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初恋の君へ  作者: ななえ
本編
2/127

02

 放課後、由貴也を迎えに英語科の教室まで行った。入部に向けて部室や練習風景を見学してもらうことになっているのだ。

 私立立志院高校はいくつもの学科を持つ大規模な学校だ。生徒の半数を占める普通科は文系棟と理系棟に振り分けられ、その他の英語科、家政科、芸術科、スポーツクラスは特別棟で授業を行う。

 香代子のような普通科の生徒にはあまり特別棟には用がない。スポーツクラスや家政科などの教室が固まっているそこは、同じ立志院という校名を持ちながらも、違う学校のようだった。

 普通科と由貴也のいる英語科を始めとした特別科は制服まで違う。ブレザーの制服の中をひとりセーラー服の香代子が歩く。悪目立ちしているようで落ちつかなかった。

「古賀、ネクタイはどうした」

 突然、英語科の教室がある廊下の先から、よく通る先生の声が聞こえてきた。

 その声にブレザーの華やかな制服の中で、気後れしていた香代子は顔を上げる。

 声がした先では、由貴也と先生がなにやらもめていた。原因は由貴也の身なりらしい。

「忘れました」

 悪びれもせずに由貴也が言う。この場にはふさわしくないほどのきっぱりとした物言いだった。

 由貴也の姿はワイシャツにブレザーをはおっただけだった。まだ雪解けすらしていない今の時期、その格好では見てるこっちが寒くなりそうだ。

「お前はいつも忘れましただろうが!」

 由貴也の開き直ったような態度が気に食わないのか、教師はさらに声を荒げる。ピリピリとした空気に周りが息をひそめる中、当の由貴也はまったく変わらない様子でそこに立っていた。

 その堂々としすぎている態度が教師の怒りをあおるのだと、香代子はあきれた。

「来いっ! 生徒指導室で話は聞いてやる!!」

 スパルタ式体育で有名なその教師はやることが荒っぽいと有名だった。高校生の男子相手に小学生のように腕をひいて指導室に強制連行しようとしている。

 だけれど、その太い腕が由貴也に伸びる前に、彼は軽い動きでそれを避けた。はた目には由貴也が教師をもてあそんでいるように見える。

 いつの間にか、教室掃除をしていた生徒たちの動きが止まり、この騒動の一挙一動を見守っていた。

 ギャラリーが見守る中、教師は由貴也をつかまえようとさらにやっきになり、顔を赤らめていた。それを見計らったように、由貴也はくるりと体をひるがえす。

 次は何をするのかと生徒たちが興味津々で見守るなか、由貴也はそのまま脱兎のごとく廊下を走りだした。

 パタパタパタという軽快な足音が特別棟四階に響き渡る。その軽すぎる音を観衆となっていた生徒だけではなく、教師でさえも呆然と聞いていた。

 基本的に立志院はまじめな学校だ。生徒は教師には逆らわず、基本的に怒らせるようなこともしない。

 その良くも悪くも“よい子”の集団にあって、由貴也の存在は際立っていた。

 たっぷり数秒たったあと、教師が自分の職務を突然思い出して「古賀ーっ!」と追いかけていく。

 そのときには由貴也はもうあざやかに逃げ切ったあとだった。足音すら聞こえない。

 二人が去っても、香代子は唖然としていた。

 たっぷり時間が経った後、誰かの「古賀くん、カバン忘れてる」の声で香代子もすべきことを思い出して由貴也を追った。

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