表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/48

洋館に忍び寄る怪人Ⅲ

「うん、おいしいわね。このハンバーグ!」


 ルリアはさもおいしそうに、頬に手を当ててハンバーグをほお張りながら言った。

 ルリアの目の前には、ハンバーグやピザ、シーフードサラダ、ホタテ貝のソテー、プリンの五種類のメニューが並べられていた。ルリアとモネは向かい合って席につき、二人がかりでルリアの食事を、あらかじめ用意されていた小皿に取り分けて食べているところだ。ルリアは、この食事を一人ではとても食べきれないということで、モネに完食を手伝って貰っているところだが、前述の通り、3人分から4人分の分量があるので本当に完食出来るかは怪しい。

 例えばハンバーグの分量についてだが、通常のファミレスのハンバーグなら1個200グラムの分量のところ、このハンバーグはその2・5倍に相当する1個500グラムというとてつもない分量のものが用意されている。さらにハンバーグだけで大人2人分に相当するのに、そのうえ、ドミノピザやピザーラなどの規格でMサイズに相当するファミリーサイズのピザまで用意されている。さらに、プリンもプリンで通常サイズの1・5倍である。


 いくら腹ペコのアメリカ人とは言っても、どうしてここまでの分量を食べきれるのかしら? こんなの普通なら食べきれない分量よ。少食の私にはとても考えられない。アメリカ人はいつもいつもこんな量のご飯を食べているのね。それなら、肥満大国No1というのもうなずけるわね。


 ルリアの小皿の上にはきれいに4等分に切り分けられたハンバーグとシーフードサラダがあった。

 すでに、ルリアのハンバーグの2分の一、ピザの6分の一はモネがたいらげてしまっていた。


「それにしても、よく食べるわねモネ。私はこのハンバーグだけでもうお腹一杯になりそうよ」

 モネのなかなかすごい食べっぷりにルリアは驚きながら言った。

 その食べっぷりは、まるまる3日間は何も口に入れていないさながらの勢いだった。

「いえ、そんなことはありませんよ。ルリアこそ、少食ですね」

 モネは紙ナプキンで一度口元を拭うと、一杯の氷水を一口飲んで、静かにコップを置いて言った。

「そんなことないわ、この食事が多すぎるのよ。それに、私達イタリア人は、朝食、昼食、夕食の3食のうち、昼食を一番食べるのよ。だから、朝食はそこまで食べる必要はないの」

「なるほど、そうだったのですね。それにしても、あちらの方は本当によく食べますね」

 モネは視線をヤマトの方へ移した。


 ヤマトは現在、すでにハンバーグを完食しており、ゆっくりとピザを味わっているところだった。ピザは4つ分けに様々な味付けがなされており、例えば今ヤマトが食べているピザは炭火焼ビーフで、その隣にはマルゲリータやアンチョビ、ガーリックチキンという構成になっている。

 ルリアは、ヤマトの口元にケチャップを付けながら美味しそうにピザを食べている姿を見て、思わずくすくす笑った。


「そりゃあ、ヤマトはカナダ育ちだからね」

「そういうものなのですか?」

「いや、私に訊かれてもカナダの事情なんて分からないわ」

 ルリアはコーヒーの入ったマグカップを手に取り、ゆっくりと飲みながら言った。

「それにしても、いくらルリアが昼食をよく食べるから朝食を控えめにするとは言えど、さすがにこれは少なすぎると私は思いますが…………」

「仕方ないじゃない。私は基本的に朝食はコーヒーとトースト1枚で済ませているのだから」

「…………少し、つかぬことを伺いますが、ルリアさん……あなたの身長いくつですか?」

 モネは、何かを見定めるかのように、目を凝らしてルリアの方をじーっと見ながら尋ねる。


「何故…………、そんないきなり唐突に!?」 

 ルリアはその視線に思わずドキッとしながら気を乱して尋ねた。


「何となくです」

 モネは抑揚のない口調で手短に言った。

「…………152センチ」

 ルリアはうつむきながら、ボソリと小さく呟いた。


「……いくらか誤魔化していませんか?」

 ルリアに向けられた視線がさらに鋭さを増した。


「い……いえ…………」

 ルリアは言いようのない圧迫感に身をとらわれながら、吐息を吐くように小さく答えた。

「だいたい8センチ程度誤魔化しているでしょう?」

 モネのするどい言葉がルリアの心にぐさりと突き刺さる。


 うっ…………、バレてる。

 私の身長が144cmだってことがバレてる。

 ていうか、何で私の身長が144センチってことが分かるわけ!? まさか、人を見れば一瞬でその人の身長を分かるとか、そういう変な特技を持っているとでも言うの!?


「そ……そんなことはないわ、私の身長はピッタシ152センチよ」

 ルリアはすっかり取り乱して、あたふたしながら言った。

「誤魔化しても無駄ですよ。どう見てもあなたが150センチあるようには見えませんからね」

 あたふた取り乱しているルリアに対し、モネは完全に落ち着き払って言った。

「うっ…………、そ……そうよ、私の身長はそれよりちょうど8センチ低い144センチよ」ルリアはそっぽを向いて、吐き捨てるように言った。「それで、どうして私の身長が144センチってことが分かったわけ?」

「ホワイトハウスの執事たる者、万能ですから」

 モネは少しだけ口元に微笑みを浮かべながら言った。

「……何か釈然としない理由ね、他にもっと具体的な理由はないのかしら?」

「これ以外にそのことを説明できる理由はございません。それより、ルリア。あなたはもう少し朝食を食べるべきですよ、だから、背が低いのです」


 うっ……、前にもママからそんなこと言われた気が……。


「そんなこと言っても、仕方がないでしょ。もう私は高1で、背なんてこれから1センチも伸びやしないのだから。それに、私の胃の容量はそう簡単に変えられるものではないのよ」

 ルリアは片方の手で親指と人差し指の間に1センチくらいの間隔を作りながら言った。

「確かにそれはごもっともではございますが、それだと胸の発育にはあまりよろしくありませんよ」

「そんなことはあなたに言われたくないわね。あなたも私と同じくらいに胸の発育がよくないじゃない?」

 ルリアはニヤニヤしながら小馬鹿にするような口調で言った。

「そうですか? それなら試しに私の胸を触ってみてもよいのですよ?」

 モネの表情はほとんど無表情に近かったが、喧嘩腰になっているのは明らかだ。

「それはおもしろそうじゃない。分かりやすい挑発だけど、あえて、乗ってやろうかしら?」

ルリアは挑むように、大胆不敵な笑みを浮かべた。

「まるで、今から私と戦いたいとでも言うような発言ですね。もし、そうなのだとしたら、今からでも、もう少し広いところに案内してもよろしいのですよ?」

「それもそうね。ただ、あなたの胸を触るだけなんてつまらないもの。せっかくだし、あなたの実力を測るのも兼ねて、手合わせ願おうかしら」

 ルリアとモネ、彼らは互いが互いに鋭利で攻撃的な視線を交し合っていた。それをとなりでヤマトは静かに見守っているだけなのだった。

「分かりました。それでは、私の跡をついて来て下さい」


 モネは席から立ち上がると、静かに椅子の座面を机の下に元に戻して、部屋の外につながるドアの方へ向かった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ