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聖剣カタストロフィⅠ

 心地良い朝の日差しが窓辺から静かに差し込む。

 壁に吊るされた時計の短針はぴったしローマ字表記の5を指していた。


「起きてください! 春人!」


 何者かが勢いよく掛け布団をどかすと、俺の腹部を激しくゆすり始める。

 そのあまりの激しさに、ベッドに横たわる俺は一瞬にして目を覚ましてしまう。


「ちょっとまだ早くないか? 今は何時だよ?」

 俺は寝ぼけながら、むにゃむにゃと聞き取りづらい発音で尋ねた。


 眠たそうに目を半開きにしながら、まだ起きたばかりのぼんやりとした視界で、腹部を揺すり起こした張本人の姿を確認する。


 それは少女だった。


 背丈がひと際高く、長いブロンドの髪を後ろに束ねた、非常に清潔感のある美しい、エメラルドグリーンの瞳をした少女だった。


「今はまだ5時です……が、しかし、女王様がお呼びになっているのです」

 少女は落ち着き払った様子でそう言うと、ゆっくりと俺のベッドに腰掛けた。


「なるほどな……、まさか、こんな早い時間に召集なさるとは、一体何が起こっているんだ? オルター?」

 俺はベッドの上で上体を起こすと、軽いストレッチをしてから、床の上に立ち上がる。


「女王様から聞いた話だと、ユーパル王国から宣戦布告状が届いたとのことです」

「ユーパル王国? 確かそこってかなりの小国だったよな? そんな小国が何故、大国であるティガレスク王国と戦争を始めたいんだ? 負けるに決まってるはずだが……」


 俺はパジャマを脱いで、制服に着替え始める。脱いだパジャマをベッドの上に脱ぎ散らかすと、クローゼットからカッターシャツとブレザーを取り出す。オルターは、だらしなく脱ぎ散らかされたパジャマや女子の前で堂々と着替える俺のデリカシーのなさについては、特に見咎とがめはしなかった。


「それについては、まだ分かっていません。ただ分かっていることは、ユーパル王国が我が大国であるティガレスク王国に宣戦布告状送ったという事実だけです」 

 オルターはどこか釈然しゃくぜんとしない様子で言った。


「なるほど、それは少し心細いな」俺はブレザーを羽織り、制服のズボンをはき、ネクタイを整えた。「それじゃ、行くとするか。姫様の元へ」

「そうですね、行きましょう」


 オルターはベッドから立ち上がると、快く俺の呼びかけに応じた。



 ここは、ティガレスク城。

 ティガレスク国王が代々受け継ぐ立派なお城である。

 城内の廊下には、壁際にブロンズの像が並べられていて、天井には有名な絵画を模したステンドグラスが飾られていた。床から天井までの高さは約5メートル弱、廊下の広さは馬車が軽々と2台分通れる広さだった。


「それにしても、こんな朝早くに召集とは気が滅入めいるな。ユーパル王国如き、ティガレスク王国に敵うわけがないのに」

「確かに、ユーパル王国は国土も小さく、小国ですが、何も勝算がなく戦争を申し込むはずがありませんよ。おそらく、何か策があってのことでしょう」

「策? 例えば?」

「前回戦ったコルチア帝国戦を覚えていますか? 彼らは我らと戦って敗れましたが、彼らは我らの敵対国に当たります。おそらく、ユーパル王国の背景に我が国に敵対する強豪国の後ろ盾があると考えるのが妥当でしょう」

「なるほど、その手があったか」


 ティガレスク城の廊下で何となくそんなことを話していると、廊下の曲がり角から見覚えのある二人の人影が現れる。その人影はこちらの姿に気づいたのか、急に立ち止まって、こちらに大きく手を振り出した。俺達はその姿を確認すると、笑顔で彼らの元へ向かった。


「おはよう! オルターに春人!」

 二人のうちの一人、ボーイッシュな髪型をした少女が元気な挨拶を送った。


「おうおう、ラブラブじゃねーか! そこのお二人さん」

 二人のうちのもう一方、背が高く肩幅ががっちりとした体育会系の男子生徒が親しげな表情で声をかけてくる。


「おはようございます。凛に大地」

 オルターは軽くおじぎすると、表情に微笑みを浮かべた。


「ああ、おはよう。一言余計だ、大地」

 俺はさわやかな微笑みを浮かべながら挨拶すると、大地の発言をすぐさま訂正する。


 ここらで、少し自己紹介をしておこう。

 今、俺達の目の前にいる、ボーイッシュな髪型をした少女は、鈴鹿凛すずか りんといい、高い戦闘スキルを買われて、まだ1年生なのにも関わらず、俺達が在籍している学校であるペイル学院の体育委員長を務めている優等生である。一方、その隣にいる体格のいい体育会系の男子生徒は広末大地ひろすえ だいちといい、鈴鹿凛と同じく1年生で、ペイル学院の剣道部の部長である。


「それにしても、こんな朝早くに姫様からの召集とは恐れ入ったぜ」

 大地は、頭の後ろに腕を組みながら退屈そうに呟いた。


「本当よねえ、まさかこんな時間に召集命令が来るなんて思ってもみなかったわ。それにしても、遅刻癖のある春人は、しっかりと一人で起きることができたのかねえ?」

 凛はニヤニヤしながらで俺の表情を覗き込む。


「そんなの一人で起きたに決まってるだろう。俺を誰だと思ってる?」

 俺は、冷たくそっぽを向いて、覗き込んでくる凛の顔から視線を逸らした。


「そりゃ、遅刻大王の江戸川春人くんだけど?」凛は挑発気味に答えた。「本当はオルターに起こしてもらったんじゃないの?」


「ええ、確かに今日は私が起こしに参りましたよ」

 オルターはくすくす笑いしながら言った。


「ちょっ、オルター! 言うなよ!」

 俺は恥ずかしさから、思わずほおを赤らめる。


「やっぱり、オルターに起こしてもらったんだぁ!」

 凛はニヤニヤしながらそう言うと、腹を抱えながら笑い出した。


 それにつられて、他の二人も笑い出す。

 俺は、恥ずかしそうにそっぽを向く。


「それにしてもオルターって、本当に春人のお姉さんみたいだよねえ」


「えっ、そうですか?」

 オルターの目は、驚いたように大きく見開かれる。


「身長だって、オルターの方が高いし」


 確かにオルターの身長は170センチに対し、俺の身長は168センチで、オルターの方が2センチ高いわけだから何も言い訳できないが、とは言え、たかだか2センチの差だぞ。


 そこまで言うほどの差なのか?


「いいえ、そこまで私の身長は高くありませんよ。凛」オルターは笑顔を浮かべながら穏やかに言った。「それにしても、凛。あなたの胸は意外と大きいですね? 一体何カップぐらいあるのですか?」


 すると、オルターの笑顔にかすかな陰が浮かび始める。


 そういえば、忘れてたな。

 オルターは、自分の高い身長にちょっとしたコンプレックスを持ってるんだよ。


 ひょっとして、オルター?

 笑顔だけど怒ってる?


「ちょっと、冗談はやめてよ。オルター。近くには男子だっているのにさあ」


「いいじゃありませんか、それなら、私だけでも耳打ちしてくれませんか?」

 オルター……顔は笑っているが、内心では怒っているな。


「仕方がないなあ」

 凛は、溜め息交じりにそう言うと、立ち止まってオルターの耳に顔を近づける。


 俺と大地も凛のカップサイズが気になって、耳に手を当てながら、ヒョッコリと凛の顔に耳を近づける。


 凛はそのことに気づくと『寄るな、変態!』と言って、俺と大地を思い切り蹴り飛ばすのだった。


 くそ、凛の胸のカップサイズがEカップかどうか確かめたかったのに!

 


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