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アナザー・リアリティ  作者: 大岸 みのる
第一部:入社一年目の軌跡
2/50

必死に逃げ回ってみました!

 涎を垂らす恐竜。

 俺は生唾を飲んで、取り合えず外に出てみた。俺の足が草を踏む感覚を捉える。これはVRMMOなのだろうか。それとも、現実なのだろうか。

 空気は澄んでいる。しかし、目の前の恐竜からは恐怖しか感じない。

 そして、俺は恐竜の鱗に触れてみた。

 うん硬い。

 これって……現実!?


 恐竜は首を高く上げたかと思うと、俺の方にいきなり首を下げ激しい咆哮を上げた。その声質、声量、飛んでくる唾。

 どれも、VRMMOにはない。

 ……ガチモンの巨竜や!!

 俺は巨竜と今までいた会社の一室だった所に背を向け、走り出した。

 全速力で逃げ回っているのに追いついてくる巨竜。翼がないので、走って俺に迫る。コイツは――俺を喰らうつもりだ!!

 数百歩進んだ先で、俺は一度振り返る。

 奴の口元からは炎が燃え上がっている。まさか……ゲームみたいに炎を出したりなんか……。

 

 『ゴァアッ!!』


 炎吐いた! しかも俺に向かって一直線に!!

 俺は再び全力疾走し、草陰に跳び込んだ。

 炎は俺が先ほどまでいた所を灰と化してしまう。土や草が舞い、その辺り一体には炎が燃え上がっている。

 ただ事ではない! 俺にこんな事をさせる辺り、頭がおかしいとしか思えない!!

 巨竜は俺の入った草むらに、その鋭利な瞳を向ける。そして、もう一度方向を上げる。

 その瞬間、ずっと恐竜のように黒かった鱗が、今は赤く変動した。

 直感的に悟る。

 コイツはガチで危ない。

 俺は再び身体を起こし、逃げ回る。

 俺を後から追ってくる巨竜。泥が大量に付着したスーツ。

 なるほど、動きやすい格好になったほうがいいと言っていたのは、事実であったか!!

 

 そして二度目の炎を吐こうとする巨竜。

 ま、マズイって!!

 炎を吐いたかと思うと、巨竜の身体の周りを爆発させた。巨竜の身体周辺には炎の城が出来上がっている。

 俺の足は走る事を止めていた。そして、その巨竜を確認する為に振りかえる。

 そこには、黒いコートを羽織り槍を振りまわす男。

 白いコートを着用した女が、突剣で巨竜を突き始める。

 最後にゴツゴツとした紫色の鎧を着用した偉丈夫な男が、両手持ちの大剣で巨竜の身体をぶった斬る。

 巨竜は悲鳴を上げ、必死の抵抗をする。

 

 「さぁって! トドメと行きますか!!」

 「いつでもいいわよ!」

 「サクッと頼むぞ」


 黒いコートを羽織った男は、戦線を離れ口笛を吹く。

 すると、遥か上空から白い翼の巨鳥が現れた。


 「トドメをさしてこい! アルテッツァ!」

 「ピェエエエエエエ!!!」


 すると巨鳥は、弱っている巨竜に(くちばし)で攻撃し始めた。

 異様な光景である。いくつかVRMMOをやってきた俺も、こんな光景は見たことない。モンスターVSモンスターはあるのだが、モンスターVSプレイヤー&モンスターという理不尽な狩りは想像もつかない。

 すると、黒いコート羽織った男が気になる事を口にした。


 「コイツは弱そうだから、別にテイムしなくていいだろ?」


 テイム? 飼うってことか? この巨竜を? そんな事ができるのか?

 というか、ここは生身で戦う空間じゃないのか?

 それとも、俺の感覚が鈍っていて、本当はVRMMOとか?

 いずれにせよ、不可解な事が多すぎる。

 彼らはあっという間に巨竜を倒してしまった。

 ここは奴らと一度接触するしかないか……。


 「あのー……すいません。ここってどこだか分かりますか?」

 

 俺は勇気を出して、三人に接触を試みた。

 三人は一度仲間と顔を合わせ、首を傾げた。そして、もう一度俺を見て、黒いコートの男が近づいてきた。

 

 「あなた……迷子ですか?」

 「迷子……そうなんでしょうか?」

 「記憶喪失なのかしら」

 「そうとも言い切れんぞ」


 黒コートが俺の事を迷子と聞いてきて、後の二人は色々と話している。

 黒コートは顎に手を当て、何やらブツブツと呟いている。

 まぁ普通はそういう態度になるよな。


 「あの……もしかしてサカトさんってあなたですか?」

 

 黒コートは俺を怪訝な表情で見始めた。

 そりゃあそうだ。俺は日坂 阪斗。名前で呼ばれた事による若干の違和感はあるが、まぁそうだ。


 「はい、それは俺の名前です」


 黒コートは頷いてから、眼鏡などなかった筈なのに、外した。

 そして、それは三人も同じで、眼鏡を外す要領で透明で不可視のゴーグルを外した。そして、いきなり黒コート達は名前を名乗り出した。


 「はじめまして。俺は火月(かげつ) 花樹(はなき)です」と黒コートの男。顔は女っぽく可愛い印象だ。年齢は俺よりも若い高校生のようだ。

 

 「はじめまして。私は水原(すいばら) 瑞樹(みずき)です」と今度は白コートの女。こちらはモデルさんかと思うほどの美形である。こちらも高校生っぽい。

 

 「最後に私か。自己紹介が遅れてすまない。私は木崎(きさき) 隆二(りゅうじ)だ。よろしく」と最後に紫の鎧を着た男。彼だけ三十代から四十代の間に見える。

 

 三人はそれぞれ、ゴーグルを着用し直す。

 そして、隆二が独り言を呟いている。隆二の呟きが終わってからか、花樹と瑞樹の二人が口を開いた。

 

 「サカトさんが、遅れて入社した書類受け付け部署の人で合ってるみたいだな」

 「そうみたいだね。でも、危なかったね」

 

 二人は仲良さそうに話している。

 もう何が何だかさっぱり分からない。しかも、この場でスーツの俺だけなぜか物凄く浮いてる気がする。

 三人はまたも、視線を合わせ同時に首を縦に頷かせた。

 

 「まずは、本部に帰ってから色々と話そう。サカトさんはまだこの世界に来てから何も知らないようだし、ポータルは使わないで帰ろう」

 

 隆二が花樹と瑞樹の二人に告げると、ぶーぶーと文句を言っているようだった。俺は苦笑いしながら、謝った。それを悪く感じてか、二人も頭を下げてきた。

 俺は何も知らない。それはホントもうその通りだ。

 

 歩くこと数分。

 見えてきたのは、農村とも呼べる場所であった。

 豊かな緑に、はしゃぐ子供達。作物を収穫するお祖父ちゃんお婆ちゃん。そして、何より印象的だったのは、江戸時代かとツッコミたくなる家だった。

 村と呼ぶのはどうだろうかと思うほど、大きい。もはや、東京都内の一区程の広さは合っても不思議ではない。

 言いかえるのなら街。だが色は村。そんな所だ。

 そして、花樹、瑞樹、隆二の三人は村を堂々と通る。

 そのたびに子供たちが集まってくる。その子達は俺の姿を見て、変な格好と笑っていた。これがNPCとは思えない。

 こんな無邪気な笑い方をするNPCならば俺の嫁にしたい。

 

 そして、この村には似合わない、神殿のような建物が見えてきた。

 花樹達はそこで、足を止めた。


 「ここに惑星事務局があるから、サカトさん後はどうぞ」

 「どうぞって言われてもな……とりあえず、俺は研修って言われて来たんだけど……」

 「研修ですよね? それは私達も同じですよ」

 

 同じ? という事は、花樹も、瑞樹も、隆二も研修中なのか? んなバカな……。こんな魔物しかいないような世界で何をどう研修するんだ。

 俺の背中を隆二が押した。

 

 「とりあえず、色々と聞きたい事もあるだろうから、あそこに行けば教えてくれるよ」

 「は、はぁ……」


 仕方なく俺は神殿へと歩き出す。

 他の三人は手を振って送り出してくれた。心細さを感じながらも、俺は神殿に入り込んだ。大きな扉はまるで俺の入室を拒んでいるようだった。

 そして、俺が触れても扉は開かなかった。

 どうしようかと思ったところで、扉の奥から声がした。


 「初回時にパスはいりません。ですのでお名前をフルネームでどうぞ」

 「えあ……日坂 阪斗です」

 「えあ日坂阪斗様……そんな人は登録されていません」

 

 この扉の向こう側にいる人間はバカなのか? それとも俺をイラつかせたいのだろうか。俺はもう一度大声でハッキリと物申した。

 

 「日坂 阪斗!」

 「はい、確認できました。どうぞ」


 扉が開き、中には高級ホテルのエントランスなんじゃないかと思うほど豪華な受付所があった。床は白く、鏡などではないかと思えるほど磨かれている。天井は高く、シャンデリアも凄まじい大きさだ。そして、受付嬢のレベルの高さ。これはもう非の打ちどころが無さ過ぎる!!

 俺が感激している最中に後から、蹴られた。

 蹴られた所を摩りながら、振り返ると途轍もない美人がそこにはいた。

 年齢は二十代くらいだろうか。とても綺麗だ。背は高いし、頭も良さそう。

 しかし、その女性は思わぬことを口にした。

 

 「早く来い豚野郎」 

 

 笑顔を振りまいている筈なのに、言葉は汚い。ひょっとすると、俺は聞き間違えたのではないかと思った。

 しかし、その言葉は女性から再び放たれた。

 

 「耳くそ詰まってんのかクソ野郎」

 「……何て言葉使いだ……」


 俺は半ば――いや、そうとうなショックを受けながら、肩を落とし、女性について行く事にした。女性は先を歩いた。

 一般の人は出入りが禁止されている? らしき所に連れて行かれる。

 周りは女女女女! 最高! なんだか知らんが恵まれてるな! 俺!!

 と、思いきや、ある一室に立ち止まり、女性と一緒に入る。

 そして、口の悪い女性が所長席らしき所に腰をかけ、タバコに火をつけた。

 煙をふぅっと軽く吹くと、女性は先ほどまでの笑顔など一ミリも感じさせずに俺を睨んだ。


 「はじめまして。あたしがこの惑星事務局局長の霧宮(きりみや) 麗香(れいか)だ。よろしく」

 「は、はぁ……」

 

 そこで麗香は一度タバコの灰を落とすと、机の引き出しから透明なゴーグルを二つ程取り出した。一つは麗香自身が着け、一つは俺へと投げ出された。 

 透明なゴーグルは驚くほど軽い。

 先ほどの花樹達も着けていたのだが、一体何の効果があるのだろうか。

 俺は麗香の方へと視線を向けると、麗香は顎を二回ほど上げた。これはお前も着けろと言っているようだ。


 俺は躊躇わずにゴーグルを装着した。

 俺の顔向けに作られてるんじゃないかと思えるほど、しっくりとハマる。

 耳にかかる感じもいいし、何より視界がクリアに……ってあれ?


 「それは、惑星で魔物と遭遇したときに使える品物だ。失くしたら知らねーぞ」

 「あ、あの……これって」

 

 左上の視界に緑のゲージと青色のゲージがある。

 NAMEの所にはサカトと記載されている。

 意味が不明な点が多すぎる。

 

 「で、質問はあるか」

 「色々とあるんですが、まず、ここはVRMMOの世界ですか?」

 「まぁ、最初はそう聞きたくなるよな。でも、ここはゲームのお遊びとは違う。この世界は別の星。あたしたち狩人がこの世界を変える為に派遣された社員だ。そして、お前はその一人でもある。今は研修期間中だがな」


 この世界はゲームのようであって、現実世界だった。

 


 

 

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