洋館に忍び寄る怪人Ⅵ
「そう来なくちゃね、私にこの切り札を使わせたのは、あなたが初めてなんだから」
ルリアは二丁拳銃の銃口をモネに向けながら、怪しく微笑んだ。
「私が初めてなのですか、でしたら、あなたが戦闘で敗北するのもこれが初めてということになるのですね」
モネは刀を両手で持って、上段に構えた。
「何で、私があなたに負ける前提で話が進んでいるわけなの? 結果が初めから分かりきっている勝負ほど、つまらないものはないわ!」
ルリアがそう叫ぶと、銃口から勢いよく黒炎を帯びた光線が放たれる。
光線はひとたび銃口から放たれると、そのまま、ビリビリと空気を切り裂く轟音を立てながらモネを襲った。
その瞬間、激しい爆風がモネの周囲に吹き荒れる。
ルリアはその時、まるで勝利を確信したかのように、自信に満ちた表情でニッと笑った。
それから、数秒が経った頃のことだった。
すっかり爆風も収まり、爆風の影響で発生した砂塵によって確認することが出来なかったモネの安否が露になる頃のことだった。
その瞬間、ルリアは自らの目を疑った。
何故なら、砂塵がすっかり晴れて、その場の様子が明瞭になった頃、あれほどの一撃を受けたのにも関わらず、モネは全く無傷だったからである。
モネは何事もなかったかのように、刀を上段に構えていた。
「その攻撃、派手な見た目の割には大したことありませんね」
モネは無表情で無感情に言った。
「………………。それなら、これはどうかしら?」
ルリアはそう言うと、二丁拳銃から目にも止まらぬ早撃ちで、次々と黒炎で出来た直径1メートルほどの巨大な弾丸をモネに向けて打ち飛ばした。
真正面から流星群のように無数の黒炎の弾丸がモネの身に襲い掛かる。
モネは試しに一度、刀を振りかざすと、無数の巨大な黒炎弾の群れに向かって、全速力で駆け抜ける。
ルリアはまるで狂気に取り憑かれたような表情で二丁拳銃を打ち飛ばしながら、モネの行動を確認する。
驚いたことに、モネはこちらに向かってくる黒炎弾を一つ一つ刀で捌きながら、ルリアの方へ駆け出していた。
こうなると、両者の接近戦は免れないであろう。
モネは瞬く間に、ルリアの元に接近すると、上段に構えた刀をルリアの真上から振り下ろす。
ルリアはそれを間一髪で右手に持っている拳銃を盾にして防御する。
刀と拳銃の衝突時に生じた甲高い金属音が辺り一帯に響き渡る。
両者の動きが一瞬だけ停止する。
拳銃の意外な頑丈さに眉を寄せるモネに対し、ルリアは不気味な笑みを浮かべた。
ルリアはまだ手が空いている左手の拳銃を、さっと構えてモネの身体を狙った。
モネはすぐさまそれに勘づくと、非常に敏捷な反射神経をもって、刀で左手の拳銃を弾いた。
しかし、ルリアはその瞬間を決して逃しはしなかった。
ルリアは、モネが左手の拳銃を刀で弾く時、その瞬間とほぼ同時に、すでに真正面にあるモネの身体に照準を合わせてある右手に持っている拳銃のトリガーを引いた。
ルリアの拳銃から黒炎が放たれる。
そのコンマ1秒も満たないほどの微小な時間の間に、モネは素早く刀で銃口を外側に逸らして、黒炎の直撃を回避する。
ルリアの鋭い銃撃がモネの身体をわずかに掠めた。
そして、モネはルリアの身体を防御するものが何もないことを確認すると、そのままの勢いで刀の切っ先の先端をルリアの身体に向けて、槍のように突き刺す。
だが、攻撃は上手く当たらなかったようだ。
モネが刀でルリアの身体に突き刺す瞬間、その瞬間にルリアは空いている左手で刀の切っ先の上に手をついて、左手を軸にして見事な回転蹴りをモネの顔面目掛けて繰り出した。
モネはその瞬間、目にも止まらぬ刀捌きで刀を振り上げ、その勢いでルリアを真上に飛ばして、刀を上段に構えながら、空中で身動きが取れないルリアが落下してくるのを余裕の笑みを浮かべながら待機する。
ルリアはモネに高さ3メートルほどの地点まで飛ばされると、右手の拳銃から黒炎の弾丸を放ち、その反動を利用して滑空するのだった。
そして、モネとの間合いが十分に取れたことを確認すると、きれいなバック宙を何度か切って、地面に着地した。
すると、モネは刀を鞘に納めて、突然ルリアに盛大な拍手を送った。
「一体何のつもり?」
ルリアはその様子を見て、急なモネの態度の変化に眉をひそめた。
「すばらしい! さすがは大統領が見込まれただけのことはあります」モネは興奮気味に言った。「あなた方の高い戦闘能力に大統領が太鼓判を押されていましたので、私もぜひ手合わせ願いたいと思い、ついつい、あなた方の真の実力を見たいがために、失礼な態度を取ってしまい誠に申し訳ありませんでした」
モネはそう言うと軽く頭を下げた。
「なるほど、そういうことだったわけね」ルリアはため息をつきながら言った。そして、静かにモネの方へ視線を移した。「でも、勝負はまだ終わっていないわ。続けましょ」
ルリアはゆっくりと銃口をモネに向けた。
「そうですね。そうしたいのは私も一緒なのですが、これから私には執事としての仕事がございましてね。ホワイトハウスの執事たる者、実は忙しいのです。ですから、今回の勝負は残存HPの多いルリアさんの勝ちという形で一旦勝負をお預け致しましょう。なに、次に手合わせする機会があれば、絶対に私が勝利しますから、たかだか、1勝くらい小遣い感覚であなたに差し上げますよ」
モネは、ルリアを鼻で嘲笑うかのように言った。
「言うわね。そんなの負け犬の遠吠え程度にしか聞こえないわ」
ルリアはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら言った。