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銀色の残響  作者:
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第二章 飢え②

 目覚ましが鳴る三十分前のこと。私は空腹感で目を覚ました。


 今までこのようなことはなかったので、少々不思議に思いながらも、ゆっくりと身体を起こす。何か夢を見ていたような気もするが、映像に霞がかかっているかのようにはっきりとは思い出せそうになかった。


 二度寝する気にもなれず、枕元に置かれた目覚ましのアラームを切ると、ゆっくりとベッドから降りる。フローリングの床の冷たさが足を刺激して、思わず片眼をつむってしまう。


 もう四月だと言うのに、朝はまだ少々冷えるのは、この土地が県の北の方にあるせいだろうか。


 カーテンを勢いよく開くと、部屋に飛び込んできた朝日のまぶしさに思わず目を細めた。私が物語のような太陽に弱い吸血鬼だったなら、今頃灰になっていたのだろうか。私はその考えを、頭を振ることで意識の外へ追いやると、ゆっくりと自室を後にする。


 階段を下り、一階に移動すると母が丁度朝食を作り終えていた。


「お母さんおはよー」


 私の声に驚いたのか、母はこちらを見て目を丸くした。普段「起きなさい」と何度も怒鳴られてようやく起きる私が、何も言わなくても自主的に起きたものだから、その反応はもっともかもしれない。


「あら。今朝は早いのね」


「うーん。なんかお腹空いちゃってさ」


 正直に伝えると、母は「珍しいこともあるものね」と笑った。


 だが、母は何かを思い出したかのようにはっと顔をカレンダーに向けると、急に不安げな顔をして私を見た。


「――百合って来週誕生日よね?」


 その顔に違和感を覚えつつ、小さく頷いた。


「それがどうかしたの?」


 母はとってつけたような笑みを浮かべると「なんでもない」と答えただけだった。


 その笑みに少し不安を覚えながらも、自分の席に座って朝食を食べ始める。焼きたてのトーストに、母お手製の苺ジャムを塗りたくる。


 そして、それを一気に頬張ると、さくっと小気味の良い音を立てながら、噛み切れる。すると、上に塗られた苺ジャムの芳醇な甘さが、小麦の甘さとともに口の中いっぱいに広がった。


「朝はやっぱりこれじゃないと」


 トーストを一枚ぺろりと平らげると、のんびりと味わうようにミルクティーを口に含む。口に含んだそれが苺の甘さを上手く中和させ、口の中が程よい甘さに変わる。


「今日も飲んでいく?」


 私が食べ終わるのを確認すると、母は血液が入ったコップを差し出してくる。私たち吸血鬼がこうして人を襲わないで生活できるのも、私たちのような存在に理解を持ってくれている人が、こうして、こっそりと人間の血液をパックにして売ってくれているからだ。


「貰おうかな。なんかまだお腹空いてるし」


 コップを受け取ると、そのまま一気に煽る。血が喉を通り、胃に辿り着いたとき、小さな違和感があった。すぐにその理由に気が付き、母に声をかける。


「あれ、今日いつもより少なくない?」


 いつもならコップ一杯の血で十分に満たされるのだが、今日はなんだかあまり満たされた心地がしない。何というか、渇きがおさまらないような……。


「気のせいでしょ?」


 そう言う母の声がどこか素っ気なく感じられたのは気のせいだろうか。私は「そっか」と独り言のように呟くと、学校に行くために自室へと戻った。

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