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day 2

 スライム君は自らの変化を確認します。クリアスライムからブラッドスライムへの転身。遺伝子に刻まれた種としての記憶が勝手に呼び起こされ、ブラッドスライムとして何ができるのかを瞬時にスライム君は理解します。

 だから、何が堕ちてきたのかスライム君は確認をしようとします。上に堕ちて来た生き物の血を呑んだのです。つまりそれがスライム君が守るべきものであり、餌でもあるわけです。


 触腕を伸ばし丁寧に落ちて来た生き物を持ち上げて目の前に降ろします。軽く降ろしたのですが、痛かったのでしょうか、その生き物はうめき声を漏らします。

 その生き物はこの美しの森ではあまり見ることのない生物でした。少なくともスライム君は初めて見ます。しかし、その血を呑んだことにより宿主のことがわかります。


 それは二足歩行の生き物で、高い知能を持った存在です。


「――――」


 そうです。どうやらそれはニンゲンようです。女の子のようですね。ではニンゲンさんです。長い金髪が妖精光に照らされています。

 見眼麗しく、肌は白いどことなく高貴さなどを感じさせますがスライム君にはあまり関係のないことです。関係があることこのニンゲンさんの血が美味しいということです。


 それにしても可愛らしい女の子ですがスライム君にはニンゲンさんの美醜はわかりません。何度も言いますが大事なのはおいしい食事をくれるかどうかです。女の子の血はおいしかったので大好きです。

 しかし、どうしたのでしょう。空から降ってきたこともそうですが、ニンゲンさんにあるべきものがありません。


 そうです手足がありません。そう大事な大事な四肢です。ニンゲンさんには四肢がありません。どうやら切り取られてしまったようです。何があったのでしょうか。

 スライム君はニンゲンさんの体をまさぐって調べます。本能的にどのような生き物か把握しているスライム君ですが怪我の具合などは見てみなければわからないのです。


「――っぁ……」


 調べた結果、とても酷い傷であることがわかります。四肢を無残にも切られてしまっているようです。傷口は綺麗ですが、綺麗である分だらだらと血が流れています。

 落下の衝撃で気絶しているようですが、スライム君がクッションになったおかげでこちらに関する傷はないようです。


 このままではニンゲンさんは死んでしまうでしょう。スライム君はあまり難しいことはわかりませんが、ブラッドスライムになったことにより遺伝子に眠っていた本能が呼び覚まされました。

 この場合どうすればいいかがわかります。まずは安全なところに運ぶ必要がありますね。幸いなことにスライム君はそれなりに大きなスライムでした。


 それがブラッドスライムになりニンゲンさんの血を飲んだことによってもっと大きくなっています。普通のスライムと比べても結構な大きさです。

 そのおかげで小柄なニンゲンさんを運ぶことが出来そうです。おっと、違いますね。はい、そのまえに傷口を塞がないといけません。


 スライム君は再び触腕を伸ばします。自分の体の表面からにゅるりと触腕が伸びて失われている四肢の先へ向かいます。

 そのまま傷口をコーティング。傷口はこれでふさがりました。流れる血はありません。ブラッドスライムは治癒を早める特別な物質を分泌することができるので傷はすぐにふさがるでしょう。これで失血死する心配はなくなりました。


 さあ、これで本当に安全なところに運べます。触腕をニンゲンさんの体を落とさないようにくるくると優しく巻き付けます。

 本当ならニンゲンさんに運んでもらうのが正しいブラッドスライムの在り方なのですが、それが出来ないということを本能的にスライム君は悟っているようです。お利口さんですね。


 さて、安全な場所ですが、この美しの森はほとんどに危険な生き物が住んでいる危険地帯です。ニンゲンさんにとって安全な場所など数えるほどしかありませんし、危険なのはなにも生き物ばかりではありません。

 危険な場所もあります。毒の沼であったり、浮遊する巨石であったり、崩れる大地であったり様々な領域があり、安全地帯など危険地帯と比べて片手で足りるほどしかないのです。


 スライム君はどこへ行くか決めたようです。するするとニンゲンさんをのせて歩き始めます。どうやら住処に戻るようです。

 怪我をした動物がどうなるかをスライム君はよく知っているのです。この美しの森にも多くの生き物たちが住んでいますので、怪我をした動物の末路はそこら中で知ることができるでしょう。


 まず間違いなくニンゲンさんは食べられてしまいます。そうなるとスライム君も死んでしまいます。もうニンゲンさんの血しか飲めないのですからそうなってしまうと大変です。

 だから急いでニンゲンさんを守らなければいけません。そのために選んだのが自分の住処であるようです。


 スライム君がたどり着いたのは美しの森の表層にある洞穴です。妖精光が多く、黒い空でも穏やかに明るいお気に入りの場所です。開けていますし川が近くにあるのでニンゲンさんの飲み水にも困らないでしょう。

 ここはスライム君の縄張りです。そのため、ニンゲンさんの血の匂いを感じても入ってくるものはほとんどいないでしょう。


 スライム君がブラッドスライムとなったことは森にすぐに伝わります。ブラッドスライムは宿主の命が危険にさらされると宿主を守ることが知られています。その反撃は苛烈を極めるのです。

 経験を積んだブラッドスライムであれば、宿主を守る時、敵う者はいないとすら言われます。そのためブラッドスライムの縄張りとなった場所にいる血の匂いをさせた生き物には基本的に誰も近寄らないのです。飢えた獣ならば別でしょうが、


 ブラッドスライム自体を目当てにしたものであれば別ですが、わざわざ向こうからやってくるような奴はいません。なので安全ということです。

 スライム君は洞穴の中に入ると奥にニンゲンさんを寝かせます。地面にそのままです。大丈夫でしょうか。


「うっ…………」


 あまり大丈夫そうではありませんが、スライム君にはわかりません。それにスライム君は、これからのことについて考えていたので、わからない以前に気がついていませんでした。

 スライム君は考えます。弱ったニンゲンさんに何をすれば良いのかを。ニンゲンさんの状態を見てひとりではなにもできないことはスライム君でもわかります。スライム君が生きるためにもニンゲンさんのお世話をしなくてはいけません。


 スライム君は本能的なそれを理解しました。ニンゲンさんのお世話。つまりニンゲンさんが生きるためには何をすべきでしょうか。

 まずは食事の用意です。弱った生き物を生かすには栄養が必要です。そのためには食べ物を食べる必要があることをスライム君は知っています。


 だから、食べ物探しが必要ですね。早速、スライム君は気合いを入れて食料を探しに出掛けることにしました。ニンゲンさんの食料は無事に見つかるのでしょうか。

 見つかると良いですね。スライム君は洞穴をでて森の中を進みます。どこかにニンゲンさんの食べ物はあるでしょうか。


 きょろきょろとしながら森の中を進むスライム君ですが、すぐに困った事実に思い当ります。そうです。スライム君はニンゲンさんが何を食べるのかわからなかったのです。

 食べるものがなければニンゲンさんが元気になれません。なんとかしてニンゲンさんの食べ物を見つけなくてはと思いますがニンゲンさんは何を食べるのでしょうか。


 スライム君の知識の中にはそんなものはありません。ブラッドスライムとしての本能も通常とは役割が真逆であるために働きませんし、本能でニンゲンさんの食べるものがわかれば苦労はありません。

 そのため困ってしまいました。美しの森の中は様々な動物や植物であふれています。もしかしたらその中にニンゲンさんが食べられるものがあるかもしれませんがスライム君にはわかりません。


 スライム君は考えます。自分が手に入れられるもはなんでしょうか。果物、肉、魚でしょうか。ブラッドスライムとしての能力をいくつか使うことが出来れば不可能ではないかもしれません

 簡単でなおかつ早いのはやはり果物でしょう。生きている魚や動物の肉などを手に入れるにはまだまだスライム君は経験が足りません。なので果実が一番早くて良いと思われました。


 何をとってくるのか。この森にある食べられる果物は何でしょう。コノンの実、オーヴェルの実、アブロの実などなど。もちろんスライム君は名称は知りませんが、どのような果物かは知っているので探せます。

 食べられそうな果物がこの森にはたくさんなっています。スライム君もいくつか食べてみようかと思ったものがありますし、森に生きるたくさんの生き物たちが食べているものを知っています。


 その中でニンゲンさんも食べられそうなもので、おいしいもの。コノンの実はどうでしょうか。木の枝になる甘い果実です。

 もちろん、スライム君は食べたことはありませんが、この美しの森に棲んでいる多くの生き物たちが好んで食べていることは知っています。


 コノンスライムと呼ばれるコノンの実を偏食的に食べるスライムもいるので、ニンゲンさんでも食べられるかもしれません。

 良い案かもしれません。しかし、残念なことにスライム君はコノンの実の生る木を知りません。美しの森は広大です。表層だけでもスライム君がいったことのない場所があるほどです。


 層を下ることで倍以上に美しの森は広がります。表層の大きさは直径にして十キロメートルといったところでしょうか。あるいはそれ以上かもしれません。

 それだけでも広いのですが、この美しの森はそれだけにとどまらないのです。表層の言葉通り、美しの森にはいくつもの層が存在しています。


 表面である表層。そこからひとつ降りた第一層。第二層、第三層、第四層、第五層、第六層、それより深く。深さは一万メートルはあるとも言われています。

 ただ事実は、誰も知りません。それでもこの美しの森はそういう風にできていることを誰もがしっています。


 そんな広い場所で目当ての木の実を探すのは難しいですがスライム君は諦めません。コノンの実のある場所はわかりませんが、探すようです。

 目標が決まればさっそく行動するようです。スライム君は、ぼよんぼよんはねながら美しの森の中を進んでいきます。


 宝石の木々の間を跳ねて進みます。ブラッドスライムのスライム君には誰も見向きもしません。偏食性で何かの血を食べることしかできないブラッドスライムは警戒しなくても良いスライムなのです。

 おやおや? スライム君が何かを見つけたようです。なんでしょう。立ち止まったスライム君が触腕を伸ばします。


 高い木の上にある木の実を手に取りました。紫色をした木の実です。不思議な匂いがしています。見つけたのは良いのですが、それはコノンの実ではありません。コノンの実はもっと瑞々しい、柑橘系のような匂いがします。

 これはアブロの実と言って食べられるには食べられるのですが、紫色の今はとても渋いです。季節がもっと進めば色が落ちて皮が透明になり、中の実が黄金色になることから黄金の実とも言われていて、とてもおいしくなるのですが残念ながら今は渋いです。


 こんなものを食べてはニンゲンさんは良くなりません。スライム君も気が付いたようです。コノンの実はもっといい匂いがします。アブロの実を投げ捨てます。

 もったいないですが仕方のないことです。グルメなスライム君は良いものをニンゲンさんにもって行きたいようです。


 さて、次なる木の実を獲ります。おや、今度の実はとても良い香りがしていますね。これは正解でしょうか。おっと残念。これも違います。

 スライム君が次に手に取ったのはモーモンの実と呼ばれる木の実です。甘い香りがしてますが、この木の実、実は食人果実なのです。怖いですね。


 ただ食人果実と呼ばれてはいますが、実際はニンゲンだけでなく生き物が持つと頭からばくりと食べてしまう、とても怖い木の実です。

 スライムは食べるものではないので反応しませんが、普通なら持った瞬間にぱくりです。そして、獲物をばくりと食べたモーモンの実はそのまま次のモーモンの木をはやしてまた次に匂いにひかれてやってくる獲物を待つのです。


 これもニンゲンさんは食べられませんね。アブロの実と同じように捨ててしまいます。ここにはどうやらコノンの実は生えていないようです。

 ですがスライム君はめげません。ニンゲンさんの為です。気合い一発身体を振るわせて、さあ、次なる食べ物を探して美しの森の中を進みます。


「!」


 また何かスライム君が見つけたようです。さわやかな匂いがします。やりましたコノンの実です。スライム君は無事コノンの実を見つけることが出来ました。

 さあ、それをできるだけいっぱい持ち帰ります。自分の体の中にコノンの実をしまい込み、来た道を戻ります。ニンゲンさんが喜んでくれると良いですね。


「――――っぁ」


 スライム君が洞穴に戻ってきました。ニンゲンさんは相変わらずです。スライム君は、コノンの実をニンゲンさんの周りに置いていきます。

 あとはニンゲンさんが目覚めるのを待つだけです。いつ目覚めるのでしょうか。スライム君は待ちます。身体を左右にぷるぷる震わせながらニンゲンさんが起きるのを待ち続けます。


 ニンゲンさんが目覚めたのは二日後のことでした。

スライム君はニンゲンさんのために頑張ります。さて、ニンゲンさんは目覚めた時どんな反応をするのでしょうか。


どうか感想や評価、レビューなど良ければ気軽によろしくお願いします。

では、また次回。


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