第二章1
一九四八年九月二日の早朝……前年秋、度重なる新型戦闘機の機体返還要請を無視され続けたソ連本国が片道切符を覚悟で部隊を送り込みエルメンドルフ基地を襲撃したことがきっかけで開かれた戦端は今、終わりの始まりを迎えようとしていた。
「どうしてここまで気付かなかった!?」
新型戦闘機ごとソ連空軍のエースパイロットが亡命した理由は単にウォッカの配給量を減らされたことで、今や泥沼化した戦争やグレン&グレンダ社の支配体制が大きく揺らいだ原因も同社上層部の『アルカが存在する以上、国同士の戦いは基本行われない』という思考が生んだ本国正規軍の待遇の悪さであることなど知る由もないガーランド・ハイスクールの水兵達は迫り来るIL‐2シュトルモビク攻撃機の大編隊を見て青ざめる。
「配置に付け!」
「直援の連中は何をしているんだ!?」
ブラッド・シー上を進むアトランタ級軽巡洋艦の甲板上で水兵達が慌ただしく走り回る一方、両翼下に搭載能力一杯の爆弾やロケット弾を満載した空飛ぶコンクリート・トーチカを操るヴォルクグラード学園軍パイロット達は勝利を確認する。
「情報通りだ。敵艦載機は空母から上がって来ない!」
「アイスキャンディーも止んでる!」
パイロット達は艦隊の防空システムを一時的に無力化させた張本人がサヤンの手引きで各艦に潜入したモサド工作員であることを知る由もなかったが、今まで艦砲射撃や空母艦載機による空爆を好き勝手に浴びせてきた連中にようやく報復できるチャンスに熱狂した彼らは攻撃的なロシア語のスローガンが描かれた愛機を次々に船々へと肉薄させた。
こうして旧名を日本海という青い世界は鉄の屠殺場と化した。