見するとありがちな高級住宅にしか見えないレアの職場――SW社の本社がある。
「ハイスクール・エウレカの再建に伴う各種教練ですね。畏まりました」
アルカにおけるオーストラリアの代理勢力からの電話を受けたレアは社員情報が登録された端末を素早く操作し必要な人員を手配、経費の見積書をプリントアウトする。
「それでは宜しくお願い致します」
レアが通話を終えるなり、すぐに次の着信が入った。
「あーもうちょっと待ってなさいよ! ていうかなんで事務担当が私だけなのよ!」
SW社が成功した理由は非正規戦に優れていたことと大きな法人構造の中にあったことだが、まだまだ至らない部分も多い。これはその最もたる例だ。
「ふぅ……」
ふと一段落ついて、レアは同じようにSW社に出向している友人のサブラ・グリンゴールドは大丈夫だろうかと心配になる。自身を『感情を持たない歯車』と称する、堅物で実は心優しい少女はSW社の狂人達と上手くやっているだろうか?
「考えてもしょうがないわよね……」
暫くレアの悩みやストレスは解消されそうになかった。