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フリーズの代償ーB面

作者: ミミズク

今作は以前投稿した『フリーズの代償』という短編を別視点で描いたものです。

今作だけでも話は分かると思いますが、もしよろしかったら後で前作も読んでいただけたら嬉しいです。


前作からジャンルをSF→恋愛に変更。

最初の記憶はトモユキの不安そうな顔だった。私が喋るとビクンと震えた。


「なんだこのビビリは?」


意識せずに漏れたそのセリフで彼は何かを悟ったように塞ぎこんでしまった。


私達アンドロイドの性格というのはある程度のランダム性を持って生成される。

もちろんユーザーの好きなようにカスタマイズすることは技術的に可能だ。だけど基本的にはアンドロイド人権法によってそれは許されていない。


「私の性格が気に入らないんだ・・」


パートナーとして生まれた私にとってそれは残酷な現実だった。


もちろん性格は後天的なところも大きく。また演技できないわけでもない。

しかしこのウジウジした男を見てそんなコトする気はおきない。少し蹴りあげたくなった。


ビクビクする男とそれに呆れる私の生活が2,3日続いた頃、私の頭脳に一瞬のノイズが走った。


『彼を返して・・・』


それは悲痛な叫び。


「私の声?」


何のバグかしら?現在のアンドロイドの人工頭脳にそんなバグあるなんて聞いたことなかった。


最初トモユキはビクビクしながらもずいぶん優しかった。家事全般を彼がやっていたのだから変な話だ。


「それは私の仕事でしょ?」


「いいよ。いいよ。病み上がり何だから」


「病み上がり?」


「・・・とにかくいいんだよ」


ちょっとチョークスリーパーで絞めあげてやったがどうにも吐く気がないようなのでかかりつけの医者に聞くことに決めた。


「絞めてる最中彼は始終恥ずかしそうだったな。まあ私はでかいから・・」

そう自慢気に思っていると


『返して・・彼を返して』


「うーん、本格的に医者に行かないとまずいかもな」


それから私はかかりつけのアンドロイド専門医の元に通った。


「彼が病み上がりと言ってたんですけど先生に何か心当たりはありますか?」


「彼は説明しなかったんですね。もちろんあなたが知りたいなら私は隠すことはしませんが、それは彼の意図する所ではないでしょう」


もちろん私は聞いた。


「それはですね。以前あなたは大きな事故が元で記憶を全損しているんですよ。復旧させるにあたっては人権法の下にオリジナルの新しい人格が付与されています」


「・・じゃあ以前私はトモユキに会っているんですね」


「カオルさんはトモユキのよきパートナーだったみたいですね」


「先生。おそらくそれが原因なんですが、私の意識によくノイズが入るんです」


「ほう。それはどういった?」


「私の声で・・『彼を返して』と」


「・・そういう症例は聞いたことありませんね。記憶が残っているはずはないのですが。一応点検しておきましょう」




「何も問題はないようですね」


「そうですか。いえ私の気のせいかもしれません・・ただ以前の私のことを先生は?」


「以前のあなたのことを知ってる分伝えるのは問題ありません。ただあなたは考え違いをしています。以前のあなたという表現は正しくありません。別人と考えておいた方がいい」


「・・そんなこと無理ですよ」


「分かりました。トモユキ君のパートナーのカオルさんは・・」




話を聞いた限りずいぶん今の私とは違う人格だったようね。やっぱりノイズは彼女と関係している?


「なにぼーっとしてるんだよ。カ、カオル」


「なんでもないよ。トモユキ明日暇よね?」


「暇だけど・・」


「いっしょに遊園地いかない?」


「ゆ・・ゆうえんち?・・かんべんしてくれよ」


「はい?」

ちょっと凄んでみる。


「行きます。行きます。行かせていただきます」

そんなに怖がらなくてもいいじゃん。心外だよ。



その夜私は夢を見た。夢の中の私は私の知らない穏やかな笑みを浮かべてトモユキとお茶を飲んでいた。




遊園地は私にとっては最高だった。トモユキにとっては地獄だったのかもしれない。


「あなたときたら、絶叫マシーンもお化け屋敷も無理だなんて」


「だから来たくなかったんだよ。やたら待たないといけないしさ」


「じゃあコーヒーカップにのりましょう」


「・・コーヒーカップも気持ち悪くなるんだ」


「根性なし」


「しょうがないだろ。観覧車なら、まだ何とか」


「じゃあそれでいいよ」

誘ったのは私だし譲歩してあげましょう。




「案の定止まったな」


「止まったね」


観覧車は中空で停止してしまった。アナウンスが入る。


「すぐ動き出すからじっとしてろか・・」


「こういう時に限って・・」



5分後、観覧車は何事も無く動き出した。


「よかったね」

私がトモユキにいうと

「だから遊園地は嫌なんだ」

である。


「トモユキ、あんたマイナス思考過ぎない?」


「どう見てもマイナスじゃないか?」


「重要なのは絶対値じゃないのよ人生は」


「そういうもんか。カオル?」


この時彼は初めて自然に私の名前を呼んだ。

『カオルは私。トモユキさん・・・』


一瞬私がフリーズしていると。

「おい大丈夫かカオル?どこかで休むか?」

トモユキが私の心配をしてくる。少し嬉しかった。



「カオルはいつものでいいか?」


彼が飲み物を買ってくるという。

「いつものって何よ」

何のためらいもなく考えもなし聞いてしまった。


「あ、ああ」


そのときの彼のショックを受けた顔。

私の心には鋭い刺がささっていた。



数カ月後


トモユキは未だに時々ふさぎこんでいる。

あれから私はカオルさんのことを出来る限り調べようと決めた。

そしてもし出来るなら・・



「・・では記憶の復旧は不可能なんですか?」


「あなたを再起動したとき特別なダンプのされ方がしています。それにもし記憶が復元されたところで、それは同じ人格とはいえませんよ」


「記憶があるだけましなんです。それってぜんぜん違うことなんですよ。先生・・」


「私には何も分かりません。しかし、もしかしたらココなら私より詳しい情報を取り扱っているかもしれません」


先生はそういうと私にデータを送ってきた。


「海外のツールなどにも詳しいお店です。・・人権法は全世界一律ではありませんから」


最後の方は小声だった。先生もリスクを冒してくれるのかもしれない。



数カ月後


私は未だに時々ノイズが走っていた。その声は楽しそうな笑い声ときもあったが概ね悲痛でか細い恋人を追い求める声だった。


トモユキはというと時々考えこんでいるものの、最初の頃とはちょっと違う感じだった。何だか罪悪感を感じているような。


彼の残念そうな顔を見るたびに心に小さな刺がささった。私は嫉妬しているのだろうか?正直わからない。


ともかくあと少しで何もかも解決できるはずだ。先生に紹介された店から何度かたらい回しにあって使えそうなツールは揃えることに成功した。


最近少しずつノイズが走ることも減っていた。完全に私が定着してしまうのもまずいかもしれない。急がなくてはいけない。



そして私は決断した。


「ねえ、あんた・・以前の私に会いたくない?」

彼に恐る恐る聞いてみる。


「!」


「ねえったら・・」


「・・・・」


「なにか言ってよ」


「・・会いたくないわけではないよ・・だけどおまえ・・」


その言葉で十分だった。

「・・わかったわ」


「おい、勝手なことはやめろよ!」


「いいから、任せなさい」


「何言ってんだよ」


「大丈夫。大丈夫。何の問題もないはずだから」


「おまえ・・まさか・・」


「あと2分30秒で以前のシステムへ復元が開始されるはず、再起動するからちょっとの間お別れね」


「・・・・・」

なんでそんな顔するのやっとあなたは会えるのよ?


「・・行くぞ・・医者のところに。・・まだ間に合うかもしれない・・」




「何言ってるのよ。間に合うもくそもやっとあなたの願いが叶うんだから・・」


「・・何で泣いてんだよ」


「?」


「何で泣いてんだよ!?」


私の顔には冷たい水が流れていた。

「・・ちょっと水漏れしちゃったのかもね・・」


「・・・」


私が私であるうちにどうしても聞いておきたいことがあった。でも・・

「ねえ、あんたは・・」


「俺は・・俺は・・おまえ・・」

彼は鯉のように言い淀んでいる。


私は頭をブンブン振って気持ちを切り替えた。今こそ前向き思考、最高の作り笑顔だ。

「私はあんたをそんなに悪くないとおもってるわ。まあ、もう少し素直になったほうがいいかもね」


「・・それはおま・・えだろ・・」


さいごまで依怙地な彼の表情をみて私は意識を手放した。





私は夢を見た。


夢の中の私は童話のヒロインみたいだ。ちょっと恥ずかしい。


トモユキは私には見せたことのない表情で

「愛してるよ」


私だってこんなこと言ったことない。

「愛してます」


顔から火がでるような気持ち。少し憧れていた。


「トモユキはなんでいつも不機嫌そうなの?」

夢の中の私は尋ねる。


「こういう顔なんだよ生まれつき」

いつもそうだったね。最近は考え事ばかりしてたけど。


「まあ、それ多分嘘ですね」


「嘘じゃねえよ」


「ならそういうふうに思い込んでるんですね」


「・・・・・」

彼は黙っていた。素直な気持ちが知りたかった。









目覚めると先生とトモユキが眼前にいた。

トモユキの顔は蒼白だ。


先生は優しく微笑っている。


そういうことか。きっともうノイズが入ることもないんだろう。


「トモユキ・・・」


「な・・なあ・・・なん・・だ?」


全然言葉になってなかった。


「愛してるって言いなさいよ」

彼女だけの言葉にしておくにはもったいなかった。







もともと一発ネタのつもりでしたが、練習も兼ねて作ってみました。


ご指摘、感想等あれば幸いです。

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