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聖剣カタストロフィⅤ

 時刻は夜の9時を迎えた。


 凛に大地、オルターはすでに自室に戻っており、俺はベッドにあお向けになりながら、消灯済みの薄暗い部屋の中でぼーっと天井を見つめていた。


 俺は、長い間監禁されていたので、学生寮の定める所定の時刻に間に合わず、夕食を取ることも風呂入ることも出来なかった。


 俺は、何となく空腹に悩まされながら、ぼーっと天井をベッドから見上げながら、今日1日のあらゆる出来事の反省を頭の中で行っていた。


 ところで、俺は1度監獄入りし、そして、脱獄したわけだから、晴れて明日からは俺も国内指名手配犯リストの仲間入りを果たしたということになる。

 ひょっとしたら、明日にはどこかの掲示板に俺の顔写真が大きく張り出されているかもしれない。

 そうなれば、学園生活はおろか、この国での生活すら困難になってくるはずだ。

 さて、どこの国に国外逃亡を謀るべきか……、

 例えば、今度戦争する相手国であるユーパル王国? 

 いや、いくら国際指名手配犯になったからと言って、それでわざわざ対戦国の住人を国内に入れるなんて話はあり得ない。そのような手続きをしようものなら、門番にすぐさまスパイ扱いされて、その場で弾圧されるのがオチだ。

 とにかく、俺は今夜中に国外逃亡を完了していなければならないのだ。

 面倒なことにな。

 しかも事態はそれだけには留まらない。

 俺だけならともかく、同じようなことはオルターや凛、大地にも言えるのだ。

 彼らは、俺の脱獄を手伝ったとして、刑罰の対象になるからだ。


 さて、これからどうしようか?


 俺は、ベッドから身を起こすと、窓から満月の夜空を寂しげな表情で見上げた。

 満月は白く、淡い光を放っていた。

 それは決して強くはなく、むしろ微弱ではかないものであったが、俺を勇気づけるには十分だった。

 俺は、満月に照らされた薄暗い室内で一つの決心をした。

 それはどのような決心だったかと言えば、

 

 ――旅に出よう――


 そういう決心だった。


 ただ、決心はしたもののあまりに空飛びな発想に、俺は自分自身を真に驚かせてしまう。


 果たして、これが上手くいくのだろうか?


 そうは言っても、この国から出て行く他に何も手段がないのだから、もうつべこべ言っていられないはずだ。


 もし何か問題が起これば、その問題については、後から考えればいい。


 俺はそう考えると、夜空をあとにし、ベッドに戻…………?


 らない。


 ベッドの掛け布団が妙に盛り上がっている。

 ベッドの中に何かいるのか?


 俺は自身のベッドにじっくり目を凝らした。


 すると、モゾモゾモゾモゾ……。

 俺のベッドの中で何かがうごめいていた。


 俺はその奇妙な光景に、ある種の不信感を(つの)募らせた。


 一応、目の前で何が起こっているのかは分かる。

 何かが布団の中でゴソゴソしているのだ。


 それにしても、この場合どうすればいいのか?


 俺は一つ決心すると、おそるおそる布団に手を伸ばし、

 バッ!

 勢いよく、かけ布団を放り投げた。


 すると……、


「み……見ないで下さい!」

 そこには、ベッドの上に恥ずかしそうにしながら腕で胸元を隠す下着姿のオルターがいた。


 オルターの肌は、透き通るように白く、触れると壊れてしまいそうなはかなさがあった。

 それは、芸術品のようだった。

 無論、生きた芸術品である。

 これは、神様が生み出した生の芸術品であるに違いない。

 オルターの下着姿を見た俺は、そう考えるのを全くためらうことをしなかった。

 オルターの身体にはそれだけの美しさが兼ね備えられていたのである。


 オルターの下着姿を見た俺は、目が点になって身体が石像のように動かなくなってしまうのだった。


 この際、何故下着姿なのかについては特に言及しないでおこう。


 ていうか、どうしてここにいる? まさか、夜這いにでも来たのか?


「春人……? 私の声が聞こえなかったのですか?」

 オルターは、威圧感のある不気味な笑みを浮かべて、俺に重たい言葉で忠告する。


 俺の身体が思わぬ恐怖から身震いを起こした。

 俺は、オルターの体から視線を外すために、慌てて後ろを振り向く。


「私だって、自分から望んでこの姿になったわけではありません。ちょっと能力の副作用で……」

「分かった。それじゃあ、俺の制服貸すから、少し移動の準備をしてくれないか?」


 俺はクローゼットに手を掛けると、そこからワイシャツ、制服を取り出して、正

面を向いたまま、後ろに放り投げる。


「春人、絶対に後ろを見ないで下さいよ。絶対に!」

「分かってるよ。大丈夫だ、俺を信じてくれ」


 俺とオルターは各自、制服に着替え始めた。


 たまたま、予備の制服を1着買い揃えておいて助かったな。


 それにしても、現在オルターが俺の部屋で男子制服に着替え始めているわけだが、何だこの状況? どう考えても普通じゃないな。


 まあ今日は、あり得ない出来事が立て続けに起こる日だから、多少変なことがあっても気にしないでくれと、神様はそう言ってくれているのか?


 とにかく、俺はそう受け取っておこうか。


「ところで、春人? 少し移動の準備ってどこに移動するのですか?」

 オルターはさっさと男子制服姿に着替え終えると、嬉々とした表情で後ろから勢いよく俺に抱きついてくるのだった。

 すると、オルターの胸が俺の背中にこそばく当たった。


「それは、凛と大地の部屋だ」

「えっ、もう消灯時刻を過ぎて二人はもう寝ていると言うのに……、春人、まさかあなた二人を夜這いに……!?」


 俺はいつの間にバイセクシャル認定された!?


「そんな訳ないだろ。あの二人、そして、オルターもだが、俺の脱獄を手伝ったとして、明日には掲示板の指名手配犯のリストに入っているはずだ。そうなると、俺達は学生生活どころか、この国で自由に生活することすらままならないはずだ。だから、今夜中にはこの国を出たいと、俺はそう考えているんだよ」


「なるほど、そういうことでしたか」

 オルターは納得したような表情で言った。


「そういうことだ。そんなわけで、オルター。さっそくだが、あの霊剣で凛のところまで行って、事情を話して、この部屋に連れてきてくれないか? 俺は大地をこの部屋につれてくるから」

 俺はそれだけ伝えると、オルターに背を見せて、ドアノブに手を伸ばした。


「分かりました。それではお気をつけて」

 オルターはそんな俺の姿を笑顔で見送るのだった。



 

「それにしても、消灯後の夜に町を出歩くなんていつ以来かねぇ」

 凛は、どこか懐かしそうな表情で言った。


「さあな。ここんとこ学校の規則が厳しくなってからは、そうそう外出なんて出来たもんじゃなかったしな」

 大地は、街灯に照らされた夜の町の姿を一つ一つ目に焼き付けながら言った。


「まあ、とりあえず外出が出来るのはオルターのお陰だな」


「そもそも、外出の原因を作ったのは、あなたですけど」

 オルターは、冷たく言い放った。


「そうよ! ていうか、春人が姫様に対して変な妄想したから、こうなってんじゃない!」


「仕方ないだろ。まさか、姫様があんなふうに人の心を読むなんて知らなかったんだから」


「まあ、気を許してやれよ凛。これは男の宿命だ」


「全く男って本当に変態ばかりね、どうして姫様みたいにものすごい美人が現れたら、すぐ変な妄想に走るのかしらねえ」

 凛は呆れた調子で言った。


「お前達女子だって、かなりの美形男子の二人組みが目の前に現れたら、どちらが攻めか、どちらが受けかとすぐに妄想するくせに」

 俺は、多少馬鹿にされた気分になったので、何となくで言い返す。


「それは偏見よ、偏見! そんな曲がった考え方してるから、学校でも友達が全く出来ないのよ」


「そうです! いい加減まともに友達を作ったらどうですか、春人!? もし、あなたに私達という幼馴染みがいなければ、今頃あなたは一人じゃありませんか!」


「それは、オルターにも凛にも関係ないことだろ。俺は学校では一人の方が落ち着くんだよ。だいたい友達なんて、独りになるのが怖いから群れているってだけじゃないか。俺は独りになるのは、別に怖くもなんともないし、群れるのは弱者の考え方だ」

 俺は、ついむきになって、言い返した。


 それを聞いたオルターと凛は、風船のようにほっぺをふくらました。


「まあまあ、そのへんにしておこうぜ。その手の話し合いは」

 大地は、口喧嘩くちげんかを止めるために仲介に入った。


「そうよね、どうせこんなこと言ったところで、春人が変わるはずもないしね」


「それもそうですね、春人には春人の考え方があるということで、そういうことにしておきましょう。ところで……」


 オルターは突如として、警戒心から目を細めた。


「ええ。つけられているわね、何者かに」

 凛は深刻そうに言った。


 俺達は一斉に後ろへ振り返る。

 すると、そこには9人ばかりの人影があった。


「いつから気づいていたのかしら? つけられているって」

 その中の一際背の高い少女が不敵な笑みを浮かべて尋ねた。


「大地が私達の言い争いを止めに入ったときよ。それで、あなた達は一体何者かしら」

 凛は背中に手を伸ばして、巨大な斧を取り出した。


「すでに、我々の正体については沙姫や美架から聞いていると思うけど?」


 なるほど『Evil Innocence』か……。

 しかも、今回は9人!


 ピンチだ。

 限りなくピンチだ!


「オルター? 霊剣の方の準備は出来てるか?」

「すみません、春人。ちょっと能力を使いすぎたみたいで……実は……」


 詰んだ!

 完全に詰んだぞ、今!

 あいつら2人ですらかなり厳しいのに、それが9人。

 勝てるはずがない。


 その瞬間、俺の腹部に強烈な痛みが走った。


「まずは一人です」


 何者かのパンチが俺の腹部を致死レベルの瀕死に追い込む。 

 俺はどす黒い血反吐を吐きながら、その場に無惨に崩れ落ちるのだった。


  


 

 

 

 


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