お姉様方のマウント聞き役、第五王女殿下
「このブローチとっても素敵な輝きでしょう?ワタクシの未来の旦那様の国で採れる希少なものなの。それをわざわざ送ってくださったのよ」
一番上の姉がうっとりとブローチを見ている。
その顔に、『ワタクシの方が上でしょ?』という優越感が隠せていない。
「あら、お姉様素敵ですねえ。羨ましいですわあ。アタクシが嫁ぎ先の国から頂いたこの指輪も、素敵ではあるんですけどねえ」
二番目の姉が長女をたてながら、自分の指輪を紹介している。
やっぱりその顔には、『アタクシの方が上でしょ?というかブローチって…、もっといいものあったでしょう』と書いてある。
「お姉様たちも国のために嫁がれるのです。それくらい当然ですわ。わたくしの嫁ぐ先の名産はこの布ですので、宝石やブローチをもらえるなんて羨ましいです!わたくしも指輪のひとつくらい欲しいですわ!」
三番目の姉がプリプリ怒りながら、ドレスの端を摘んだ。
上の姉がいなければ、「この布の光沢が素晴らしいんだから!この布で仕立てたドレスはお姉様方のドレスよりよっぽどいいわよね」と言うに決まっているが、指輪が欲しいのも本当なのだろう。
「あたくしは嫁入り先の言語を覚えるのに一苦労中ですわ。ですが、この前婚約者が我が国の言語で手紙をくださったんです。お姉様方に比べたら豪華ではありませんが、とても嬉しかったです」
四番目の姉がうふふと儚げに笑っていて、それらを慈しむように他の姉たちも微笑んだ。
四番目の姉は、絶対に上の姉たちより前に出ないので、姉たちの中で唯一の愛でていい姉妹というポジションに収まっている。
それこそ最も腹黒いと思ってしまうが。
「本当にお姉様方は、嫁ぎ先によく思われていて、頭が下がる思いです。我が国との和平は、お姉様方のおかげで続いていくのですね」
「あら、この国の王女として生まれたのだから、当然のことだわ」
「ええ、ワタクシたちは皆でこの国のために嫁いでいきましょう。あなたたち妹のことを本当に誇りに思うわ」
「まあ、ありがとうございますお姉様。アタクシも、お姉様を見習って頑張りますわ。…ですが、残念ながら、たった一人は他国に嫁ぐ予定はないみたいですねえ」
そう言って、チラリと第五王女である私を見てきた。
それを合図に、ようやく無視されていた視線が私を見てくる。
扇で口元を隠しているが、ニタニタしているのは隠せていない。
始まった、始まった…、さて今日はどれだけのボキャブラリーが聞けるのかしらね。
「あら、そうなのよねえ…。第五王女なのに、我が国の侯爵家との婚約で甘んじているなんて、恥を知りなさい」
一番上の姉が侮蔑の目を、私に送ってくる。
他の姉たちも倣って、私を睨んでくる。
まったく、自分の意思というものはないのかしら。
今は、お姉様方との定期的にあるお茶会。
女の園と言わんばかりに、奥庭にて、姉妹たちと侍女以外いない。
我が国は王女が5人であり、姉妹の中で私だけ国内への嫁ぐことになっている。
姉たちは、それを見下している。
自分たちは遠くの他国に嫁ぐことで、父である王の役に立ち、国に貢献となることを誇りに思っているからだ。
だというのに、末の王女は国内の、しかも侯爵家。
馬鹿にし放題である。
お姉様方はそれこそ、他国の側妃や宰相閣下の妻になる予定なのだ。
中枢に入れれば入れるほど、格が上だと思うのも仕方がないと言えばそうなのだが。
私の婚約者が近衛騎士なのも、馬鹿にする理由でしょうね。
騎士なんて王族の盾としか思っていないのだから。
「本当にどの面下げて、国に残るというのかしらね」
「嫌ですねえ、何にも貢献しない妹なんて、同じ王族だと思われたくないですわ」
「あら、王族の自覚がないからそんなことできるのですよ、きっと」
「ああ、そういうことね…?もう、本当に嫌だわ、恥ずかしい」
そのあとも、私が未熟で嫌気がさすという話と、自分たちの嫁ぐ国がどれだけ素敵かの口先だけ敬っている張り合いだけで、話が続いていく。
もう少し違う話題があってもいいのに、今回も前回と同じボキャブラリー。
その前々回とも、前々々回とも、前々々々回とも、それよりも前のお茶会となんら変わりない。
お姉様方こそ、他の話題はできないのかしら。
つまらない。
まあ、このお茶会さえ出ていれば、姉たちの機嫌もおさまるのだから、これぐらいはしますけどねぇ。
「…シェリシリーヌ殿下、お迎えに上がりました。次の授業の時間にございます」
ようやく現れた私の付きの騎士が、頭を下げた。
「あら、ご苦労様。では、お姉様方、私はこれにて失礼させていただきます。お姉様方のように、研鑽を積んでまいりますわ」
それはそれは、王妃陛下に似た綺麗な笑みを浮かべて、颯爽とその場をあとにした。
「…大丈夫でしたか?」
近衛騎士であり、私専属の騎士であり、婚約者の彼は心配そうに口を出した。
普段は騎士を徹底しているのにもかかわらず、婚約者の顔が覗いてしまっている。
それだけ、私を大切にしてくれているというものでもある。
だから、くすくす笑いながら、その腕にエスコートされる。
「何も問題ないわ。いつものお小言をもらっていただけよ」
「それでも、あなたを…、シェリーが悪く言われるのは…」
「まあまあ、どうせ嫁いでしまったら、この国に帰省することなんてほとんどないのだから、聞いて差し上げましょう?自分たちの嫁ぎ先が外国であることと、未来の旦那様の凄さでしか、自分の価値を証明できない方たちなのだから」
私が意地悪く微笑むと、婚約者は力が抜けたように笑った。
奥庭からゆっくりと2人で歩いていくこの時間は好きだから、あのお茶会も悪くないと思っている。
「それに、あれで私を傷つけられていると思っているのだから、お姉様たちって可愛いわよね。お父様とお母様…陛下と王妃から唯一生まれた娘である溺愛している私を、お父様たちが他国に飛ばすわけないっていう発想にはならないのが不思議よね」
「自分の見たくないものは、見えないこともございます」
真顔でまっすぐ前を見ながら、淡々と答えが返ってくる。
彼のこういうところも、好きなところだ。
私は、陛下と王妃陛下から生まれた娘であり、お姉様たちは側妃の子だ。
残念ながら、生まれた時から価値が違う。
第一王子と第二王子が王妃の子で優遇され、地位も安定しているのに比べて、第三王子と第四王子が王族の割には仕事をあまり任されることなく、一代限りの公爵になる未来しか待っていないのと同じである。
唯一王妃の娘である私は、国内に残り、見守っていたい、何かあればすぐに手を貸せる位置につかせるのだってそういうことだ。
「しかも、優秀すぎて嫡男よりも優遇されちゃったあなたに嫁ぐというのにね」
「……自分はやるべきことをしているだけですので」
「家を継げないから騎士になったのに、私との婚約で継げるようになっちゃったものね。ごめんなさいね、負担ばっかり増やして」
「いえ、あなたと一緒になれるなら、それ以外は瑣末なことです」
私とこの騎士がお互いを想っているけれど、身分差で何もことを起こしていなかったから、お父様がプレゼントのようにどうにかしてくれたということを、姉たちはきっと知らない。
そんなこと知らされる立場でもないのだろう、だってもうすぐこの国の人間ではなくなるのだから。
「あーあ、早く嫁いでいってくれないかしらねえ」
「本音が漏れておいでです、殿下」
「あら、ほんとね。見逃してちょうだいね。お父様かお母様に知られたら、お姉様たちの立場がもっとなくなってしまうわ」
「御意に」
愉快でつまらないお茶会をあとにして、ただ一人心穏やかに笑っていられるのは、第五王女だけなのだった。
了
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240日目。




