『The gate of ability』 序章Ⅳ
『The gate of ability』。
それは世界史上初のVRMMOである。パソコン内でソフトを起動し、付属品であるバイクのヘルメットのような脳波を測定する装置『ヘッドデバイス』のUSB端子をパソコン本体に繋ぎ、使用者がそれを頭に装着することでゲームをプレイすることができる。なお、使用者がプレイ中に第三者によって『ヘッドデバイス』を外された際には、使用者の意識は現実世界に強制送還され、ゲーム内での使用者はその場でフリーズ状態の形でゲーム内に残存することとなる。その場合、使用者が再び『ヘッドデバイス』を装着することによって、フリーズ状態が解除され、再びフリーズされた地点からゲームを続行することが出来る。ただし、使用者がフリーズ状態になった際であっても、ゲームはそれに関わらず進行されるため注意が必要である。
このゲーム内での体感時間はリアルタイムの4倍早く、ゲーム内での1時間が、リアルタイムの15分間に相当する。
以上がこのゲームについての詳細である。これらのことに留意してゲームを正しくプレイしていただきたい。
四方八方が無機質なコンクリートに囲まれた立方体の奇妙な空間。
パソコンでソフトを起動し、ヘッドデバイスを装着して、気づいたときには俺はここにいた。
何かのバグなのか……、それとも、
俺は懐疑心を持って、辺りをくまなく見渡した。
見たところ、この空間には俺のほかに誰もいない。
この空間にある唯一の情報源と言えば、それは壁越しから響いている謎のフィルターの吸気音のみだ。
さて、これはバグなのか。それとも正常なのか。
相変わらず、疑問の嵐が俺の周囲を駆け巡る。
『The gate of ability を購入していただき誠にありがとうございます。これから、このゲームをプレイしていくにあたって、VRMMOに身体を慣らせていただくために、トレーニングを開始したいと思います』
俺がこの現状に対し疑心暗鬼となっている中、突然、どこからともなく抑揚のない女性の声が、機器から発せられた微量のジャミング音とともに、この空間内に響き渡るのだった。
『まず、警報音を鳴らしますので、警報音を消すためにボタンを押してください』
すると、警報音が突然鳴り出す。
何だ、この音は? 俺のポケットからなのか?
俺は、ポケットから警報音が発生するのを確認すると、すぐさまポケットに手をのばした。
すると、ポケットの中にある何かが手にぶつかった。
何だこれは?
俺は、そう思いながら、ポケットの中にある謎の物体を取り出す。
それは、スマートフォンのような形をした、見慣れない機器だった。
機器の外形や大きさはスマートフォンに似ているが、ディスプレイはなく、下の方に小さいボタンが一つついているだけだった。
俺はポチッとその機器のボタンを押す。
すると、警報音は止まり、俺の視界にはゲーム画面のようなHPゲージ、スタミナゲージ、マップが表示される。
まるで、ゲーム画面を俺の視界にそのまま移植したような感じだな。
『ボタンを押されたようですね。この機器はゲーム内ではトランス・テスラといいます。あなたの視界にはゲーム画面が表示されたことでしょう。それでは、あなたから見て右上にある【option】という表示をタッチして下さい。』
俺は指示された通りに、動作を進めていく。
『すると、あなたの視界には上から【tool】、【equipment】、【status】、【selection】、【exit】の5つのタイトルバーが表示されていることでしょう。【tool】は主に道具の引き出し、【equipment】は装備の変更、【status】は所持金や各戦闘能力値、スキルの確認、【selection】は言語の変更や他プレイヤーとの決闘の申し込み、各種設定の変更、【exit】はタイトルバーを閉じます』
これが、VRMMOか。これからの展開が楽しみだな。とにかく、ここは【selection】をタッチして、【language】の部分を英語から日本語に変えておかないとな。
『これにて、基本的なこのゲームに関する操作についての説明を終了いたします。それでは、今から実戦演習を行いたいと思います。まずは、【equipment】をタッチして武器の装着をお願いいたします』
【equipment】と言えば、上から2番目のタイトルバーだったな。
まずは、鎧からだ。
俺は何となくで鎧をタッチすると、フォトンを発して鎧が俺の身体に装備される。
だが、不思議とその鎧は鋼鉄で出来ているはずだが、重さを感じることはなかった。
そして、次は武具の装備だな。
俺は目の前の仮想タッチパネルを駆使して、武具の装備を変更する
するとそこには……、
ハリセン!?
が武具の装備に表示されていた。
これは何かの間違いだろうか…………、
いや、待て。
これはただのハリセンじゃないかもしれないぞ。
ひょっとしたら特別製の可能性だってありうる。
俺はそんなことを心の中でぶつぶつ呟きながら、ハリセンの攻撃力をタッチして確認する。
攻撃力1………………。
いや、待て待て待て待て。
まだ、分からないぞ。
このゲーム、もしかしたら基準となる武具の攻撃力が少数点レベルなのかもしれないぞ。
もしそうならば、俺のハリセンの攻撃力は高い方になるはずだ。
それならば、この攻撃力でも問題ないだろう。
俺はハリセンをタッチして、装備するのだった。
『武器を装着しましたね。それでは、実戦演習を開始したいと思います』
すると、頑丈な鉄の鎧に覆われた、剣を持った一人の戦士が光芒を散らして出現する。
身長はゆうに4メートルを超えており、仮面により顔は拝めないが、胸部の鎧の膨らみ方からして女性のような印象を受けた。
『実戦演習の内容は非常に簡潔です。それは、ここから目前にある出口からこの空間を脱出し、ゲーム画面のマップを駆使して、目的地へ到着することです』
製作者によってプログラミングされたボーカロイドがそう言うと、ゴゴゴゴゴと鈍い音を立てて、ゆっくりと目の前にある壁が上に上がっていくのが分かる。どうやら、あれがこの空間の出口のようだ。
『それでは準備はいいですか? 始めてください』
ボーカロイドが言うと同時に、戦士が動き出す。