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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 YOU ARE NOT ALONE 1948
102/285

第一章8

 ゼニートとの会談が事実上の決裂という形で終わってから七分十二秒後、エーリヒ・シュヴァンクマイエルはサンキョ・デポ裏手にあるケヤキ並木に足を運んでいた。

「お疲れのようですが貴方には休んでいる時間など存在しないのです」

 木々に背を預けて脳内の諸問題を整理していたエーリヒにオリーブドラブの軍服に身を包んだヴァルキリーが青めいて見える長い黒髪を靡かせながらヘブライ語で声をかける。

「アルカを管理する能力と自信、責任感さえも失ったグレン&グレンダ社は今や民間軍事企業への軍務外注化を積極的に進めています」

 シャローム学園からSW社にオブザーバー兼監視役として派遣されている大人びた少女ことサブラ・グリンゴールド中佐は淡々とした様子で話した。

「それは我々の後ろ盾を得た貴方が選択肢の殆どを失ったグレン&グレンダ社に『アルカ各校の卒業生を統一化された民間軍事企業に所属させ、それを各学園が雇って今まで通りの学園大戦を行ってみては如何でしょう』という提案を持ちかけたからです」

 ドラケンスバーグ学園に在籍していた一九四六年、トラック戦争で和州学園出身の倉木マツリに引導を渡しラミアーズの組織的行動を終焉に追い込んだヴァルキリーの言葉にはどこか物事を他人事のように捉えた響きが過分に含まれていた。

「しかし私達が貴方を支援するのは、ただ単にプロトタイプの王である貴方と良い関係を築けていればイスラエルという道徳的にも社会的にも正当化されたユダヤ人国家が世界の覇権を事実上掌握する上で都合が良いからです。私達は世界を直接統治するつもりはありません。何故なら世界を直接統治してしまえば、その中で生まれたテロや憎悪という歪みが確実に我々を襲うからです。だからこそ我々はグレン&グレンダ社を支配者としたまま、彼らを歪みに対する盾として使いながらこの世界を手に入れるのです」

 エーリヒはサブラの言葉から情念や熱意のようなものを全く感じなかった。

「安価な兵器」

 紫の双眸に冷たい輝きを宿すサブラはエーリヒの前で小指を折り、

「高度な戦闘のノウハウ」

 次に薬指を折り、

「銃がなければスーパーでも働けないようなプロトタイプ」

 最後に中指を折った。遺伝子にプログラムされたヴァルキリー特有の指の折り方だ。

「SW社がアルカにおける戦争ビジネスを独占できた要素はこれだけではありません。我々は今年五月に独立を果たしたイスラエルという道徳的にも社会的にも正当化されたユダヤ人国家が中東での覇権を握るため貴方から貸し出された多数のプロトタイプをシナイ半島やゴラン高原における戦闘に投入する見返りとして、同社が代理戦争の一元化を効率的に進めるための根回しや準備を行う上で必要な情報をサヤンから提供させたり、それらに反対する関係者をモサドの破壊工作で抹殺しました。無論、世界各国にあるユダヤ人コミュニティからの潤沢な資金援助も忘れてはいけません」

「ここでしか生きられず、アルカという強い呪いに自分から飛び込んでいるような自分がX生徒会の眼鏡に叶うような人間だとは到底思えませんが……」

「確かに貴方は人格的な問題の多い人物です。しかし、上手く利用した場合のメリットの数は問題点を大きく上回る。X生徒会は単にそう判断しました」

「よく堂々と面と向かってそこまで言えますね。人に嫌われると思わないんですか?」

「好き嫌いなどどうでも良いことです。私は歯車に過ぎません」

 サブラはそこまで言ってから唐突に歩き出してダンボールに入った捨て猫を抱え上げる。

「理想的なプロトタイプやヴァルキリーが他者に対する優しさや同情の心を持つ必要ありません。私達は消耗品ではあっても温かみを持った人間ではないのですから」

「うん……?」

 エーリヒは続いてどこからか取り出した紙パックの牛乳を猫に飲ませて微笑むシャローム学園X生徒会の全権代理人を見て何とも言えない表情になった。

「うーん……?」

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