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プロローグⅢ

 すさまじい銃声の嵐が辺りに響き渡る。


 数十名の特殊警官達がいっせいに、彼女達に何度も発砲を繰り返していた。彼らが今手にしているのは、さきほどの貧弱なコルトM1851ではない。総重量が10キロを超える大型機関銃M60だった。彼らは彼女達を見つけ次第、すぐさまコルトM1851による銃弾の嵐を浴びせたのだが、ことごとく彼女達の何らかの力によって、全ての銃弾がはじかれてしまい、そこで威力不足と判断した彼らは、この大型機関銃M60で彼女達を迎撃しようと試みるのだった。


 しかし、この試みは失敗だったと言わざるを得ない。


 彼らは彼女達に向かってM60による、すさまじい迎撃を繰り返すが、それでも彼女達の何らかの力の前では無力だった。

 彼女達に向かって放たれた全ての銃弾が、彼女達と銃弾との距離数センチというところで、見えない何かにはじかれたかのように空中で速度を失い、そのまま地面に向かって落下するのだった。


 しかし、彼らはそんなことなどなりふり構わず、『撃て! 撃て!』とただ愚直に彼女達に向かって発砲を繰り返すのだった。


「何度やっても無駄だって分かっているのに、どうして同じことを繰り返すわけ?」

 目の前で愚直に発砲行為を繰り返す愚かな数十名の特殊警官の姿に、少女は思わず深いため息をついた。


 ルリア・グラシアル、それが少女の名前だ。

 彼女は薄く開かれたサファイアブルーの瞳で、いつも退屈そうにしながらこの世界を見ていた。それは、今だってそうだ。この目の表情はいつであろうと変わることはない。たとえ、驚いたときでさえ、この目がこれ以上見開かれることはなかった。ルリアの背は低い方ではあるが、むしろ、それが彼女の可愛らしい顔立ちを引き立たせていた。彼女がときおり見せる笑顔には不思議な魔力が込められていて、見る者を次々と虜にしていくのだった。ただ、笑顔とは言っても、それは微笑のことである。彼女の表情にはとても微笑が似合っていた。まだ、幼さの残っているかわいらしい薄ピンク色のくちびるが少しだけ横にゆるんだ時、彼女はそれを見た者を一瞬にして魅了してしまうのである。


「そりゃあ、私達を倒す方法がこれくらいしかないからじゃないか? だから、連中はそれが無駄な行為だと分かっていても同じことを繰り返すんだよ」

 二人の少女のうちの一人である火暮ヤマト(ひぐれ)は、ルリアの隣りで、独り言混じりの彼女の疑問にさりげなく答えるのだった。彼女は黒味がかった長いブロンドの髪に、東洋人のような顔つきをしているが、決して染めている訳ではない。彼女はカナダ人と日本人との間のハーフであり、この頭髪は生まれつきのものなのだ。彼女は背がとても高く身長が169センチもあり、身体もモデルのようにグラマーな体格をしており、背の低いルリアとは対照的だった。


「まあ、そんなところよね」

 ルリアはまたしても、ため息をつく。

「ところで、大将。いつまでこうやって大統領が出てくるのを待ってるつもりなんだ? どうせ、こんなとこで待ったところで出て来やしねえぜ」

 ヤマトは周囲の騒がしい銃声に苛立たせて荒々しくルリアに尋ねた。

「それもそうね。物事は穏便に済ませたかったのだけれど……これでは仕方がなさそうね」


 彼女は、大統領を護衛する警備員の者達が大きな騒ぎを起こし、それに勘付いた大統領が何事かと疑問に思い、この場に急いでやって来るシーンを想定して、何十分間も辛抱強く騒がしい銃声の中ヤマトと共にここで待機していたのだが、一向に大統領が現れる様子もないので、仕方なく、ホワイトハウスの玄関から堂々と侵入して大統領の元に向かうことにするのだった。

 彼女は、肩辺りまで伸びたショートカットの美しい青髪を、そっと微風になびかせながら、ゆったりとした調子でホワイトハウスまで向かうのだった。


 すると、ずっとM60を機械的に撃ち放しだった特殊警官達の様子が、ここにきて急に慌立たしくなった。

 彼女達を足止めする術が見つからず、強いパニック状態に陥っているのだ。

 そして、ついに彼らは彼女達の足止めをあきらめてしまったのか、M60を撃つのを止め、突然この場から走り去ってしまうのだった。


 この唐突な彼らのあきらめのよさに、二人の少女は眉をしかめた。


「良かったわね、どうやら彼ら……私達の足止めをあきらめたみたいよ」

 ルリアは心なしに平然とした表情で棒読みする。

「いや、これはどう考えても連中……何か企んでいるに違いないだろう」

 ヤマトは一度、気を引き締めることにした。ルリアのこの棒読みには、『次はヤマトの番よ』という意味が込められているからだ。


 すると、突然周囲に強い地響きが発生する。ロボットが動いているかのような機械音と同時に、ザ・エリプスの芝生が上に盛り上がり、地中にあらかじめ作られた鉄骨組みになっている滑走路からは5台の戦車が順番に一台ずつ顔を出すのだった。

 ホワイトハウスを警備する特殊警官達が突然この場を離れたのは、もちろん彼女達に道を譲るためではない。それは、戦車の戦闘による巻き添えを食らいたくなかったからだ。


「なるほど、地上には戦車が5台も……それで彼らは逃げ出したわけね」

 ルリアは冷静に言った。

 しかし、表では冷静に見えるだけであって、実際には戦意の熱にかられていた。

「全く、なかなか酷い重装備だぜ。か弱い少女二人相手に戦車5台とはな……」

 ヤマトは不敵な笑みを浮かべて言った。ヤマトは冷静なルリアとは対照的に、拳と拳を合わせてすでヤル気マンマンなオーラを漂わせていた。


「か弱い少女二人? どうして身長170近いあなたがか弱い少女に入ってるわけ? か弱い少女は私一人で十分なはずよ」

 ルリアはヤマトを小馬鹿にするような調子で言った。

「大将、それは確か口にしてはいけない約束のはずだぜ。それに、いくらか弱いとはいえ中身真っ黒な大将じゃあか弱い少女とはいえないなあ」

 ヤマトも負けじとルリアを挑発する。

「ヤマト、あなたも少し言うようになったわね。いいのよ、さきにあなたから片付けてあげても」

「そうだなあ、私も以前からもう一度だけ大将とちょうど手合わせ願いたいところだったんだよなあ……、でもその前に」

「それもそうね。それは」

「連中を片付けるまでお預けだな」

 ルリア、ヤマトは軽い冗談をかわし合いながら臨戦体勢に入る。


 さっそくルリアとヤマトは走ってここから一番近い戦車に突撃するのだった。


「はっ、馬鹿な奴らめ。戦車相手に真っ向から突進してくるとはな」


 戦車を操るパイロットは腹を抱えて笑い出す。

 この戦車は最新型の無人式戦車であり、敵の動きに合わせてコンピュータが自動的に照準を合わせてくれるのである。その精度は時速100km以内の速さの物体なら100%の確率で射抜くことが出来、したがって、彼女達を砲丸で射抜くことくらいなら1+1の答えを求めるくらいに容易いのだ。

 だから、パイロットの彼は汚い笑い声を操縦室の中で上げて笑っているのである。


「さあ、今度の弾はマシンガンの弾とは訳が違うぜ。どうするよ、小娘達?」


 彼は操縦室のモニター越しに、戦場で無力な少女を陵辱した快感を思い出し、下品な笑みを浮かべながら、テレビゲーム機のコントローラーの砲丸発射ボタンを押す。

 すると、戦車の銃口から一発の砲丸がすさまじい速度で打ち出される。その速度は軽く時速200kmを超えている。


「ジ・エンドだ! 小娘!」


 彼は感極まって、大声を上げ笑い叫ぶ。

 痛々しくも少女達に砲丸が直撃した。


「やったか!?」


 彼は、胸のうちからあふれ出す期待感を抑えきれずに、言葉だけでなく身振り手振りで胸の高鳴りを表現するのだった。

 砲丸が少女達に直撃し、周囲に灰煙を撒き散らす。

 中からは、ルリアとヤマトが無傷で姿を現すのだった。

 その事実をモニター越しで確認した彼は、何か悪い夢でも見ているに違いないと思い、戦意を喪失させる。

 そして、ヤマトはそのまま彼の操る戦車に向かって、ポニーテールを振り乱し、勢いよくジャンプして真上から、強烈なパンチを繰り出し、鋼鉄で覆われた戦車の装甲もろともスクラップにしてしまうのだった。

その上、勢い余って地面に深さ1メートルのクレータを残してしまうのだった。


「あっちゃあ、ちょっと力が強すぎたかなあ」


 ヤマトは困ったように首をかしげて言った。


「少しは加減しなさいよ。下手したらあなた、このままマントルまでつながるような大きなクレーターを作りかねないのだから」


 この壮絶な光景に周囲の特殊警官は絶句した。


「ブラボー! ブラボー! ようこそ我がホワイトハウスへ。かわいい子猫ちゃん達」


 何者かがワイングラスを片手に、白いスーツ姿で彼女達を出迎えた。

 彼は他でもない、さきほどのアメリカの大統領だった。

「まさか、わざわざあなたから出てきてくれるなんて光栄だわ、クラークス大統領」

 ルリアは不敵な笑みを浮かべて言った。

「いやあ、すばらしいことこの上ないサービスだったよ。まるで映画の世界にでもいるようだ」

 クラークスはしわがれ声を上げて叫ぶ。

「それは、どうも……」


 ルリアは妙に馴れ馴れしいクラークスの態度に眉をひそめた。


「まあ、そんな怖い顔はつつしんでくれたまえ。さあ、こんなところで立ち話もなんだ。家へ上がってくれ、招待しよう。もちろん君もだよ、クヴォルツ・フローレン」

 クラークスは酒と興奮のあまり、我を失ってしまいそうなほどに、激しく上機嫌だった。


 

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