第1話
お前は卑怯者だ。
何をしていても、別の事を考えていても、今日はこの言葉をいつもより強く繰り返してしまう。
心の奥底にいる、もう一人の自分が必死に訴えるように。
今も人々が歩く音や電車のアナウンス、誰かの世間話が自然と聞こえてくるはずなのに。
繰り返す言葉のせいで、何も耳に入ってこない。
視界に映るものもさっきから点字ブロックか、底なし沼のような暗闇だけだ。
僕はここ最近になって、周りから届くものを感じ取れなくなっている。
もう一人の自分が僕の感性をどんどん持っていってるんだろう。
……はぁ、まただ。
そうやってすぐ誰かのせいにして、逃げては嘆いてすぐ被害者面をする。救いようのないやつだよな。僕…
「……お客様、お客さん!」
前から、大きな声が飛んできた。
「あの、2束で3600円です。」
ピンクのエプロンをしたボブの中年の女性が眉をしかめて、こちらを見ている。
……そうだった、
僕はカーネーションとキクの花束2束を購入している最中だった。
「あ、…みません…」
右ポケットから財布をとりだし、4000円を静かにレジトレーに置く。
軽やかな音を立ててレジが鳴り、数秒も満たないうちにお釣りとレシート僕の元へ返ってくる。
僕はそれをズボンの左ポケットにそっと押し込む。
「今日は違う花なのね。大切な人でもできたの?」
「…そうかもしれないですね、」
「なんなのよ、ほんと愛想悪いだから。」
「……」
「何度も言うけど、朝から並ぶ人も多いのよ。この時間帯はみんな忙しいんだから、こんな所でぼーっとされると困るのよね」
「…すみません、」
中年の女性は買った花束を慣れた手つきで丁寧に紙のトートバッグへ入れながらいつもランダムに話をしてくる。
僕はこんな欠けた返事しかできないのか。
「今日はね、雨が強くてね…」
包んでいる間、たくさん話してくるが
どれも内容はほとんど頭に入ってこない。
「いつも買ってくれるのは嬉しいんだけどね、制服姿だから聞くけど学校には行ってるの?花なんて買ってどうするのよ、」
「す、…すみません、」
「謝るんじゃなくて、ちゃんとしなさいよね。みんな行きたくなくても頑張って学校に行ってるんだからさ〜あなただけ行かないのはさすがにない卑怯ってもんじゃないの?」
彼女は悪くない。
けど心臓の奥に、指を刺すように突っ込まれた気がした。
「…なんか、すみません…お花ありがとうございます…」
うつむいたまま光のない目だけを向けて、小さく答える。
声が震えないように抑えながらなんとかしゃべるがそんな自分が馬鹿みたいにみえたのか、口の端がわずかに歪んだ。
「……お客さん待ってるから。はい。もう行って、」
紙袋を押しつけられ、背を向けられる。
次に並んでいたサラリーマンには、さっきとは別人みたいな明るい声が向けられていた。
またあの言葉だけ、頭の中に津波のように戻ってくる。
再び世界から色と音が失われていく。
この話を読んでいただいた方誠にありがとうございます。
小説を書き始めて間もないですが、とても楽しい事なんだなと思いながら執筆しております。
みなさんのアドバイスをたくさん聞かせてください!
また次の話で会いましょう。




