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決戦、四面挿花!Ⅴ

 凛は全力で走りながら、迫り来る俺に勢いよく巨大な斧を振り下ろす。

 だが、俺は一歩も引かない。そのまま、直進するだけだ。

 凛の巨大な斧の刃が俺の脳天目掛けて、まるで猛獣の牙のようにそのまま容赦なく襲い掛かる。

 

 俺はその0・5秒前に凛の背後に瞬間移動すると、そのままハリセンで素早く3回攻撃した。


 俺に振り下ろされた凛の斧は無惨に空振りし、そのままの勢いを保ちながら砂浜に衝突し、大きなクレーターを残すのだった。

 凛は俺に瞬間移動で攻撃をかわされたことに気づくと、振り下ろした斧を持ち上げ、身体を回転させながらその勢いで背後にいる俺をなぎ払う。

 だが俺はその攻撃に対して、またもや当たる直前で瞬間移動で回避し、ハリセンで素早く凛を連続で叩く。

 凛は攻撃をかわされたのに気づくと斧でさっきと同じような調子で俺をなぎ払いにかかった。

 当然、俺は瞬間移動で回避する。


 なぎ払い、瞬間移動。なぎ払い、瞬間移動。

 大体こんな流れが何度か続いた頃だった。


「ちょっと……あんまし……ハァ……ちょこまか……ハァ……するな!」

 やはり、巨大な斧による攻撃はスタミナ消費が激しかったのか、凛は息を切らして音を上げ始めた。凛の攻撃スピードが時間とともに遅れがちになる。

 俺は何とか地道に凛の体力を削っているわけだが、当の凛はまるでダメージを食らっているふうには見えない。

 凛の底抜けな防御力に気が遠くなりそうだ。


「駄目だな、攻撃をゆるめる気はない。この調子でお前の体力を削っていくつもりだ」

 俺は凛の攻撃を最初と変わらないハイペースで瞬間移動で回避し、ハリセン攻撃を当てまくっていた。

 すると、凛はすっかり斧を砂浜に手放すと攻撃を止めて、疲れきった表情でその場に仰向けになって寝転がるのだった。

 さすがに、俺も倒れている相手に攻撃を仕掛けるのも気がさすので、攻撃を一旦中断し、凛から3メートルほど離れた地点に瞬間移動し、凛が起き上がるのをぼーっとした表情で眺めていた。


「はぁ~っ、やっぱりこんないい天気の日は、こう寝転がって昼寝するのが一番ねぇ」

 凛は急に砂浜の上に寝転がり始めたと思えば、両手を水平に広げて気持ち良さそうに昼寝するのだった。


「だが、今はバトル中だろ? こんなことしてたら敵から不意打ちをくらわないとも限らないんだぜ?」

 俺は手に持っていたハリセンの装備をOFFにして、手ぶらで気持ち良さそうに寝転がっている凛の側に歩み寄ることにした。


「それじゃ、ちょっとの間だけ停戦協定と行きましょうよ、春人。せっかくの海なんだもの、楽しまなきゃね」

 凛は余裕の表情を浮かべながら言った。


「楽しむって……寝転がっているだけだろ? それを楽しむっていうのか?」

 俺は凛の側に歩み寄ると、真正面のきれいな海を眺めながら、静かに体育座りする。


「馬鹿ね、波音を聞いて昼寝を楽しんでいるのよ。人は、リラックスしている時の方がいいアイデアが浮かびやすいからね。あなたも寝転んだらどう? 気持ちいいわよ」

 凛はさっきまで閉じていた目を開けると、親しみのある笑顔を浮かべながら尋ねた。


「そう言って、油断した俺を捕まえる作戦だろ? そう簡単にいくと思うなよ」

 俺は不敵な笑みを浮かべながら、仰向けになって砂浜の上に横たわるのだった。


「結局寝転ぶんだ?」

「どうせ、お前からの不意打ちなんて俺の素早さだったら十分かわしきれるしな」

「余裕ね」

「実際、余裕だ」

「ふうん、なるほどね。それにしても、敵同士じゃなくもっと別の場所で出会っていたら、私達結構いい友達になっていたかもねぇ?」

「……どうだろうな」

「ところでさ、アンタ高校生よね? 何年生?」

「俺は1年生だよ、そっちは?」

「奇遇ね、私も1年生よ。それじゃ高校は?」

「高校? そんなの聞いてどうするんだ? 俺の高校はマイナーだからどうせ言ったって分からないぞ?」

「もったいぶらないで答えなさいよ。もしかしたら、私が知っているかもしれないじゃない」

「……東京都立総零高校だ」

「嘘でしょ? まさかアンタも総零なの?」


 アンタも……ってことは、つまり……、


「私も総零なのよ、本当に奇遇ね!」

 凛は興奮気味になりながら言った。


「まさか、学年どころか高校まで被るとは……、本当にどうなっているんだこの世界?」

「さあ? 本当にどうなっているのかしらねえ、この世界は」

 凛は青く澄みわたった大空を眺めながら、ぼーっとした様子で言った。


「まさか、同じ高校の生徒とオンラインゲームで戦うことになるなんて思ってもみなかったな」

「ねえ、ところでさ。アンタって総零でどの部活に入ってるの?」

 凛は好奇心に瞳を輝かせながら尋ねた。


「残念ながら帰宅部だ」

「そう。それなら剣道部に入ってくれない? あなたなかなかいい筋してるから」

「生憎、剣道なんか一度たりともやったことねえよ」

「へえーっ、剣道未経験だったらなおさらすごいじゃない」

「いや、そう言われてもな。そもそもゲームで剣道の才能なんて分からないし、ていうかこれ、初心者を『君、才能あるんじゃない?』とひたすら褒め倒して、その世界に無理矢理引きずり込む麻雀の誘いの手口と一緒じゃねえか。どうせ、俺を褒め倒して剣道部に入部させるつもりなんだろうが、その手には乗らんぞ」

「あれぇ、バレたか?」

 凛は、可愛らしく舌を出しながら、笑顔を浮かべた。


「まあ、一種の常套手段だからな。すぐ分かったよ」

「なかなか、頭の回転は早いのね」

 凛はすっと目を細めながら、目ざとく言った。


「俺の頭の回転速度なんて大したことないよ」

 俺はその場からゆっくり立ち上がると、特に凛と顔を合わせることもなく、独り言のように海の方向を向きながら言った。


「もう、休憩はいいのね?」

「そろそろ、勝負の続きがしたくてね」

「それじゃあ、私も準備しようかしら」

 凛はそう言うと、砂浜に手をついてゆっくりと立ち上がるのだった。

 そして、凛はすぐ側に置いてある巨大な斧に手を伸ばした。


 俺は立ち上がった地点から5メートルほど歩いて凛との間合いを十分に取る。


「それじゃ、バトル再開ね」

 凛は自信満々に巨大な斧を上段に構えた。

 俺は右手に武器のハリセンを具現化させる。


「それで、俺の戦闘ダメージ無効スキルの壁を越える方法は見つかったのか」

 俺は意地悪な調子で尋ねた。


「そうねぇ……、ちょっと攻撃力は下がるけど魔法を無効に出来るという特別な武器があったのよ。私自身としてはこの斧と比べて破壊力が弱くなるからあまり好きじゃないんだけど、この武器しかあなたの反則スキルに対抗出来る手段がなくてね。そんな訳でちょっと伝家の宝刀ってやつを使わせてもらおうかしら」


 凛はそう言うと、巨大な斧の装備をOFFにして、武装を解除した。

 そして……、




 我、今こそ封印を解き放つ者なり。

 いにしえより封印されし大いなる魂よ、

 今こそ、世に舞い戻りし時。

 解放せよ、将神列火しょうじんれっか草薙くさなぎ




 凛は詠唱すると刀身だけでも2メートルはありそうな細長い日本刀を具現化させた。

「これはこれで、なかなかまずそうなのが出てきたな……」

 俺は少し額に冷や汗をかきながらハリセンを構えた。


「さあ、ここからが本番よ!」

 凛は大胆不敵に笑いながら叫んだ。

 そして、斧を装備していた時の鈍重な身のこなしとは全く違う、むしろ、素早い動きでその場から飛び出した。

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