蚊柱
ぶつぶつと身体中に穴ができて吸いつくされた人間がいた。
容姿が汚いだとか頭が悪いだとか、そいつは優しいから全部を受け入れた。故に、体に限界が来た。
蚊柱が立ったんだ。そいつの周りをまわるのが蚊だとしてその真ん中に取り残されたのがそいつ。逃げられなくて、吸い尽くされたのがそいつ。
体に無数の穴が出来てもう顔も見えない。鼻の穴よりもでかい穴が顔を覆い尽くしたからそいつはもう顔を隠そうともしなかった。
俺はあいつを助けなかった。あいつみたいに生気を吸われるのが怖かったから、無視し続けた。
そのせいで、あいつは死んだ目をするようになってしまった。
もしももっと、もっと優しく寄り添ってあげられたなら、抱きしめられたなら、穴は少しだけ小さくなっただろうか、それとも分け合うことができただろうか。
心に豆粒くらいの穴を自分で吸い空けた。