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アナザー・リアリティ  作者: 大岸 みのる
第一部:入社一年目の軌跡
3/50

上司は全員毒舌女でした!

 美人な上司はタバコの火を灰皿の中で消した。

 そして、綺麗な足をそのまま机の上に乗せる。物凄く感じ悪い。もう、話したくなくなるほど。それでも、聞かなければいけない事は山ほどある。

 

 「で、他に聞きたいことは?」

 「このゴーグルをかけた瞬間にゲージが二本と名前が出たのですが」

 「緑色がお前のヒットポイントゲージ。そんでもって青いゲージは技使用ゲージだ。青いゲージはなくなっても命に別状はないが、緑が空っぽになれば基本的には死ぬから、そこんとこヨロシク」

 「し、死ぬって!? 研修中に死ぬとかあるんすか!?」

 「何言ってんだよ。ここは未開の星だぞ? そりゃあ当たり前だ」

 「その前に青いゲージについてもよく分からないし、何が悲しくて俺はこんなところに来たんだ!」


 すると、麗香は瞳を細くさせ、俺を睨んだ。新たにタバコに火をつけ、煙を俺の方へと吐いた。そんでもって、機嫌がかなり悪くなった。

 俺は自分の行き過ぎた言動を、少々反省した。何よりも、俺の上司になるであろう人なのだから。


 「ちったあ自分で考えろ。んで、青ゲージについては分からない事もあるだろうから、これやる」


 そう言うと、麗香は引き出しから一本の鉄製の両刃剣を見せてきた。顎でこっちに来いと言ってるのが分かったので、机の方まで俺は歩き、彼女から剣を受け取った。

 一応磨いてはあるようだ。剣の柄を握れば、ズッシリとした重みがある。比べるならば、これは壷一つを持つような感じ。

 これを軽々しく振るなんて俺には無理だとすぐに思った。

 そして、しばらくしてから、ヒットポイントゲージと呼ばれる場所の隅にアイコンが出現した。形は四角い枠の中に剣の形をしている。凄くゲームっぽいのだが。

 

 「早くアイコンタッチしろよ」

 「タッチ? これゴーグルですよね? つけたまま、アイコンにタッチできるんですか?」

 「当たり前だろ。さっさと押せ」

 「は、はぁ……」


 俺はアイコンをタッチする。すると、ピコーンという軽い音が俺の脳内に響く。すると、視界にパソコンディスプレイ上でのWEBサイトのように半透明なページが浮かび上がる。

 

 【分類:両手剣】

 鉄の両手剣

 斬撃力 10

 打撃力 5

 研磨による最大斬れ味 10

 特殊スキル スラスト 熟練度 0/10


 おお。ゲームだ。ゲームみたいだ! 俺は半ば感激し口端を吊り上げる。色々と聞きたい事はまだあるが、この感じ良い! この世界に来てよかった!

 俺の嬉しそうな顔を見た麗香は、二本目のタバコを消して、席を立ちあがった。そして、腰に片手を当て、俺を睨んだ。

 

 「とりあえず、後は他の人にでも聞いてくれ。あたしは忙しい」

 「は、はい」

 「では、これより、お前の配属先を伝える!」

 

 麗香の口調が強くなる。凛とした今の態度は出来る女――キャリアウーマンの雰囲気を感じざるを得ない。

 そして、俺の研修先を高々と告げた。

 

 「日坂 阪斗! お前の配属先は討伐依頼書類受け付け部署だ!」

 「討伐依頼書類受け付け部署?」

 「まぁ、ようは迷惑をかけている巨竜の討伐を狩人共にお願いする仕事ってことだ」

 「はぁ……」

 「そこで、お前は書類の受け付け、およびCクラスモンスター討伐受付をしてもらう」

 「わかりました」

 「わかったら、さっさと仕事にとりかかるように。お前の担当はCクラスモンスター討伐板の近くだ!」

 「は、はい!」


 俺はこれが初仕事になるのだ。と息を巻く。さらに加えて、VRMMO顔負けの現実世界。これはゲーム中毒者には堪らない! 俺はこの世界での高揚感をひたすら感じた。最初は死にかけたけど。


 「では、最後に。ここでは私の命令は絶対だ! わかったら口答えするなよ?」


 何を楽しく思ったのか、途轍もなく満面の笑みの麗香。俺の背筋は寒さを感じたが如く震えるのだが、今はどうだっていい。早く仕事をくれ。この研修を生き抜いて見せる! あれ、でも本当に死ぬんだよな……。

 

 「最後に一つだけいいですか?」

 「これで最後だぞ?」

 

 再び椅子に腰をかけた麗香に、俺は出口まで向かおうとしていた足を止め、振り返る。麗香は俺との話を終えてから書類を見だした。

 新たにタバコに火をつけていた。一体何本吸うんだか。

 

 「この世界で死ねば、本当に死ぬんですよね?」

 「ああ、そうだ。死にたくなければ働け」

 「でも、俺の仕事って書類受け付けですよね? なら、モンスターに遭遇する確率なんて皆無じゃないですか?」

 「何言ってんだ。お前ら研修中の新人にも討伐は参加してもらう。でなければ、いつ、どんな敵が村を襲ってくるか分からないからな」

 「っといいますと?」

 「モンスターの危険度を測るのは基本あたしたちだ。そしてその情報を頼りに狩人――またの名を戦闘部署は戦うのだ。つまり、あたしたちは狩人共の先の先を行ってなければならない。新種のモンスターだろうがなんだろうが、そいつの力を調べるのがあたしたち。情報を詮索して死ぬなんて、ざらにあることだ。もちろん、労災は降りるぜ?」

 「じゃ、じゃあ……俺が死ぬ確率って……」

 「まぁ二分の一ぐらいじゃね?」

 「二人に一人は死ぬのかよ!?」

 「ああ? お前誰に向かって口聞いてんだよ」

 「す、すいません」


 この上司は本当に怖い。

 それ以前に、俺ら魔物調査までやらねばならんとは……。確かに書類を書いたりするだけならば、ヒットポイントゲージだとか鉄の剣は必要ない筈だ。

 しかも、モンスターの出所を調べるって事は、いつ滅茶苦茶に強い的が現れても、可笑しくないって事か……。

 もう、ダメだ。


 「じゃあ、質問はこれで終わりだ。仕事が溜まってるんでな」

 「は、はい……」

 「元気出せ! お前の親御さん達には使っても使いきれない程の保険金が下りるから」

 「何で死ぬこと前提なの!?」

 「じゃあな阪斗」

 

 そう言って書類に目を戻した麗香。

 俺は部屋を出て、元のホールへと戻る。案内板みたいなものがあって助かった。

 どうやらモンスターの強さには色々とランクがあるらしく。

 下から順にE、D、C、B、A、S、SS、SSS、未開。と強さが決まっている。って言う事は俺の配属先のCランクって結構強いんじゃね?

 俺が廊下を歩いてる最中に、声をかけられた。

 

 「あれー? もしかして、君が日坂君?」

 

 身長が小学五年生のように小さい、ピンク色の髪の毛の女の子。こんな子までこの世界にはいるのか。もしかして、狩人なのかな? 発展途上星は大変だな。

 俺はしゃがんで、同じ目線になるようにした。

 

 「はじめまして。俺は日坂 阪斗です。お嬢さん、お名前は?」

 「あたし? あたしは相良(さがら) 胡桃(くるみ)! お兄ちゃん! ちょっとこっちきて!」

 「え、あ……そっちは……」


 俺が幼女に連れられたのは目的のCクラスモンスター討伐受付所だ。

 幼女は俺の手を引きながら、そのまま、裏の方へと連れて行かれる。勝手に幼女連れて入ったらマズイよな……。研修初日から怒られるのはキツイな。

 そして、そのまま会議室らしき場所へと俺は幼女に連れられた。


 「お、お嬢さん? 勝手に入っちゃ……」

 

 そこで謎の幼女は一言も口にしなくなった。

 幸い、今は俺と幼女二人しかいない。これだと、俺が幼女に手を出すように聞こえるが、違うと断言しておこう。

 幼女は肩を笑わせている。どうしたのだろうか。具合でも悪いのか? 俺は心配になって、肩に手を置いた。

 

 「勝手に触ってんじゃねー!!!」

 「うぇえええ!?」


 俺は幼女に背負い投げをされ、床に頭をぶつける。

 正直凄く痛い。こんな痛みは今までにない。え、ゆとり? そうですが何か。

 それよりも、幼女の変貌が凄まじい。子供って、ここまで強かったっけ? 俺幼少期虐められてたんだけど。こんなに強い幼女とか絶対需要ない。

 幼女は両腰に手を当て、俺を見下す。

 パンツが後少しで見えるよ。俺はお前の下着になんて興味ないけどな! ……でも、覗こうとしてしまうのは男だからだろうか。

 

 「お前が新人研修生か!」

 「……は?」

 「噛み砕いて言ってやろう。日坂 阪斗か?」

 「は、はい。俺がそうです……」

 

 何故か敬語になってしまった。一体何なんだ? 何で俺の名前なんかしってんだよ。こいつ迷子とか狩人じゃねーの? それとも、俺ってチート的な感じでこの星の勇者様とか言われてたりするの? もしそうだったら気分いいよね! 絶対に違うだろうけど。

 

 「あたしを幼女扱いしやがって。このクソ大学生が! まだオムツもとれてねー野郎が!」

 「口悪!? 一体何なんだ!」

 「あたしか? あたしはこのCクラスモンスター討伐受付部署の部長だ! お前にとって、あたしは雲の上の存在なんだぞ!」

 「……へぇ」

 「しばくぞガキ?」

 「……」

 

 俺は立ち上がり、頭を下げた。

 すると、部長と名乗る幼女は俺の脛に蹴りを入れた。

 

 「なっ!? 何するんですか!?」

 「お前、今どっちがガキだよ。とか思っただろ? 死ね」

 「思ってないです!」

 

 もう一度、俺の脛に蹴り。

 正直痛い。もうこれ以上ないくらい。

 俺が脛を抑えていると、幼女は明らかに機嫌の悪い顔を作って見せた。

 

 「とりあえず、お前に言いたい事がある」

 「そ、それはなんでございましょうか……部長……」

 「あたしはこの世で嫌いな事がある」

 「は、はぁ……」

 「まず一つ。あたし相良 胡桃を幼女扱いする奴は殺したい程嫌いだ」

 「それは、すいませんでした」

 「以上だ」

 「何でまず一つとか他にもあるぞ的な事を言ったんですか!? 一つだけじゃないですか!」

 「細けーな。そんなんだから、女に振られるんだぞ」

 「それ関係なくないですか!?」

 「まぁ、いいわ。とりあえず、これから部署の人間を紹介するわ」


 胡桃がそう言って、部屋の外から連れてきたのは四人の女の子だった。

 一人は長くストレートな赤髪に黄金の瞳。俺と同じくらいの長身人間。

 一人は青い髪に紫の瞳のショートヘアーの中間ぐらいの身長の子。

 二人は背が小さく。一人はライトグリーンの肩ぐらいのショートヘアーに銀色の瞳。もう一人は金髪碧眼のツインテールだ。

 

 全員が俺を見て一言。

 

 『ブサイク』

 「あんだとコラァっ!!」

 

 俺は全員を睨んで抗議を起こす。

 コイツら俺をブサイクだと……!? まぁ確かに合コン連敗中ではあったけども。

 それにしたってハッキリ言い過ぎだと思う。

 

 「まぁそう言いたくもなるわな。この書類受け付け部署に初の男が採用されたから、期待してみれば、ゴミクズ野郎だったわけだしな」

 「ゴミクズ野郎って……」

 

 俺は肩をがっくりと落とし、この会社に就職したのは間違いだと思った。

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