無理矢理仕事を押しつけられました!
「待ってたぞ阪斗!」
局長室には、美人だが残念な麗香だ。
彼女には、胡桃がいなくなってから大変お世話になった。胡桃が亡くなってから、すぐに人材を補充するのは難しいとの事だったので、俺が新部長に立候補したのだ。最初、他のクラス討伐受付部長に白い目で見られたが、麗香の後押しで就任する事が出来た。
前までは、呼ばれる事もなく。部長業は独学で何とかした。最近ではそれも高く評価され、周りの部長にも受け入れられてきた。麗香も満足しているらしく、最近では麗香の仕事も手伝ってたりする。
「お疲れ様です。局長」
俺が部屋に入ると、麗香は相変わらずタバコに火をつけ始めた。その動作は、俺がこの星に来てから、まったく変わらない。タバコは地球にいた頃からの癖だという。現在吸っているタバコ達は、地球から送られてくるらしい。
「相変わらず堅苦しいな阪斗。もっと力抜いたらどうだ? お前さんが、休んでる所を見たって誰も文句は言わないさ」
「そうも言ってられませんよ。どこかの局長みたいにすぐサボる人も沢山いるので」
「ほぅ~。言うようになったな阪斗。ま、別に私は私で勝手にやるからいいんだよ」
そう言ってから、タバコの煙を吐く。そして、戸棚から書類を取りだした。俺はそれを取りに、麗香に近づく。
麗香は「ん」とだけ言って、俺に紙を手渡しした。
俺は、渡された紙を最初から最後まで長々と書かれた文章を読む。
「それは上からの伝達だ。お前も出席するよな?」
「はぁ……俺達の年にはなかったですよね?」
「まぁな。去年は地球への帰還希望者が後を絶たなかったからな」
地球への帰還者。俺と同年代の人間の地球での勤務を希望する者。俺の代には、花樹と瑞樹。他にも少しだけいるが、殆どは地球に帰った。それもその筈で、誰だって人が死ぬような現場にはいたくないだろう。毎年、研修は実行するらしいが、研修中に先輩達が死ぬケースはなかった。去年が初めてだと言う。
例年では、スキルを身につけた研修者達は、この星に残るのだが、その後に先輩達が亡くなったりして帰りたいと嘆く。だが、その頃には役職も上がって、俺のように帰れない環境になってるらしい。かなりのブラック企業だ。
そして、俺が渡された書類は、研修者の為の歓迎会だ。前回、沢山の帰還者を出してしまったので、今年は人員補充をしっかりとしてほしいのだろう。だが、歓迎会を開いても、俺は地球へと帰る事をオススメするつもりだ。
俺らのCクラス討伐受付にも何人か、来る事になっている。そうすれば、俺もまた忙しくなるな。
「それでさ、阪斗に頼みたんだけどさ」
「またですか」
麗香は俺を局長室へと招く時は、大体何か仕事を押しつけられる時だ。それを覚悟の上でなければ、そうとう痛い目に遭う。
麗香は両手を擦り合わせて、俺にウィンクで頼みこむ。その仕草も、さすがと言うべきか、中々様になっているのだ。
俺は溜息を吐いて、首を縦に振った。
「いいでしょう。なんですか」
「今回の歓迎会で使うテントを作るのに、布やら鉄鉱石が足らないんだ!」
「……わかりました」
この星には幾つも、エリアがある。それも鉄鉱石で出来た洞窟だってあるし、布なんかは糸虫という虫を多量に採取すれば簡単に作れる。
まぁどちらも、Bクラスモンスターがうじゃうじゃいるような場所なのだが。一人でも問題はない筈だ。もし王族種が現れれば、全力で逃げるだけだ。灰巨狼は別だがな。
「それで、いつまでに集めればいいんですか?」
「今日の夜だ! 何分、明日の朝には研修者を乗せたポットが到着するからな!」 「それマズイじゃないですか!!」
「そうなんだよ! 頼んだ!」
「ちょ、局長!?」
麗香は頼むと言ったら、どこかへ消えてしまった。
また、いつもの手だ。局長室にある転送ポータルでどこかに逃げたらしい。まったく逃げるのだけは早い。
こうなってしまえば、意地でも今日の夜までに集めて、麗香に説教を浴びせてやる。
俺は颯爽と局長室を出る。
神殿内を走っていると芽衣に見つかる。
芽衣はカウンターで頬杖をつきながら、欠伸をしていた。
「こらっ! 咲浦っ! サボるなよ!」
「あ、部長! サボってません。個人的な欲求を仕事中に済ませているだけです」
「それを、社会ではサボるって言うんだよ!」
「でも、ここって社会じゃなくて星ですよ?」
「屁理屈言うなぁ!」
俺は一瞬止まって芽衣を叱る。だが、芽衣に叱られてる自覚はなくて、今も部長である俺を前にしても欠伸をする。いい度胸だ。
この星には変な奴しかいない。
「帰ったら説教だ! 減給だ! 労働時間増やしてやる!」
「横暴ですよ~って早くどっか行かなきゃいけないんじゃないんですか?」
「……悔しいがお前の言うとおりだ! じゃあな」
「はいは~い」
眠たそうに俺を見送る咲浦だった。
◇
俺は転送ポータルに乗って、まず鉄鉱石で出来た洞窟入り口に来た。ここの洞窟は真っ暗で何も見えないので、一時間光を保ち続ける、光石を何個か携帯しなければいけない。
現在時刻は午前10時。
隆二との仕事が早めに終わって良かった。
歓迎会は雨が降れば即効で終わりになっていただろう。悔しい事に、明日星の天気は雨だ。
まったく運がない。もし、雨でなければこんな所にいない。
「はぁ……」
俺は溜息を吐いて、光石をつけた。
付け始めは眩い光なのだが、段々と目が慣れてくる。閃光石とかよりかは全然平気だ。
俺は大剣グランド・オルトロスを背中に背負い、つるはしを二刀流で所持する。
奥に入って数分くらい歩いた頃。丁度いい場所があったので、そこに大剣を床に置き、つるはしの一つも一緒に置く。
一本のつるはしを両手で握る。
確か、発掘系のスキルは俺は覚えてなかった気がする。
しょうがないので、俺は普通に彫り続けた。
「ふぅ……」
携帯で時刻を確認すると、掘り続けてから一時間経っていた。長い間、掘り続けたのだが、鉄鉱石を発掘するのはかなりの労力を消費する。そのおかげで、鉄鉱石は未だ、十個に満たない数しかない。大体テント一つ作るのに必要な数は六個だ。これではまだテント一つ作れない。
研修人数は大体百人前後だ。それに対して必要なテント数は、俺らの席を含めて恐らく二十個くらいだろう。
脳内で計算すると、もはや途方もない作業に思えてくる。このままではマズイ。何か考えないと布を作る時間がない。
そんな中、俺の視界内に武器マークのアイコンが点滅しだした。
そういえば、つるはしは立派な武器であった。という事はちゃんとしたスキルでもついてるのだろうか。
【分類:片手剣】
つるはし
斬撃力 1
打撃力 1
研磨による最大斬れ味 1
特殊スキル 発掘レベル1 熟練度 10/10
と表示されていた。
ならば、俺は今スキル、発掘レベル1を覚えたのだろう。
俺はつるはしを置いて、愛刀の大剣グランド・オルトロスを手にする。つるはしと違って、重量がかなりある。今回はモンスター相手ではないから使用目的が違うから、どうなのか微妙だが、つるはしよりは効果がありそうだ。
俺は大剣を持ち上げ、思いっきり振りかぶる。
「ぬぉおおおおおおおお!!」
俺は大剣を鉄鉱石の発掘できるであろうポイントに、思いっきりヒットさせる。発掘系スキルはエフェクトなどは発生しなかった。しかし効果は凄くあった。
何と、俺が一回大剣を振っただけで、鉄鉱石が五個は取れた。
俺は嬉しさが顔に現れる。
それから、すぐに発掘を再開させる。
さらに気付いた事で、攻撃系スキルを発動させると、再び取れる個数が増える。連続剣技系のスキルを何発か使った所、疲労も先ほどよりはせずに、楽に仕事ができた。
あっという間に、鉄鉱石の個数が三百個以上に達した。
俺の頬を伝う汗を拭い、大剣を背中にしまう。
それから、視界内の大剣の斬れ味ゲージを確認すると、そうとうヤバい事になっていたので、その場で砥石で綺麗にした。
それから、次は糸虫を捕まえに行かなければいけないので、一回村に戻って昆虫網を買ってこなければならない。
これだけやって必要経費が落ちなかったら、次からは局長室に呼ばれても絶対にいかないと決意する。
転送ポータルに戻るまでの道で、地球にいそうな化石探求家らしき人物の姿があった。どこの化石探求家も変わらないもので、うすい土のような色の服を着用していた。
この人物は村の人間ではない。この星には、まだ大型の都市はないが、きちんとした都市部らしき場所は存在する。そこにも俺の担当するCクラスモンスター討伐受付がある。最初から村につきっきりな俺は都市部の方へは行っていない。
この化石探求家も都市部か、または別の村の人間なのだろう。ついでに言ってしまえば、俺らは会社で雇われてる人間だが、都市部の人間は基本、この星の生まれだ。だからだろうか。俺らのような余所者は結構拒まれたりする。
その化石探求家は、片手につるはしを持っていた。
俺も苦労したな~と思いながら、彼を見つめていると、すぐさまポイントを発見したようで、荷物を置く。
こっからは苦労の連続だろうな~と思って眺めていると、彼は一回つるはしを命中させただけで、鉄鉱石が五十個程地面に転がった。
「ちょ、どうなってるんだ!?」
俺は思わず口にしてしまった。
そこで化石探求家なる人物は俺に振りかえってくる。その表情は帽子で隠れて見れなかった。ついでに性別も分からない。
「ん? 不思議な事かね?」
「え、あ、そ、そうです。だって、俺さっきつるはしで一時間頑張っても、数量しか取れなかったんですよ?」
「ふぅむ。それが今はそんなに……窃盗はいけないよ?」
「あ、ち、違います! これはその後、自分の剣で頑張ったんです」
化石探求家は予想通り、男だった。それも結構年配だった。
その男は顎に手を当て、悩んでいた。
「その方法があったか。さすが若者だ! 頭が柔らかいの~」
「そういうわけでは……」
「ついでに、わしの穴も結構ゆるいぞ」
「その情報はいらないです」
冗談を言いだした化石探求家は笑いだした。
そして、つるはしの手を止め、俺に近づいてきた。
「これも何かの縁じゃ。わしは発掘技術師の相良 与太郎だ。よろしく」
握手を求める与太郎の手に、俺の手は動かなかった。
さがら……?
俺の顔が驚愕の色を浮かべ、与太郎の顔を見つめる。
「そうじゃ。お主を守って死んだ、相良 胡桃の祖父がわしだ」