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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 YOU ARE NOT ALONE 1948
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第二章2

「楽できるのは昨日までだぞ!」

 ガーランド・ハイスクールの艦隊が総攻撃を受ける七時間十二分前――夜九時を回ったサンキョ・デポ内の訓練施設では学生服の上に防弾ベストを羽織り、頭に無地のヘルメットを被ったヴォルクグラード兵がSW社の兵士から指示を受けつつ訓練を行っていた。

「二番は負けの一番だ!」

 先頭が壁の向こう側を覗き込み、その兵士が意を決して飛び出すのと同時に後続の三人も続く。最後尾の兵士は一旦後方を確認してから走り出した。

「自分を可哀想だと思うな!」

 兵士達は教官役の生徒から怒鳴られながら建物の中に入る。一人が冷蔵庫の上の扉を開け、膝立ちになったもう一人がその中にあるターゲットをウージー短機関銃で撃つ。

「自分を可哀想だと思うな!」

 更に大きな怒鳴り声が鳴り響く中、兵士の手によって開かれた冷蔵庫の下の扉の中にあった新しいターゲットに九ミリ弾で穴が穿たれた。

「ヴォルクグラード学園軍が狼に戻るにはあと数年かかりそうですね」

「比較対象が悪すぎるというのはあるけども……同感だよ」

 施設の二階から訓練を見ていたエーリヒと副官は揃って眉間に皺を寄せた。

「次のBFもSW社が主力になると思う。MACT時代と同じやり方で行こう」

「一頭の狼に率いられた百頭の羊ですな」

 二人は元ヴォルクグラード人民学園所属で油染みた作業着の襟元から青白のボーダーシャツを覗かせる整備兵達が民間に払い下げられたものを複雑な手続きを経てSW社が手に入れたフランス製アルエット輸送ヘリを民間機カラーから軍用カラーにエアブラシで塗り替える様子を横目で見ながらサンキョ・デポ内を進んだ。

「それにしても、五年前にはまさか自分がもう一度ヴォルクグラードのために戦うとは夢にも思っていませんでしたよ」

「シュネーヴァルト学園の生徒達は僕達を裏切り者と呼んでいるらしい。皮肉だよね」

 ヴォルクグラード人民学園と契約したSW社がガーランド・ハイスクールの前に敗北寸前まで追い込まれた同学園を救い、戦況を五分五分にまで持ち直させたことはアルカ各校に大きな衝撃を与えた。だがヴォルクグラード人民学園は『自分達は述べ五千回以上の戦闘経験を持つ』と広告していたSW社の社員がまだ第三十二大隊やタスクフォース609に所属していた頃に散々煮え湯を飲まされてきた過去のせいで同社に根強い不信を感じていたし、シュネーヴァルト学園の生徒達もまた低強度紛争や非正規戦に長け、幅広い戦闘経験を持つかつての級友たちがロシア人のために戦うことを裏切りと認識していた。

「エリー、エレナを連れてきたよん」

「ご苦労さ……」

 書類の詰まったダンボールが山積みになっている俄作りの司令室にいた先客のうち一人はSW社の最高責任者が入ってくるなり殆ど飛び掛かるようにして抱き付く。

「おかえりんりん!」

「は、はい!?」

「ほらー……そこは『ただいまハニー!』だよ」

「はぁ!?」

 ノエルは豊満な胸をエーリヒに押し付けつつ上目遣いで彼の瞳を覗き込み、間髪入れずに熱い吐息を真っ赤になった彼の耳たぶに浴びせ、呻くようにして「後で一緒にシャワーを浴びたら、昨日みたいにまたベッドで『一つ』になろうね」と言い放つ。

「すみません助けてくださいお願いします」

 エーリヒは慌てて副官に救いを求める視線を送ったが、副官は既に右半分しかない少年の視界の中でドアへと向かっていた。

「やれやれ」

 ダンボールだらけの急ごしらえ司令室にいたヴォルクグラード学園軍の軍服を身に纏うもう一人は官能に潤んだ瞳でエーリヒの理性を殴打し続ける姉染みた存在を見て苦笑する。

「テウルギスト、そのあたりにしておけ」

 エレナの声には何か温かい感情が含まれているようにも聞こえた。

「時代は変わるということか」

「そうかもしれません」

 エレナと多くの意味が込められた短い会話を交わしたエーリヒは真顔になり、今回も落ち着いた動作でノエルを引き離しゲストに別の席を薦めた。

「詳しい戦況をご説明します。どうぞお掛けください」

 アルカの地図を机上に広げるなりエーリヒは言った。

「我々SW社は総力を挙げてガーランド・ハイスクールを叩き、泥沼と化したこのエルメンドルフ戦争を終結させた上で自由ヴォルクグラード軍を殲滅します」

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