第5章:新人賞と新たな一歩
佐藤優希(18歳、高校3年生)は、鏡の前でネクタイを締めていた。いや、締めようとして、グチャグチャになってた。スーツ、キツい。動きにくい。なんでこんなフォーマルな服、着なきゃいけないんだ! でも、今日は特別な日。星雲社主催の新人賞授賞式。優希の原稿、『聖女エリカの無双冒険譚』が最終選考に残った。結果発表は、今日、5月の晴れた土曜の夜だ。
優希の頭には、エリカの笑顔。渋谷のギャルの恋バナ、コスプレイベントの情熱、徹夜の改稿。あの全部が、原稿に詰まってる。山下哲史の「魂を込めろ!」が、胸に響く。ライバルの神崎龍馬の『魔王転生クロニクル』、7人のヒロイン、ダークヒーロー、編集部で「最有力」って騒がれてる。でも、優希、なんか怖くない。だって、俺の物語、魂込めたもん!
「優希、遅刻するよ!」 ママの声がリビングから。優希、慌ててネクタイを諦め、スーツのまま飛び出す。「いってきまーす!」
電車の中で、優希はスマホを握る。美咲さんからのLINE。「佐藤くん、今日、絶対輝くよ! エリカ、最高だった! 式、楽しみ!」 美咲さんの笑顔、癒される。山下さんからのメール、シンプル。「遅れるな。締め切りは命だ」 優希、苦笑い。(締め切り、怖え……)
でも、なんかワクワク。エリカ、どこにいる? 彼女、俺の魂の具現化って言ってた。原稿完成した今、どっか行っちゃった? いや、違う。彼女、俺の物語の中だ。優希、胸を張る。(エリカ、今日、俺の物語、読者に届けるよ!)
ホテルの宴会場は、キラキラだった。シャンデリア、テーブルクロス、編集者や作家っぽいスーツの人々。優希、スーツの袖を引っ張りながら、会場を見回す。なんか、ラノベの王宮パーティーみたい! でも、心臓バクバク。だって、人生初の授賞式だもん!
「佐藤くん、こっち!」 林美咲が手を振る。メガネをずり上げ、ドレス姿。いつもより大人っぽい。「めっちゃ似合ってるよ、スーツ! 緊張してる?」
「めっちゃしてます!」 優希、笑う。「美咲さん、ドレス、めっちゃ綺麗っす!」
「やだ、照れるじゃん!」 美咲がクスクス。「ほら、山下さん、あそこ!」
山下哲史、黒いスーツで腕を組んでる。コーヒーマグ、さすがに持ってない。眼光、いつもより鋭い。「佐藤、遅刻しなかったな。締め切り、守ったぞ」
「は、はい!」 優希、背筋を伸ばす。「山下さん、今日、結果、どうなると思います?」
「ふん。結果はどうでもいい」 山下がニヤリ。「大事なのは、キミの物語がどこまで届いたかだ。読者を、俺を、ぶち抜けたか。それが作家だ」
優希、頷く。(読者をぶち抜く……。エリカ、俺の魂、ちゃんと届いたかな?)
会場がざわめく。神崎龍馬が現れた。イケメン、相変わらず。スーツ、めっちゃ似合ってる。なんか、ムカつく! 「よ、佐藤くん。最終選考、おめでとう。いい勝負になるね」
「ふん、やってやる!」 優希、ニヤリ。「龍馬の7人ハーレム、俺のエリカに勝てるかな?」
「ハハ、面白いね。結果、楽しみだよ」 龍馬、余裕の笑み。優希、ムカッとくるけど、なんか笑える。龍馬、嫌いじゃないかも。
司会者がマイクでアナウンス。「ただいまより、星雲社新人賞の授賞式を始めます!」
優希、心臓ドクドク。美咲が「佐藤くん、ファイト!」と握り拳。山下がコーヒー……じゃなくて、水をズズッ。会場、静まり返る。
司会者が封筒を開ける。「大賞、『魔王転生クロニクル』、神崎龍馬!」
会場が拍手に包まれる。龍馬が壇上に上がり、余裕の笑顔で賞状を受け取る。マイクで言う。「ありがとう。僕の物語、まだ始まったばかりです。次はもっとすごい作品を」
優希、唇をかむ。(くそ、負けた……! 龍馬、めっちゃカッコいいじゃん!) でも、なんか悔しいだけじゃない。龍馬の原稿、読んでみたいかも。
司会者が続ける。「佳作、『聖女エリカの無双冒険譚』、佐藤優希!」
優希、ビクッ。「え、俺!?」
美咲が「やった!」と叫ぶ。山下が「行け」と背中をドン。優希、フラフラと壇上に。拍手が響く。賞状、めっちゃ重い。司会者が微笑む。「佐藤さん、コメントを」
優希、マイク握る。頭、真っ白。(え、なんて言う!?) でも、エリカの笑顔が浮かぶ。「え、えっと……この物語、俺の魂、全部詰めました。読んでくれた人に、笑顔になってほしいって思って。読者、編集者の山下さん、美咲さん、エリカ、みんな、ありがと!」
会場、拍手。優希、なんか目から汗。(ち、汗だ! 泣いてねえ!) 壇を降りると、美咲が抱きつく。「佐藤くん、めっちゃよかった! エリカ、最高だよ!」
山下が珍しく笑う。「佐藤優希。キミの物語、悪くなかった。編集部でも『魂こもってる』って話題だ。次は、もっとデカい舞台で勝負だな」
「ほ、ほんと!?」 優希、ガッツポーズ。「じゃあ、出版!?」
「ふん。佳作じゃまだだ。大賞狙え」 山下、ニヤリ。
龍馬が近づく。「佐藤くん、悪くなかったよ。エリカ、いいキャラだった。次はもっと面白い勝負しようぜ」
「ふん、やってやる!」 優希、笑う。龍馬、なんかいい奴かも。
式後、優希は会場の外で夜空を見上げる。エリカ、どこにいる? 彼女、魂の具現化なら、原稿完成した今、どっか行っちゃった? いや、違う。彼女、物語の中だ。
「エリカ、ありがと。君のおかげで、俺、魂見つけられたよ」
そこに、美咲が駆け寄る。「佐藤くん、よかったね! 佳作、おめでとう!」
「美咲さん、ありがと! でも、なんか、エリカ、いない気がして……」
「エリカ?」 美咲、首をかしげる。「転校生の子? 今日、来てなかった?」
「う、うん、なんか、特別な子で……」 優希、苦笑い。エリカの正体、説明できねえ!
山下が現れる。「佐藤、感傷に浸るな。次だ。新しいプロット、来週持ってこい」
「来週!?」 優希、絶叫。「でも、佳作、めっちゃ嬉しいっす! 山下さん、認めてくれました?」
「ふん。少しな」 山下、笑う。「キミの魂、初めて見えた。だが、まだ足りん。もっと高く飛べ」
優希、笑う。「はい! 絶対、もっと魂込めます!」
美咲が拳を握る。「佐藤くん、次は大賞! エリカ、もっと輝くよ!」
優希、夜空を見上げる。星、キラキラ。エリカの声、聞こえる気がする。「また君の物語で会えるよ」
(エリカ、待ってて! 俺の物語、絶対もっとデカくなる!)