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父との約束

作者: 山村 海人

「今日でもう終わりか…」

私はそう呟いて長年付き添ってきた相棒を改めて見つめなおした。

私、神谷 蒸太郎は長年蒸気機関車の運転手を務めてきた。

その月日は今日でまる30年…その間幾度もの機械トラブルや様々な事件が起こってきた。

しかし不思議と辞めようとかそんな風には思わなかった。

何故ならこの仕事は私が望んで就いた仕事でもあり私の父との約束の職業でもあったからである。私の父、神谷 一幸は今の私と同じで蒸気機関車の運転手をしていた。

この仕事に誇りを持ち、生き甲斐としていたのだ。

その証拠に愛してやまない蒸気機関車から

「蒸」

の一文字を取り私の名前は蒸太郎になっている。

最初は蒸太郎という名前が凄く嫌で嫌で仕方なかった。

なんか田舎っぽい感じがして…。

もっとかっこいい都会風な名前がよかったなぁ…

「剛」

とか

「勇」

とか…。

でも父が亡くなってからそんなことはどうでもよくなった。

長い年月がそうさせたというのではなく父の死に際の言葉があまりに偉大で寛大な意味を持っていたからだ。

父は病気で倒れるまで18の時から蒸気機関車の運転手を務めてきた。まさにその道の職人と言えるだろう。

そんな父が死に際に私に言った言葉が

「お前は俺の息子だ。だから俺の後を継いで蒸気機関車の運転手をやれ。これは遺言だからな。ちゃんと守れよ。」

そう言って父は息をひきとった。死んだ父の顔は妙に嬉しそうだった…。

それから程なくして私は今の職に就いた。

自営業をしていただけだったので父の遺言に従ったのだ。

最初は

「運転なんてチョロイだろ?」

的な感じで始めたが意外とマニュアル通り、訓練通りにはいかないもので四苦八苦した。

しかし年月を重ねる内に徐々にうまく運転できるようになっていった。

その時に気付いたのだ。

「親父はこんな難しいことをやってきたのか…すごい努力していたんだな…。」

と。そして

「自営業でぐうたらしてる私に喝を入れてくれたんだな。」

と。

それを思ったら名前が急に誇らしく思えて嬉しかったのだ。

今日限りでこの路線は廃線となる。

私と父が歩んできた歴史に幕が下りる時が来たのだ。

私は父がこんな職に就いていたことを誇らしく思い、又、私をこの職に就かせてくれたことに感謝した。

そして最後に親子二代に渡っての相棒であった蒸気機関車に挨拶をした。

「ありがとう。そしてお疲れ様。親父、約束守ったぞ。」

ピカピカに磨かれた機関車の表面に笑った父の顔が見えた気がした。

この作品はまだ学生の時に土台を作っていた作品です。読みごたえのない中途半端なものになってしまっていると感じなさっている方も少なくないと思われますが、ここまで読んで下さったことに感謝しています。ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいですね。息子の感謝の気持ちとちょっと寂しい気持ち、上手く表現がされていると思います。
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