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アナザー・リアリティ  作者: 大岸 みのる
第一部:入社一年目の軌跡
7/50

色々あって昇格しました!

 吹き荒れる冷たい風に、俺の纏うベージュのコートは靡く。

 俺の目の前には、雪山が広がっている。広大な山は、雪化粧していて眺める人々に感動を与える。

 吐く息は白い。現在の雪山は氷点下。身体が凍ってしまうんじゃないかと思えてくる。

 隣にいる仲間は、戦闘指導をしてくれた隆二だ。部長である胡桃が死んでから、もうすぐ一年。俺は自分自身が生き残る術と、村の人々を守る力を付ける為に隆二の弟子にしてくれと土下座して頼みこんだ。

 隆二は教えられる事は少ないがそれでも良ければって事で、狩人に関する事を余すことなく教えてくれた。

 今では、俺も未開クラスの討伐を受け持つ狩人の一人となった。仕事はモンスターを殺す。ただ、それだけだ。

 だが、未開クラスのモンスターは凄まじく強く、とてもじゃないが、隆二や俺の他にも協力してくれるメンバーが必要になる。


 今回は俺と隆二の二人。

 未開クラスではなく、Sクラスモンスターの狩猟だ。

 Sクラスくらいならば、俺と隆二の二人で問題なく解決できるであろう。俺の考えを悟ったのか、隆二が俺の後頭部に平手を打ち込む。


 「痛っ!」

 「阪斗。油断するなよ。俺にだって敵わないモンスターはいる。今回のモンスターも、もしかしたらあの時(●●●)みたいな王族種である可能性もあるんだからな」

 「……わかってるって……」


 あの時みたいな王族種とは、灰巨狼を指す。胡桃を殺した灰巨狼は、後日の調べで王族種だと判明した。王族種とは他の種族と桁違いの力を持っている種。また頂点だと言ってもいい。それを花樹が追い返せたのは、半ば奇跡のようなものだ。

 灰巨狼の王族種は尻上がりに力を増していく性質を持っている。その為、最初胡桃でも抵抗できたらしい。王族種のクラスは未開だ。

 

 「それにしても、寒いな……眠くなってくる」

 「阪斗はこのところ頑張り過ぎじゃないか? 休息は取ってるのか?」

 「まぁ、二時間くらいは毎日寝ている」

 「二時間って……居眠りしても知らないぞ」

 「その前に居眠り出来ればいいけどな」


 そう。俺はこの一年間、一度も地球には帰ってない。いや、厳密には帰れないと言った方がいいのだろうか。

 研修期間が終了した頃に、一度だけ帰れる機会があった。だが、そのときの俺はもう村を守る事しか考えてなかった。その為地球に帰るのは、やめたのだ。ちなみに地球上では正規社員と働いてることになっていて、俺の通帳にはとてつもない量の給料が振り込まれてるらしい。この前、久々に宇宙空間電線(別の星にいても繋がる電線)を使って家に電話したときに知った。

 それからというもの、帰れる機会というのは訪れていない。それもそのはずで、俺は現在、狩人兼Cクラスモンスター討伐受付部署 部長である。

 職務からは離れられないので、必然的に帰る話は来ない。俺に回ってくる話は未確認モンスターの討伐書と、部下達の始末書ばかりだ。

 苦労は絶えない。

 

 遠くの方で、低くも大きい音がした。

 隆二は唇に人差し指をつけ、俺に視線を移す。俺も隆二の行動に対して、縦に首を振る。それだけだ。

 やがて、氷風を纏った全長十メートル強の竜が現れる。翼は氷で出来たかのように半透明で美しく、身体を覆う鱗は綺麗に見え、まるで氷の鎧かと思える。

 全体的な身体の色は薄いブルー。瞳は黄色。

 そして、鳴き声を上げる。

 これは竜種族の欠伸的な動作だ。

 

 「今回はどうする?」

 「師匠。俺が前衛で行ったほうがいいと思います」

 「ま、そうなるよな。火力重視のお前が後衛とか死ぬほど笑えるしな」

 「……そこまで言わなくても」


 俺は唇を尖らせ、隆二に納得がいかないと視線で送った。

 隆二は笑うのを止めて、前方の竜を睨む。

 隆二の瞳はピンク色の燃え上がるようなエフェクトがかかる。これは特殊スキル――モンスター解析だ。未開のモンスターにはデータがないので意味が無いが、一度誰かが倒したモンスターなら本部からデータが送られてくる。

 

 「氷翼竜(アイスドラゴン)か」

 「まんまですね」

 「ま、とりあえず、このまま行っても問題はないだろう。阪斗頼んだぞ」

 

 俺は背中から一つの大剣を取り出す。その大剣は俺の身の丈程ある。太さも完全に俺よりもある。何故そんな物を武器として使ってるか。答えは簡単で、火力が――斬撃攻撃力が高いからだ。

 俺の愛剣――グランド・オルトロスは紫光を放つ。

 この重さは、何よりも俺を安心させる。村の武器屋の親父は、「こんな重量の武器を作ったのなんて初めてだ!」と感想を述べていた。

 使い続けて、まだ一ヶ月と経っていない。俺にとっては久しぶりの大剣なのだ。それまでは、ずっと胡桃の形見である双鋭剣を使っていた。


 「了解しました」

 

 俺は隆二に微笑み、そのまま氷翼竜めがけて足を進ませた。

 足には濃いブルーのエフェクトがかかる。移動系スキル――氷雪ダッシュレベル5を発動させている。

 

 氷翼竜は俺を肉眼で確認し、そのまま口を開け、強烈な吹雪を吐いた。

 俺は吹雪に対してグランド・オルトロスを防具にして使い、吹雪を防ぐ。大剣には防御効果などはないから気休めにしかなっていない。

 それでも、構えてしまうのは恐らく癖なのだろう。俺の大剣グランド・オルトロスはライトパープルのエフェクトを放ち始める。

 俺と氷翼竜の距離があと、数メートルの所で俺は大剣を腰の位置に下げる。

 吹雪が俺のHPバーを地味に削っているが、気にするほどではない。

 

 「さぁって! 行くぞ! Sランクモンスター!!」

 

 氷翼竜は俺の攻撃を回避しようと、翼を羽ばたかせる。

 しかし、俺は逃しはせずに足に力を込め、氷雪ダッシュレベル5を再発させる。

 あっという間に俺と氷翼竜は近距離。

 俺は腰の位置にまで下げた大剣に、握る力を込める。

 

 そして、俺は氷翼竜の真正面から、大剣を振り舞う。

 ライトパープルのエフェクトが氷翼竜に降りかかる。


 「食らえ! ラージ・フォース・インパクト!!」

 

 攻撃スキル名を叫ぶと、大剣は勝手に動きだす。

 氷翼竜の氷の鱗を次々と裂いていく俺の大剣。

 俺が一振り二振りするたびに、氷翼竜の身体をライトパープルのエフェクトがすり抜ける。その直後に白銀の世界には合わない鮮血を傷口から散らかす。

 悲鳴を上げる氷翼竜に、俺の大剣は四振り連続攻撃を終えた。


 氷翼竜は咆哮を上げようとするも、力がでないらしく可哀相だ。

 俺は大剣を肩に置く。

 それを好機とみた氷翼竜が口から、氷柱を吐きだす。先端は尖っていて、一回刺されただけで、HPバーは空になってしまいそうだ。

 だが、俺には当たらなかった。氷柱は俺の足元に突き刺さる。

 

 「ったく、もうボロボロじゃないか。俺の見せ場がないな」

 

 銀色のハンマーを両手で握った隆二が上空から、急降下してくる。

 氷翼竜は攻撃を停止し、隆二を見上げる。

 

 「師匠の良い所見せてくださいよ」

 「フン、じゃあ拝めとけよ!!」


 隆二は俺への言葉を気合と一緒に呑み込み、銀色のハンマーがホワイトエフェクトを発生させる。

 隆二の見ためには、絶対に合わない色だ。

 

 氷翼竜の頭部に、ハンマーを唸らせながら叩き落とす隆二。

 ホワイトエフェクトは、氷翼竜の頭部と接触する事で辺り一面に光が広がった。これはハンマー系のスキル――閃光剛球。効果は叩きつけるというワンアクションに目眩ましを付与させたものだ。

 氷翼竜は頭部を殴られたせいもあって、倒れてしまった。

 意識不明と言った方が正しいだろうか。


 今回は討伐でも捕獲でもない。

 強いて言うのなら、素材目的でここまで来たのだ。それも俺の為ではなく、隆二の為だ。何でも、今使っているハンマーを強化するのには氷翼竜などの翼から取れる氷の羽が必要なのだとか。

 前日、隆二に頼まれたので、弟子として言う事を聞いたまでだ。

 

 「お、あったあった。これが欲しかったんだ」

 「良かったですね師匠。俺の寝不足も報われますよ」

 「まぁいいじゃねーか。報酬は前払いで渡しただろ?」

 「そうでしたね。なんだか十万キールじゃ割に合わない気もしますが……」

 「あ、そんなことより討伐依頼とか来てないのか? 依頼が来てれば殺して、金が貰えるじゃないか」

 「氷翼竜に関して、依頼は来ていなかったですよ」

 「そりゃあ残念だったな阪斗」

 「そうですね」

 

 目的も終えた事だし、俺達は来た道を戻って転送ポータルへと戻った。

 狩人の移動は基本、転送ポータルが必要になる。何でも、転送ポータルは各地の安全な地に、先輩方が置いて行ってくれたらしい。そのおかげで俺らはこうして足を使わずに移動できるわけだ。

 ちなみに転送ポータル自体は、既に地球にもある。

 

 俺と隆二は村まで戻ってきた。

 この村は一年経っても変わらない。

 子供達が少し大きくなったくらいだ。

 集まってくる子供たちに、俺は頭を撫でてあげる。俺は子供に好かれる体質なのか、結構寄って来てくれるのだが、見た目が怖い隆二には誰も寄りつかない。

 本人は意外にも、子供好きなのに……恵まれないな。

 隆二は早速武器屋に行き、武器を強化してくるそうだ。

 

 俺は暇になったので神殿へと入る。

 今日仕事をしてくれてるのは、腰までかかる赤い髪を垂らす黄金の瞳をもつ少女――咲浦(さきうら) 芽衣(めい)だ。お姉さん系の彼女は仕事は真面目にこなす、いわばアルバイトで言うシフトリーダー的な物だ。

 とりあえず、Cクラス掲示板受付まで俺は出向いた。

 

 「お疲れさん咲浦」

 「あ、お疲れ様です部長。なんだか痩せました?」

 「咲浦って会うたびに絶対言うよな」

 「そうですね。とりあえず、部長にと書類を局長に渡されたんですけど」

 「ああ、ありがとう」

 

 書類の中身は、研修の為に何名かを指導してほしいとの事だった。

 そう、もうそんな時期なのだ。

 去年は俺の研修中、胡桃が亡くなって大変だった。

 今ではもう皆元気に仕事している。前は地球に帰りたいとしょっちゅう言っていたが、最近では誰も口にしなくなった。

 ある程度落ち着いてきたのだろう。

 俺ももっと強くならなきゃいけない。

 当面の目標は灰巨狼の王族種。これを殺さねば、俺は地球には帰れない。


 「あ、そうそう部長」

 「まだ何かあるのか?」

 「局長が、胡桃元部長の一回忌どうするかって言ってましたよ」

 「……もちろん、出るよ」

 「そうですか。あまり無茶はしないでくださいね」

 「ありがとう」


 芽衣と別れ、いくつかの書類を持って歩みを進める。

 そして、俺は局長室に入った。

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