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初恋の君へ  作者: ななえ
番外編
46/127

お菓子より愛してる・中編

 初めて由貴也を見たときのことをよく覚えている。

 高地にある立志院はまだ春遠かったけれど、入学式の日は暖かかった。眠ったようなぼんやりした空気の中で、真美は緊張しっぱなしだった。新しい学校。見知らぬクラスメイト。のりがききすぎて固い制服。家とは勝手が違いすぎる寮生活。こんなに遠くの学校に来てしまったことを早くも後悔していた。

 入学式後のホームルームで友だちづくりにのり遅れた真美はひとりで寮までの道を歩いていた。家に帰りたい、と強く思ったけど、それができないことを同時に実感する。父親の転勤で真美はこの学校に入った。住んでいた家は知り合いに貸し、両親と妹は今頃遠い地で真美と同じように新しい生活を送っているはずだ。どんなにさみしくともこの場所でひとりでやっていかなければならない。

 そう思うとあまりの心細さに涙が出そうだ。寮に帰ったところでルームメイトはスポーツクラスの特待生で、運動部特有の気の強さが怖かった。

 とぼとぼと地面だけ見て歩いていたため、いつの間にか見たことのない場所に入りこんでいた。入学したばかりの真美にとってこの巨大な学院の大半は知らない場所だけれど、ここが寮へ戻る道じゃないのはわかる。

 あわてて見回しても人はいない。個々の建物の間を埋めるために植えられた木々がざわざわと揺れた。

 もと来た道を引き返そうとしても、きょろきょろとしすぎて自分がどこから来たのかもわからない。どうしようと途方に暮れた。

 朝からの緊張状態にこらえきれずに泣きそうになる。立っていられなくて、思わずしゃがみこんで身を抱えた。

 涙の膜が張っている目をぎゅっとつぶってから開くと、歩道の縁石の外に、横たわる人の足が見えてぎょっとする。体は歩道の両脇の植木によって隠れている。視界が低くなったことで気づいたのだ。

 誰かが倒れているのかと真美はおそるおそる近づいた。涙はすっかり引っ込んでしまった。

 立ち上がってそっと植え込みの向こう側をのぞく。仰向けに寝ている人を見た瞬間、真美は息が止まるかと思った。

 ものすごく綺麗な顔の高校生が、芝生に寝転がって寝ていた。

 それが由貴也だった。

 真美はまばたきをするのも忘れて由貴也の顔を見入る。男子に使ってもいいのかわからないけど、由貴也はまさしく美人だった。真美の好きなアイドルもまったく歯が立たないような整った顔をしている。

 芸能人というのは磨かれた綺麗さ、かっこよさを持っている。雰囲気、仕草、表情の動かし方で美しさを作っている。けど由貴也はなんにもしなくても美人なのだ、美形なのだ。

 漫画の中の人のようだった。女の子が嫌がるような男くささがなく、けれど女々しくはない。矛盾したふたつをきれいに持ち合わせている。

 髪は茶色く、やわらかそうにゆるくウェーブしている。ニキビひとつないなめらかな肌に、長いまつげの影が落ちていた。

 真美は思わず手を伸ばす。感動するきれいなものに出会ったときに、触れようとするのはきっと自然のことのはずだ。

 けれど吸いよせられるように由貴也に近づいた瞬間、彼の目がふ、と開いた。目が合う。春の日ざしに当たった、猫のような茶色い澄んだ瞳だった。

「誰?」

 いきなり問いかけられてどぎまぎする。見ず知らずの人にふれようとしていた自分が信じられない。

「あのっ、ごめんなさ……きゃあ!」

 後ずさろうとして勢いあまってしりもちをついた。恥ずかしくて恥ずかしくて顔があげられない。

「ねえ」

 どことなく甘いのに少し乾いた、人を突き放したような声に、真美は一秒前に思ったことも忘れて顔を上げる。もう一度顔を見たら目が離せなくなった。由貴也のぼんやりとした目つきは大好きなアイドルの笑顔より魅力的だった。

「アンタ、入部希望者?」

 思いもよらないことを言われておどろくよりも先に「はい」とうなづいていた。頭に熱がのぼってうまく考えられない。のぼせたように由貴也を見つめていると、そこで初めて彼が“陸上部新入生募集中”と書かれた看板を持っていることに気づいた。陸上なんてやったことなくて急に不安になったけれど、不安になったのはほんの少しで、陸上でもなんでもやる気が満々だった。すでに真美は由貴也に恋をしていた。

 由貴也はその時新入生の勧誘をさぼっていたところだとあとで知ることとなる。これが由貴也との出会いで、真美は押しかけるようにして、陸上部に入った。

 陸上部に中等部の生徒はいなくて、女子すら香代子しかいなかった。真美は由貴也に良いところを見せようとすればするほど失敗をくり返し、香代子にフォローされるはめになった。

 それなのにどうしても香代子を好きになれなかった。仕事が良くできるけれども、地味で男子にたいしておこりんぼうの香代子。由貴也にはぜんぜんふさわしくない。

 由貴也のうわさは中等部でもまわっていたから、真美は友だちといっしょに由貴也の元カノと好きだった人を高等部まで見に行ったことがある。

 由貴也と同い歳の元カノはビックリするぐらいかわいかった。小柄で細くて、目がうるんだように大きくて、まつげが長くて、髪がさらさらで、ぴかぴかの“女の子”だった。英語科のブレザーがよく似合っていた。

 もう一人の由貴也の“好きだった人”も同性の真美ですら見とれてしまうような美人だった。頭がよさそう、と思っていたら、友だちが「高等部の副会長なんだって」と教えてくれて納得した。和風の顔立ちのその人は、本当に“高嶺の花”そのもので、ふたりが並べば夢のようにきれいだろうなあ、と真美はうっとりしてしまった。

 けれど香代子はとくに美人でもなく、かわいくもなく、だからといって笑顔が魅力的だとか、男子とおしゃべりじょうずだとかでもなかった。口うるさくて、どちらかといえば男子からうるさがられるような、そんな人だった。

 けど香代子と接するとき、由貴也は少し違うのだ。少しだけ、あの無表情をやわらげる。本当に小さい変化だったけれど、真美にはわかった。由貴也をずっと目で追っていたから。きっと由貴也が好きで陸上部に入ってきたたくさんの女の子たちも気づいていた。

 だから真美は――由貴也が好きな真美たちは、香代子を好きになれなかった。香代子の教えてくれることを素直に聞けなかった。由貴也が香代子を特別扱いしているなんておかしいと思った。

 真美は香代子とはちがうやり方でマネージャーの仕事をしようしてやっぱり失敗した。他の女の子たちは香代子より気が利くところを見せようとして由貴也のそっけなさに負けた。由貴也はアプローチしてくる女の子たちをまったく相手にしなくて、それは彼女たちのプライドをズタズタにするには充分だった。

 そんなことがあって女の子たちが辞めたあと、香代子と二人きりになった部室で思う。夕日を浴びたその平凡な姿になんで古賀先輩はどうして、と。真美は由貴也を見ているだけでよかったのに、香代子がいるからそれだけじゃダメになる。香代子がいなければいいのに、とまで考えてしまう。

 真美がじっと見てると、香代子が部費の出納帳からゆっくり顔を上げた。真美はあわてて目をそらそうとする。自分は今きっと、香代子をにらんでしまっていた。

 けれどその前に香代子は少し微笑んだ。ごめんね、とその表情が言っているように見えた。

 それがとても余裕のある態度に見えて仕方がなかった。悔しくて、そう思う自分がイヤでたまらなくなって、真美は思わず香代子がいなくなったすきに、出納帳の数字を書き換えてしまった。少しずつ書きかたは教えてもらっても、真美はまださわらせてもらえない出納帳。香代子が困ればいいと強く思った。

 あとでひどい自己嫌悪にはまって、寮の部屋でかなり泣いてしまった。けれど落ちこめば落ちこむほど、やつあたりで香代子を許せなくなる。恋がこんなに苦しくてつらいとは知らなかった。でもうまく恋をやめる方法も知らなかった。

 そのあとも真美は少しだけ香代子に反抗していった。出納帳について香代子は気づいていないみたいでなにも言わなくて、真美はほっとしたけれど、いらいらもした。

 きっと香代子は悪い人じゃないと、わかっているのに――。

「古賀先輩。先輩のこと小野さんがはりきって追いかけていましたね」

 真美はそのとき、由貴也に文化祭をいっしょにまわってほしい、と死ぬ気の覚悟で切り出してやっぱりすぐに断られ、ずこずこと教室に戻ってきたところだった。

 声が聞こえて教室の入口で足を止める。出てきた自分の名前にわけがわからなくて、そっと教室のなかをのぞくと、座る由貴也をとりかこんで高一の先輩たちが話しているところだった。

「先輩って、マネージャーさんと小野さんどっちが好きなんですか?」

 軽い口調で飛び出したその質問に、真美はぎょっとする。戸口に隠れる真美と先輩たちとの間はあんまり離れていないからばくばくと鳴る心臓の音が聞こえてしまいそうで、目をきつくつぶる。

 どうして先輩たちはそんなこと由貴也に聞くんだろう。そんなの聞くまでもないことなのに。呼吸困難で死んでしまいそうだ。

 由貴也がちらりと一年の先輩たち三人を見る。それはいつもの無表情とはちがう、びっくりするほど冷たい表情だった。

 三人から視線をはずして、由貴也がぼそっとなにかを言ったけれど、聞こえなかった。聞こえなくて安心したような、がっかりしたような、でもきっと聞かなくてよかった。

 直前の由貴也のあんな顔は初めて見た。あの顔つきで自分のことをなんか言われたならぜったい耐えられない。

 そのあとは由貴也にすごまれた三人の声が小さくなり、早口でいろいろ言っていた。由貴也ははっきりとうっとうしがっていたのが真美にもわかったけれど、三人にはわからないようで話し続けている。

 ふたたび聞こえるようになったのは、「だってそもそもありえなくないですか? マネージャーさんが古賀先輩を好きになるとか」とひとりが言ったところからだった。

 そのときちょうどうしろに誰かがいるのを感じてそっとふりむく。真美はおどろいて思わずじっと見てしまった。香代子が無言ですぐそばに立っていたのだ。

 なんていうタイミングなのだろう。あわてる真美をよそに、先輩たちはニヤニヤとしながら話し続ける。

「普通無理ですよ。自分の顔考えたら古賀先輩のこと好きになるって。よっぽど図太くないと無理ですよ」

「俺、ずっと気になってたんですよね。四月に女子あんなにたくさん陸上部に入ったのに、今小野さん以外いないじゃないですか。マネージャーさんが嫉妬して辞めさせ――」

 香代子に対するひどい言葉に、真美は自分だったらこんなことを言われたら泣く、と思った。香代子はきっと泣きはしない。泣くよりも怒ってただじゃ済ませなそうだ。先輩たちあんなことを言って、香代子先輩に殺されちゃうよ、と真美はおそるおそる香代子を見あげた。

 けれど香代子の怒った顔はそこにはなかった。ただただじっと三人を冷静な顔で見つめている。怒りも悲しみも見えない顔。

 真美が香代子を見ていられたのは少しの間だけだった。由貴也が一輪挿しを割って、香代子はすぐに飛び出していったからだ。自分の悪口のときは出ていこうとしないのに、由貴也のケガのときはすぐに香代子は教室に入っていく。

 香代子は聞いていたことをぜんぜん表に出さなかった。いつも通りてきぱきと由貴也のケガの手当てをして、救急箱をとりに教室を出ていく。戸口につったったままの真美とすれちがうときも、普通の顔つきだった。

 廊下を歩いていく香代子の背中を見ながら、胸にどうしようもない思いがわきあがってくる。

 入部してしばらくたつと、由貴也がお目当てで入ってきた女の子たちはいらだってきた。陸上部まで入ってくるような女の子たちなのだ。みんな積極的で自分に自信を持っている人が多かったから、由貴也に相手にしてもらえないことが信じられないみたいだった。

 自分たちの望むものが香代子に向けられている状態に、どうしても彼女への態度は冷たくなる。いじめとか嫌がらせとかじゃない。由貴也が好きだから、香代子につんけんしてしまう。それはどうしようもないことなのだ。

 そのつらい状況のなかでも、香代子はしゃんと顔を上げていつも通り仕事をこなしていた。女の子たちが由貴也にきゃあきゃあとさわいでいるあいだも、すみで黙々とやらなくちゃいけないことをこなしていた。

 香代子は真美のところ――自分たちのところには決して堕ちてこない。由貴也のそばにいても舞い上がらない。自分のことを見失わない。だから由貴也はきっと香代子だけを特別扱いする。

 真美はそれを認めたくなかった。容姿だとか、持って生まれた雰囲気とか、そういう努力ではどうしようもないことで負けたと思わせてくれた方がよかった。そしたら敵わないと素直にあきらめられたのに。

 香代子がいなくなった廊下の先を見つめて唇を噛む真美を現実に戻したのはガラスが乱暴に割れる音だった。お客としてなかにいた女子生徒が悲鳴を上げながらバタバタと出ていく。

 真美が教室をのぞいたときには由貴也が教室から出てくるところだった。香代子の悪口を言っていた三人は、びくびくして由貴也を見送っている。

「どいて」

 ぼうぜんとして由貴也を見てたから、目の前に彼が来ているのに気がつかなかった。真美ははっとして入口の前から退く。

 前を由貴也が通っただけでびくりとする。由貴也は普段とオーラがちがう。威圧的で重い。――こわい。由貴也は怒っている。

 大事なんだ。由貴也は男に戻って、無表情の仮面をはがしてきっとこれから香代子のところへ行くのだ。どんなにかわいい子に告白されても『俺、アンタより甘いものの方が好きだけど、それでもいい?』と言ってふってきた由貴也が、文化祭でもらったお菓子をぜんぶ置いて、香代子のところへ行くのだ。

 大事、なんだ。

 そう思ったらたまらなくて、思わず由貴也のワイシャツの背中ををつかんでいた。今の由貴也はピリピリとしていて、迫力があって、手が震えた。

「なに」

 由貴也がゆるゆるとふり向き、真美を見下ろした。いつものまぶたが落ちそうな眠たい瞳ではなく、真っ黒な底の見えない目をしていた。

 真美は一瞬ひるんでから、お腹に力を入れ直した。

「こ、古賀先輩は、香代子先輩がす、好きなんですかっ?」

 ひきょうだった。自分の想いを伝えずに、由貴也の気持ちだけを聞いて、自分の恋をどうにかしようなんて、臆病すぎた。

 由貴也は笑った。夜に花が開くようなゾッとするほど綺麗な微笑だったけれど、真美はのぼせ上がらなかった。反対にもっと由貴也がこわくなる。由貴也はけっして楽しいから、うれしいから笑っているわけではないのだ。

「アンタたちは俺がうんって言えば満足するわけ?」

 ひやりとするような声だった。

 アンタたち――真美は由貴也が好きで陸上部に入ってきた女の子たちと自分はちがうと思ってきた。誰よりも由貴也が好きだし、外見だけじゃなくて中身も見ているつもりでいた。けれど由貴也にとっては真美も他も変わらないものだったのだ。

 真美のショックなんておかまいなしに、由貴也は続けた。容赦のない顔で。

「そうじゃないでしょ。だから言わない」

 真美はぼうぜんと由貴也を見つめる。

 香代子が好きだと言われるよりもずっと悲しかった。とえば由貴也が香代子を好きだと言ったところで、きっと反発だけが残る。他人のことなんて気にしない由貴也が自分の言葉から生まれる香代子への影響を気にした。

 由貴也は真美がもうなにも言えないのをわかっているように、さっさと歩いていってしまう。ぜったいにふりむかないとわかっている背中に、由貴也の徹底的な冷たさを感じた。

 きっと由貴也を好きだった女の子たちは、この背中を見るのが悲しくて陸上部を辞めていったのだ。あの背筋が冷たくなるような笑みや、女の子たちを『アンタたち』とひとつにまとめてしまうような、由貴也にある鋭いトゲ。由貴也はただマンガに出てくるような甘いだけの男の子じゃなかった。

 とぼとぼと教室に入って、割れた一輪挿しを片づけながら涙が出てきた。ついでに破片で指を切ってしまって、もっと悲しくなってきた。

 いっしょに破片を掃除していた三人が、真美が泣いているのに気づいて、わたわたとしていたけれど、真美はしゃがんで身を抱えて泣き続けた。入学式の日の涙が今になって出たように、止まらなかった。

「どうしたんだよ、真美ちゃん!」

 おおげさなほどおどろいて、心配した顔で教室に入ってきたのは根本だった。

「根本先輩! どこいってたんすかー」

 真美が答えるより早く、三人のひとりがほっとした声を上げる。部長の哲士も副部長の根本もいなくて、凍りついたようなこの状況をどうしようもできなかったのだ。

 三人が口々に今までの経緯を根本に話して聞かせていた。話を聞き終えて、根本がアイツはまったくっ、と頭を抱える。

「お前らなぁ、古賀にムダにさわんな! あいつはなんでも倍返しして性格悪いのっ」

 三人は「ハイ……」と素直に返事をしていた。倍返しというのは根本の経験にもとづいているみたいで、熱がこもっていた。

「お客すっかりいなくなっちゃったからお前らは宣伝! あれ着て行ってこい」

 根本は由貴也が脱ぎ捨てていった女装グッズを指さす。すぐに三人がものすごく反対したけれど、「じゃあ古賀今すぐ連れ戻してこれんのかよ?」と根本に言われて、渋々女装して出ていった。

 三人が重い足どりで出ていくと、根本も真美と同じようにしゃがみこんで、顔をのぞきこんでくる。

「真美ちゃん、なぁどうしたんだよ? 古賀になんかされたのかよ」

 その声が本当に心配して、こまっていたから、真美はとにかくぶんぶんと首をふった。

「じゃあどうし……手、血が出てんじゃん!」

 すぐに手をとられて、根本がポケットから出したハンカチを指に巻かれた。香代子が由貴也の手を包んだハンカチとはちがってアイロンがかかってなくてくしゃくしゃで、でももうそれだけで痛くなくなった。

 好きってきっとこういうことなんだ、とはっきりと知った。真美はきっとあのとき由貴也にハンカチを巻いてあげられたかどうかわからない。お気に入りの花柄のハンカチを血で染めることをためらってしまった。

「根本、先輩……どうして、古賀先輩は、香代子先輩が、好きなんですか?」

 しゃくり上げてうまく言えない。涙と鼻水できっとくしゃくしゃな顔をしている。それでも真美は聞かずにはいられなかった。

 無意識に根本を見上げて答えを待っていると、彼は吹き出したように笑った。

「真美ちゃん。古賀は性格悪くて、プライド高くて、わがままで意地悪でほんっとムカつくけど、アイツの女を見る目だけは俺ははまともだとと思う」

 その笑顔がとても自信満々で、優しかったから、真美はもうなにも言えなかった。もうなにも言う言葉も残ってなかった。

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