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アナザー・リアリティ  作者: 大岸 みのる
第一部:入社一年目の軌跡
4/50

部長に装備を買って頂きました!

 とりあえず、したくもない自己紹介を済ませ、俺は頭を下げた。

 俺以外は全員先輩らしく、俺は雑用をするはめになった。

 仕事内容としては、書類のコピー。お茶出し。床磨き。

 もはやオフィスレディの役割だった。何で俺がこんな事を……とも思うが、とりあえず、右も左も分からないのだから、従うしかないだろう。

 そして、今日の仕事が終わった。


 「は~いお疲れ」

 「お疲れ様です部長」

 「何だ、お前も分かってるな。最初は殺してやろうかと思ったけど」

 「はぁ……」

 

 俺の初仕事は終わり、胡桃が話しかけてきた。

 雑用をしてみたけど、まだまだ体力があり余ってる。ここが現実世界なら、帰って友人達と飲みに行くだろう。まぁ、それは叶わないんだけど。

 

 「さて、全然疲れてなさそうだな」

 「まぁ……そうですね」 

 「なら、もうひと働きしてみないか?」

 「もうひと働きですか。それって何をさせられるんですか?」

 「簡単に言えば、お前さんがここに来た時の不具合を調べる」

 

 俺がここに来た時って……ああ。そう言えば村から離れた地域に着いたな。あんときの巨竜は凄まじく怖かったな。もう二度と会いたくない。

 

 「そういえば、俺ってどこに着陸する予定だったんですか?」

 「一応はお前はうちの討伐部署前に着陸する予定だったらしいけど、何かが原因で別の所で着地したらしいな」

 「……その何かのせいで死にかけたんですけど」

 「まぁ気にするな。今回はあたしとお前で調査に行くぞ!」

 「……部長戦えるんですか?」

 「お前、一回死んでみるか?」

 「すいません!」

 

 そんな感じで俺と胡桃は、惑星探索ポッドを探しに行く事になった。外装がどんな形だったかは覚えていない。何しろ食われそうだったしな……。

 胡桃は準備すると行って、十分後に村の出口に集合となった。

 時間も空いてたので、俺は携帯をスーツのポケットから取り出した。

 時刻は十七時前。もうすぐ夕暮れか。空は微かに暗くなりつつある。地球と気候が似てるな。

 俺はポケットに携帯をしまい、出口付近の商店を見て回った。

 店は武器屋、防具屋、アクセサリー、回復道具、補助道具、八百屋、などと沢山でている。武器はずっと手に握っている鉄の両手剣があるから問題ない。となると問題は防具だな。

 ……金がなかった。

 そう言えば、ここでの買い物のシステムってどうなってるんだろうか。

 

 「あ、そういえばお前さんに、防具買ってやるの忘れてたな」


 背後から着替えた胡桃部長が話しかけてくる。

 胡桃の装備は可愛らしくピンクの羽が装飾された鎧だった。

 上から下まで統一されている。 


 「これって支給されるもんなんですか?」

 「当たり前だ。一応死なれたら困るしな。あ、ちなみにここでのお金はキールって言うんだ。そうだな……分かりやすく言うと、お米五キロで大体二千キールだ」

 「あんまり地球と変わらないんですね」

 「そういうこった。じゃあ、お前さんは何の防具がいい?」

 

 ということで連れてこられたのは防具店。

 ズラリと並ぶ沢山の防具達。

 鎧、コート、シャツ、タンクトップ。全てに防御効果があるのか聞きたくなる。シャツとかタンクトップとか攻撃食らったら一撃死だろ!?

 俺はシャツに触れると、HP(ヒットポイント)バーの横にまたアイコンが浮かぶ。今度は鎧のマークだ。

 

 【分類:防具上】

 白のシャツ

 物理防御 5

 特殊攻撃防御 10

 耐久度 100/100

 特殊スキル 雷属性攻撃5%カット 熟練度 0/25

 

 なるほど。こういうシャツにも色々あるんだな。

 スキルってのも気になる。

 

 「あの、スキルってなんですか?」

 「スキルってのは特殊効果だ。熟練度ってのがあるだろ? 基本的に武器も防具も装備すれば自動的にスキルを発生させる事ができるんだが、熟練度を上げれば、その装備を変えても使えるようになるってことだ」

 「分かりやすくありがとうございます」

 「今は夕方だし、夜に活動する狂暴なモンスターもいないだろうから、今回は白衣辺りがあたしのおススメだ」


 白衣を俺は探してみる。

 シャツの横にあった。触れてみる。

 

 【分類:防具上】

 普通の白衣

 物理防御 3

 特殊攻撃防御 12

 耐久度 100/100

 特殊スキル 採取レベル1上昇 調合レベル1上昇 薬草の自動識別 熟練度 0/300

 

 熟練度が高い。その代わりスキルが色々と博士的だ。

 特殊攻撃防御も高めだし、これならば文句はない。


 「じゃあすいません。白衣にします」

 「了解。じゃあお前さんのジャケットはあたしが預かっとくよ」

 「はい、お願いします」

 「じゃあ、次は足の方だな」

 「ズボンってことですか?」

 「そうだな。ズボンと靴は極めて重要だ。何よりズボンは防御と速度の両方の性質を秘めている。どれにするかはお前自身で決めるといい」


 そう言われても迷うな。

 今目の前に広がっているのは、ジーパン、チノパン、皮パン、短パン。

 色々とあるな……。

 そして、俺の目に光る物があった。

 

 「アーマーレギンス?」

 「あ? そんなもんよく置いてんな」

 

 胡桃が店長に話しかけた。

 店長は今まで話に関与してこなかったが、胡桃に話しかけられる事で口を出してきた。


 「おう。最近来た若者が良く素材をくれてね! それで大量に貰ったから、こうして委託系装備を普通に売ることができるんだよ! 感謝しかねーよ!」

 「委託系装備?」

 「ようは、素材を使って作る装備の事だ。あたしも基本的にそうだ」

 「そうなんですか……」


 【分類:防具下】

 アーマーレギンス

 移動速度 5

 特殊攻撃発動速度 5

 物理防御 7

 特殊攻撃防御 7

 耐久度 100/100

 特殊スキル 高速移動レベル1 熟練度 0/50

 

 俺はアーマーレギンスを装備した。

 中々履き心地が良い。

 黒のレギンスの腰周りに、鋼のスカートのように作られている、アーマーレギンス。

 白衣の中は白のワイシャツ。

 この格好変じゃないだろうか。


 最後に靴は、胡桃に絶対にこれにしとけって事で、丈夫な皮のブーツを選択された。

 

 【分類:靴】

 丈夫な皮の靴

 移動速度 10

 特殊攻撃発動速度 10

 耐久度 100/100

 特殊スキル なし


 こんな感じで俺の装備は整った。

 手持ちでずっと重かった鉄の両手剣は背中にしまえる紐を店長さんからタダで貰った。装備を一式揃えた俺の視界には新たなアイコンが浮かぶ。

 棒人間が四角い枠の中に収まっているだけの簡単なアイコン。

 それをタッチすると、俺の現在ステータスが浮かんだ。


 【ステータス】

 攻撃力:5+15

 防御力:0+29

 移動速度:20+30

 

 【熟練度表】

 『攻撃系』

 スラスト 0/10

 『防御系』

 現在防御系のスキルを覚えていません

 『移動系』

 高速移動レベル1 0/50

 『特殊系』

 採取レベル1上昇 0/100

 調合レベル1上昇 0/100

 薬草の自動識別 0/100


 恐らく全てをまとめたデータ表なのだろう。

 胡桃も俺の格好を見て、首を頷かせていた。

 

 「それならば、多少の事があっても死にはしない」

 「多少って、あのままスーツだったら死んでたんですか?」

 「うん」

 「俺危なかったな……」

 

 そんな感じで俺達は村の外へ出た。

 辺りはすっかり夕暮れに染まり、静寂が草原を包む。

 

 「だいぶ涼しいですね」

 「この辺りはな。それより、どっちにポッドがあるか覚えてるか?」

 「はい、あっちだと思います」

 「了解」

 

 俺が先頭を走って、その後を胡桃がついてくる。

 夕暮れ時には狩人共はいないらしく、俺ら討伐書類受け付け部署の調査の時間だと決まっているらしい。まぁ中には例外もあるが。

 

 走る事数分。息が切れないのを不思議に思いながらも俺の乗ってきたポッドの近くに着いた。

 形は円錐だった。改めて見ると部屋一室を丸ごと飛ばされたのだと理解する。

 胡桃はポッドに近づき、あれこれと手が空を突く。

 きっと仮想のページをタッチして、書類をまとめているんだろう。

 その間暇を持て余した俺は、辺りを見回す。

 段々と夕暮れは色を失っていき、暗闇がかっていく。

 この星もまた、地球と似ているのだなと何度目か分からない実感をする。

 

 そのときだった。

 草木を引きちぎる音。

 人間の物ではない体重移動。

 そして、その振動。

 俺と胡桃は音の発生源の方へと視界を移す。


 「これは……ユウグマかな?」

 「ユウグマ?」

 「そう、Eランクモンスターなんだけど、この時間に来るのは珍しいな」

 

 胡桃は腰にある双剣を手に取った。

 そのまま、態勢を低くし、モンスターの出所を探る。

 俺も背中から鉄の両手剣を抜く。


 「運が良かったな。Eランクモンスターだったらお前一人でも倒せるだろうしな」

 「そうだと……いいですが……」


 俺は生唾を飲み込む。

 何しろ初めての実戦だ。今までのVRMMOなどでは初見の敵なんて所詮はAIでしかなかったので簡単だった。

 しかし、いくらこの世界のシステムITがゲームっぽいからって肉体戦は肉体戦でしかない。それは相手も同じで、野生の本能を持っている筈だ。それは巨竜を見て実証済みだ。

 

 「ガァアアアアア!!」

 

 ユウグマが姿を現す。

 その全長は約二メートル強はある。

 全体の毛並みが茶色とオレンジのツーカラー。爪が鋭利。

 ユウグマは真っ先に俺と胡桃に襲いかかる。

 

 「さて、まずはお前の実戦経験を養うために、あたしは戦闘に参加しないぞ?」

 「え、それって俺一人で戦えってことですか!?」

 「そうゆうこと。じゃあ、あたしは調査の続きをするから」

 

 そう言って、胡桃は双剣を掴んだまま再び作業に戻る。

 ユウグマは俺を睨んでいる。

 剣をユウグマに突き立てたまま、腰を抜かしてしまいそうだ。

 

 「ガアアアアアア!!」

 「ひぃ!?」


 俺は腰を抜かした。

 そこに空かさずユウグマの爪攻撃が襲いかかる。その速度は、以外にも遅かったが、人を殺すのには充分過ぎる力強さを感じた。

 俺は地面に座ったまま、両手剣でユウグマの攻撃を防御した。

 中々力が強く、このままでは押し切られてしまう。

 俺はようやく治った腰に鞭を打ち、後方に一回転した。

 ユウグマの爪は土に埋まり、獲物を引っ掻いた感触がないことに不満を覚えたようで、咆哮を上げた。巨竜ほどではないにしろ。俺を怖気させるには充分過ぎるくらいだ。

 胡桃は横目で俺の状況を一瞬だけ確認した。溜息を吐いて、書類から顔を上げ、俺に向かって叫ぶ。

 

 「いいか! その鉄の剣には攻撃系スキルがある。それを使ってみろ」

 「それを使ってみろって言われたって、使い方がわかりません!」

 

 俺はユウグマを見据えながら、胡桃に弱音を吐いた。それでも、胡桃はその場を動こうとはせずに、俺に視線を送ってきた。正直スキルの使い方なんて分からない。俺には今スラストっていうのしかないし。

 ああもうダメだ!


 「いいか、スラストは横振り一閃の単純スキルだ。一瞬だけ溜めるんだ。落ち着いてやれ」

 

 一瞬だけ溜める……? 横振り? 居合抜きみたいな感じなのだろうか? こんな状況じゃ無理だろうが!!

 落ち着いてる暇もなく、ユウグマは俺に跳びついてきた。

 

 「う、うわあああああああ!!!」


 俺はユウグマからの攻撃を防御しようとした。

 防御とは逆の攻撃を俺の握る剣はしようとしていた。

 一瞬だけ溜めて、出されるスキル。

 剣をライトブルーのエフェクトが包み込み、襲ってくるユウグマの腕にクリティカルヒットし、ユウグマは悲鳴を上げながら後去る。

 俺の剣は動きを止め、いつの間にかライトブルーのエフェクトは消え、鉄の両手剣の色に戻っていた。 


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