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洋館に忍び寄る怪人Ⅴ

 ルリアは思いきり地面を蹴って、モネの方へと駆け出した。


 一方、モネはそれに対し、何も構えることもせず、気をつけの姿勢でその場に突っ立っているだけだった。


 ルリアは駆け出してから、両者の間合いが3メートルほどまでに詰まったその瞬間、走りながら軽やかに跳躍して身体を横方向に一回転させて鋭い回し蹴りをモネに放つ。


 モネは、それに対し、いかなる防御の構えも取らず、相変わらず気をつけの姿勢のままだった。



 ――モネにそのまま攻撃が当たる。

 


 そのコンマ1秒前に、モネは袖に隠していた洋風のサバイバルナイフを右手に取り、すさまじい速さでルリアに切りつける。

 ルリアの目には、そのサバイバルナイフがあまりにも速すぎて、モネを横切る一筋の閃光にしか見えなかった。

 そのサバイバルナイフの切っ先がルリアの回し蹴りよりも早く、ルリアの身体に到達する瞬間、その瞬間にモネのサバイバルナイフが何か硬いものに当たったかのように無惨にはじかれる。はじかれたサバイバルナイフは、モネの右手から離れ、スピンしながら華麗に宙を舞った。


 しかし、この状況は映像を注意深く確認していたモネにとっては想定内である。マシンガンの鉛弾の雨をはじきながら、先へ先へと進んでいくルリアの姿を見て、彼女はルリアにはいかなる物理攻撃も効かないと判断したのである。そして、その証明として、得意なナイフ攻撃をルリアに加えたのだ。


 モネはルリアの鋭い回し蹴りを腕で防御すると、そのままの勢いでルリアに蹴り飛ばされる。

 モネはしばらく宙を舞った後、バック宙を切って、地面に着地し、前かがみの姿勢のまま後ろへ滑りながら体勢を整えた。


 壁に映し出された3Dグラフィックスのモネの体力ゲージが7分の1ほど削られる。


「さっきのは一体……、何なのですか?」

 モネは、ルリアの奇術に思わず眉を寄せる。

「さあ……、何なのかしらねえ?」

 ルリアは、モネのその深刻そうな表情を見ると、不気味にニヤリと笑った。

「…………。まあ、いいでしょう。あなたが私の質問に答えるやいなや、この勝負は決まったようなものですから」

 モネは不敵に口元をゆがませる。

「そうね、結局私が勝つのだから!」

 ルリアは甲高く叫んだ。

 彼女はこの状況を見て、勝利を確信したのだ。


 

 ――そう、これはルリアの勝利の雄たけびなのである。



 その瞬間、強烈な鎌鼬かまいたちがルリアを襲った。


 ルリアのきれいな桜色の頬から真っ赤な鮮血が飛び散る。

 その瞬間、ルリアの表情から余裕の色が消えた。

 ルリアは多少こわばった表情でモネの方を見返した。

 見れば、モネは鞘から刀を抜いていた。


 さっきの鎌鼬、それは、モネが鞘から刀を抜いたときに衝撃波として発生したものである。


「私が勝つ? それはどの口が言っているのですか? どんなに不利な状況であっても、私が勝つに決まっているじゃないですか。何せ、ホワイトハウスの執事たる者、最強ですから」

 モネは、鞘から抜いた、その刀の切っ先をルリアに向ける。


 その刀を見たとき、ルリアは、モネとの戦いで初めて恐怖という感情を見出したのだった。

 ルリアはモネの持つ刀に一種の恐怖を感じていた。というのは、ルリアの有するスキル『いかなる攻撃も受けないスキル』をあの刀に破られたからである。その証拠として、ルリアは頬にかすかな切り傷を残している。

 物理的ダメージとしては微々たるものであるが、このスキルを打ち破ったという事実が彼女の心に大きな傷跡を残した。


「どうやら、あなたの刀には私のスキルが全く通用しないようね」

 ルリアはモネを睨みつける。


「スキル? それはさきほどの魔法染みたお遊びのようなものでしょうか? そうですね。私の妖刀には、そのようなお遊びは効かないようです」モネは再び不敵な笑みを浮かべた。「さきほどのお遊びが、あなたの強さを物語る全てであるのだとしたら、私は勝ちも同然ですね」


「なめないでくれる?」

 ルリアはモネの発言に対し、静かな怒りをあらわにした。

 すると、ルリアの衣服など体を被っていたものが、唐突にまばゆい光を放ち、ルリアはゲーム『The gate of ability』で装着していた装備に変化していた。ルリアの姿は、ひらひらのフリルがついたゴシック&ロリータのドレスを、黒いローブの下に着込んだ、いかにも、物語に出てきそうな魔女の姿だった。彼女の両手に白銀の拳銃が握られている点を除けば。


「次はどのようなお遊びをなさるのですか?」

 まるで、アニメのヒロインのように、或いは、戦隊モノのヒーローのように派手な変身をしたルリアを見て、モネは小馬鹿にするように尋ねた。

 

 すると、巨大な黒炎の光線がモネの横を通り過ぎる。

 耳をつんざくようなすさまじい衝撃音がモネを襲う。

 黒炎の光線はすさまじいエネルギーをもって、コンクリート塀に巨大なクレーターを残した。 

  

「さっきも言ったように、なめないでくれるかしら」

 苛立たしくそう言ったルリアのその左手、彼女の拳銃の銃口からは、にわかに白煙が生じていた。


 殻薬莢からやっきょうが音を立てて、タイルの上に転がり落ちる。


「かなり、本気のようですね。分かりました、それならこちらも、それ相応で応対致しましょう」

 ルリアの本気にモネは眼の色を変えた。

 

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