はじめに
「夫としての自分が、だんだん見えなくなってきた」
そんな声を聞くことが増えました。仕事も家庭も、精一杯こなしているつもりなのに、いつのまにか妻との会話が減り、子どもとの距離も広がっていく──誰かに責められたわけでも、何か大きな失敗をしたわけでもない。それでも、自分という存在が、家庭の中で“誰でもいい人”のように感じられる瞬間があるのです。
この本は、そんな「夫」という役割の変化と、その中で静かに揺れる男性たちの心に焦点を当てた一冊です。
家庭内における夫の立場は、ここ数十年で大きく変わりました。かつては“外で稼ぐ人”“家族を支える人”という明確な役割を担っていた夫たちは、いまや“共に家事をし、育児に参加し、感情も共有できる存在”として求められるようになりました。
けれど、その変化に社会が十分に追いついているとは言えません。ましてや、当事者である男性たちが、自らの役割を問い直す機会はそう多くはないのが現実です。
「何をどうすればいいのか分からない」
「家族のために頑張っているつもりなのに、評価されない」
「何かがうまくいっていない気がするけれど、原因がわからない」
そうした“名もなき違和感”の正体に光を当てたかったのが、本書の出発点です。
夫婦関係や家族の問題を語るとき、「こうすべき」「こうあるべき」といった処方箋のような言葉があふれがちです。けれど、私たちの生活や感情はもっと複雑で、もっと揺れやすいものではないでしょうか。
だからこそ本書では、何かを“正す”ことではなく、“見つめ直す”ことに重きを置きました。そして、読者であるあなたが、自分自身の言葉で「夫とは何か?」「関係とは何か?」を考え直せるような視点や問いをちりばめています。
本書は全6章構成です。前半では、夫婦の間に起こりがちな“沈黙”“機能化”“孤独”を、実際の語りをもとに描き出します。後半では、それらをどう乗り越え、どう関係を立て直すかについて、具体的なアプローチや問いのかけ方を提示します。
この本を手にとったあなたが、今、どんな立場にあるのか、私にはわかりません。結婚して間もない方かもしれませんし、何年も葛藤を抱えてきた方かもしれません。あるいは、すでに関係を終えたあとかもしれません。
でも、どんな段階にあっても、私たちには「もう一度、つながりたい」と願う力があります。たとえすれ違っていても。たとえ言葉にできない思いを抱えていても。
“夫という役割”の奥にある、“あなた自身の声”を見つけること。それが、ここから関係をつくり直していくための第一歩になると、私は信じています。




