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アナザー・リアリティ  作者: 大岸 みのる
第一部:入社一年目の軌跡
8/50

無理矢理仕事を押しつけられました!

 「待ってたぞ阪斗!」

 

 局長室には、美人だが残念な麗香だ。

 彼女には、胡桃がいなくなってから大変お世話になった。胡桃が亡くなってから、すぐに人材を補充するのは難しいとの事だったので、俺が新部長に立候補したのだ。最初、他のクラス討伐受付部長に白い目で見られたが、麗香の後押しで就任する事が出来た。

 前までは、呼ばれる事もなく。部長業は独学で何とかした。最近ではそれも高く評価され、周りの部長にも受け入れられてきた。麗香も満足しているらしく、最近では麗香の仕事も手伝ってたりする。


 「お疲れ様です。局長」

 

 俺が部屋に入ると、麗香は相変わらずタバコに火をつけ始めた。その動作は、俺がこの星に来てから、まったく変わらない。タバコは地球にいた頃からの癖だという。現在吸っているタバコ達は、地球から送られてくるらしい。

 

 「相変わらず堅苦しいな阪斗。もっと力抜いたらどうだ? お前さんが、休んでる所を見たって誰も文句は言わないさ」

 「そうも言ってられませんよ。どこかの局長みたいにすぐサボる人も沢山いるので」

 「ほぅ~。言うようになったな阪斗。ま、別に私は私で勝手にやるからいいんだよ」


 そう言ってから、タバコの煙を吐く。そして、戸棚から書類を取りだした。俺はそれを取りに、麗香に近づく。

 麗香は「ん」とだけ言って、俺に紙を手渡しした。

 俺は、渡された紙を最初から最後まで長々と書かれた文章を読む。


 「それは上からの伝達だ。お前も出席するよな?」

 「はぁ……俺達の年にはなかったですよね?」

 「まぁな。去年は地球への帰還希望者が後を絶たなかったからな」


 地球への帰還者。俺と同年代の人間の地球での勤務を希望する者。俺の代には、花樹と瑞樹。他にも少しだけいるが、殆どは地球に帰った。それもその筈で、誰だって人が死ぬような現場にはいたくないだろう。毎年、研修は実行するらしいが、研修中に先輩達が死ぬケースはなかった。去年が初めてだと言う。

 例年では、スキルを身につけた研修者達は、この星に残るのだが、その後に先輩達が亡くなったりして帰りたいと嘆く。だが、その頃には役職も上がって、俺のように帰れない環境になってるらしい。かなりのブラック企業だ。

 

 そして、俺が渡された書類は、研修者の為の歓迎会だ。前回、沢山の帰還者を出してしまったので、今年は人員補充をしっかりとしてほしいのだろう。だが、歓迎会を開いても、俺は地球へと帰る事をオススメするつもりだ。

 俺らのCクラス討伐受付にも何人か、来る事になっている。そうすれば、俺もまた忙しくなるな。


 「それでさ、阪斗に頼みたんだけどさ」

 「またですか」


 麗香は俺を局長室へと招く時は、大体何か仕事を押しつけられる時だ。それを覚悟の上でなければ、そうとう痛い目に遭う。

 麗香は両手を擦り合わせて、俺にウィンクで頼みこむ。その仕草も、さすがと言うべきか、中々様になっているのだ。

 俺は溜息を吐いて、首を縦に振った。


 「いいでしょう。なんですか」

 「今回の歓迎会で使うテントを作るのに、布やら鉄鉱石が足らないんだ!」

 「……わかりました」


 この星には幾つも、エリアがある。それも鉄鉱石で出来た洞窟だってあるし、布なんかは糸虫という虫を多量に採取すれば簡単に作れる。

 まぁどちらも、Bクラスモンスターがうじゃうじゃいるような場所なのだが。一人でも問題はない筈だ。もし王族種が現れれば、全力で逃げるだけだ。灰巨狼は別だがな。

 

 「それで、いつまでに集めればいいんですか?」

 「今日の夜だ! 何分、明日の朝には研修者を乗せたポットが到着するからな!」 「それマズイじゃないですか!!」

 「そうなんだよ! 頼んだ!」

 「ちょ、局長!?」

 

 麗香は頼むと言ったら、どこかへ消えてしまった。

 また、いつもの手だ。局長室にある転送ポータルでどこかに逃げたらしい。まったく逃げるのだけは早い。

 こうなってしまえば、意地でも今日の夜までに集めて、麗香に説教を浴びせてやる。

 俺は颯爽と局長室を出る。

 

 神殿内を走っていると芽衣に見つかる。

 芽衣はカウンターで頬杖をつきながら、欠伸をしていた。

 

 「こらっ! 咲浦っ! サボるなよ!」

 「あ、部長! サボってません。個人的な欲求を仕事中に済ませているだけです」

 「それを、社会ではサボるって言うんだよ!」

 「でも、ここって社会じゃなくて星ですよ?」

 「屁理屈言うなぁ!」

 

 俺は一瞬止まって芽衣を叱る。だが、芽衣に叱られてる自覚はなくて、今も部長である俺を前にしても欠伸をする。いい度胸だ。

 この星には変な奴しかいない。


 「帰ったら説教だ! 減給だ! 労働時間増やしてやる!」

 「横暴ですよ~って早くどっか行かなきゃいけないんじゃないんですか?」

 「……悔しいがお前の言うとおりだ! じゃあな」

 「はいは~い」

 

 眠たそうに俺を見送る咲浦だった。




 ◇




 俺は転送ポータルに乗って、まず鉄鉱石で出来た洞窟入り口に来た。ここの洞窟は真っ暗で何も見えないので、一時間光を保ち続ける、光石を何個か携帯しなければいけない。

 現在時刻は午前10時。

 隆二との仕事が早めに終わって良かった。

 歓迎会は雨が降れば即効で終わりになっていただろう。悔しい事に、明日星の天気は雨だ。

 まったく運がない。もし、雨でなければこんな所にいない。

 

 「はぁ……」


 俺は溜息を吐いて、光石をつけた。

 付け始めは眩い光なのだが、段々と目が慣れてくる。閃光石とかよりかは全然平気だ。 

 俺は大剣グランド・オルトロスを背中に背負い、つるはしを二刀流で所持する。

 奥に入って数分くらい歩いた頃。丁度いい場所があったので、そこに大剣を床に置き、つるはしの一つも一緒に置く。

 一本のつるはしを両手で握る。

 確か、発掘系のスキルは俺は覚えてなかった気がする。

 しょうがないので、俺は普通に彫り続けた。


 「ふぅ……」


 携帯で時刻を確認すると、掘り続けてから一時間経っていた。長い間、掘り続けたのだが、鉄鉱石を発掘するのはかなりの労力を消費する。そのおかげで、鉄鉱石は未だ、十個に満たない数しかない。大体テント一つ作るのに必要な数は六個だ。これではまだテント一つ作れない。

 研修人数は大体百人前後だ。それに対して必要なテント数は、俺らの席を含めて恐らく二十個くらいだろう。

 脳内で計算すると、もはや途方もない作業に思えてくる。このままではマズイ。何か考えないと布を作る時間がない。

 そんな中、俺の視界内に武器マークのアイコンが点滅しだした。

 そういえば、つるはしは立派な武器であった。という事はちゃんとしたスキルでもついてるのだろうか。

 

 【分類:片手剣】

 つるはし

 斬撃力 1

 打撃力 1

 研磨による最大斬れ味 1

 特殊スキル 発掘レベル1 熟練度 10/10


 と表示されていた。

 ならば、俺は今スキル、発掘レベル1を覚えたのだろう。

 俺はつるはしを置いて、愛刀の大剣グランド・オルトロスを手にする。つるはしと違って、重量がかなりある。今回はモンスター相手ではないから使用目的が違うから、どうなのか微妙だが、つるはしよりは効果がありそうだ。

 俺は大剣を持ち上げ、思いっきり振りかぶる。


 「ぬぉおおおおおおおお!!」


 俺は大剣を鉄鉱石の発掘できるであろうポイントに、思いっきりヒットさせる。発掘系スキルはエフェクトなどは発生しなかった。しかし効果は凄くあった。

 何と、俺が一回大剣を振っただけで、鉄鉱石が五個は取れた。

 俺は嬉しさが顔に現れる。

 

 それから、すぐに発掘を再開させる。

 さらに気付いた事で、攻撃系スキルを発動させると、再び取れる個数が増える。連続剣技系のスキルを何発か使った所、疲労も先ほどよりはせずに、楽に仕事ができた。

 あっという間に、鉄鉱石の個数が三百個以上に達した。


 俺の頬を伝う汗を拭い、大剣を背中にしまう。

 それから、視界内の大剣の斬れ味ゲージを確認すると、そうとうヤバい事になっていたので、その場で砥石で綺麗にした。

 それから、次は糸虫を捕まえに行かなければいけないので、一回村に戻って昆虫網を買ってこなければならない。

 これだけやって必要経費が落ちなかったら、次からは局長室に呼ばれても絶対にいかないと決意する。

 転送ポータルに戻るまでの道で、地球にいそうな化石探求家らしき人物の姿があった。どこの化石探求家も変わらないもので、うすい土のような色の服を着用していた。

 この人物は村の人間ではない。この星には、まだ大型の都市はないが、きちんとした都市部らしき場所は存在する。そこにも俺の担当するCクラスモンスター討伐受付がある。最初から村につきっきりな俺は都市部の方へは行っていない。

 この化石探求家も都市部か、または別の村の人間なのだろう。ついでに言ってしまえば、俺らは会社で雇われてる人間だが、都市部の人間は基本、この星の生まれだ。だからだろうか。俺らのような余所者は結構拒まれたりする。


 その化石探求家は、片手につるはしを持っていた。

 俺も苦労したな~と思いながら、彼を見つめていると、すぐさまポイントを発見したようで、荷物を置く。

 こっからは苦労の連続だろうな~と思って眺めていると、彼は一回つるはしを命中させただけで、鉄鉱石が五十個程地面に転がった。 

 

 「ちょ、どうなってるんだ!?」

 

 俺は思わず口にしてしまった。

 そこで化石探求家なる人物は俺に振りかえってくる。その表情は帽子で隠れて見れなかった。ついでに性別も分からない。


 「ん? 不思議な事かね?」

 「え、あ、そ、そうです。だって、俺さっきつるはしで一時間頑張っても、数量しか取れなかったんですよ?」

 「ふぅむ。それが今はそんなに……窃盗はいけないよ?」

 「あ、ち、違います! これはその後、自分の剣で頑張ったんです」

 

 化石探求家は予想通り、男だった。それも結構年配だった。

 その男は顎に手を当て、悩んでいた。


 「その方法があったか。さすが若者だ! 頭が柔らかいの~」

 「そういうわけでは……」

 「ついでに、わしの穴も結構ゆるいぞ」

 「その情報はいらないです」

 

 冗談を言いだした化石探求家は笑いだした。 

 そして、つるはしの手を止め、俺に近づいてきた。


 「これも何かの縁じゃ。わしは発掘技術師の相良(さがら) 与太郎(よたろう)だ。よろしく」

 

 握手を求める与太郎の手に、俺の手は動かなかった。

 さがら……?

 俺の顔が驚愕の色を浮かべ、与太郎の顔を見つめる。

 

 「そうじゃ。お主を守って死んだ、相良 胡桃の祖父がわしだ」

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