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第9話 やっと見つけた 私の憧れの存在

    【main view 草薙エリナ】



 私はホワイトアカデミーのとある委員会に所属している。

 その名も『バチャモンカップ選考委員』。

 近々、各高校の選抜者によるバチャモンバトルのトーナメント公式大会があるのだけど、本校の選考委員として私が任命されている。

 選考委員メンバーは私と『水野スミカ』先輩の二人。

 選抜者は教師推薦から2名、それと応募者がトーナメント形式で競い、その成績優秀者がプラス2名選ばれ、合計4名が学園代表とされる。

 教師推薦で選ばれたのは私と水野先輩の2名。

 後の2名を選ぶ際のトーナメント運営をすでに選抜メンバーである私達が行うという形になったのだ。

 面倒な立場を任されたものだと思いながら、私は肩肘立てながら狭い委員会室の真ん中でため息を吐いていた。


「おはようエリナ。今日は選抜応募者を連れてきたわ」


 もう一人の委員である水野先輩が男子生徒の手を引いてやってくる。

 あの水野先輩が男子生徒と手を繋いでいる。モテるのに今まで異性の影が無かった先輩が珍しい。

 水野先輩自体は手を繋いでいることに何の違和感を覚えていないみたいだけど、手を引っ張られている男子生徒は分かりやすいくらい視線をキョロキョロさせながら動揺していた。


「おはようございます水野先輩。応募者ってその方ですか?」


「そうよ!」


 なぜかどや顔を向けられる。

 水野先輩が直接連れてきたのであれば、そこそこ強いトレーナーであるはずだと思うのだけど……

 ……こういっては悪いですが、見た目すごく弱そうです。ひどくキョドっているし。


「私は1年の草薙エリナと申します。先輩……ですかね? お名前は?」


「あ、真辺、サトル、です。はい」


 言葉の節々に妙な間がある人だ。

 内向的な人なんだろうな。人と話すの苦手そう。


「では真辺先輩、学園選抜トーナメントに参加されたいとのことですが、現在応募者が殺到しておりまして、委員会として選抜に値するかを試させて頂いております。こちらが掲示する条件に達しない場合、残念ながら選抜トーナメントへの参加は認められませんのであしからず」


「あ、うん。実は事前に水野さんから話を聞いては、います。バチャモンの技威力を測る機械があって、んと、一定数値以上の記録を出さないといけないんですよね?」


「話が早くて助かります。その通りです。今から用意される測定マシーンに最大威力の攻撃技をぶつけてください。威力が数値化され、私達委員メンバーがトーナメント参加資格の有無を判断します」


 私はバチャモンバトルフィールドをこの場に展開する。

 通常のバトルフィールドと違う所がある。それはフィールド中央に特殊オブジェがある点だった。

 強大な球体状の測定装置。公式大会の事務局に申請し、わざわざ取り寄せまでしたものである。

 真辺先輩はきっと初めてみることだろう。


「——ふぅん……面白いな」


 そう小さくつぶやいた真辺先輩の姿に私はビクッと身体を震わせた。

 先ほどまでの怯えた様子が一切なくなっている。

 な、なに? 急に様子が……


「驚いたでしょ。彼、バトル前になるといつも豹変するのよ」


「は、はぁ。変わった人ですね」


 腰に手を当てながら鋭い目で測定機械を見つめている。

 時より口元で笑みを溢している。


「(楽しそう……)」


 楽しい。

 私が忘れかけている感覚。

 未知との出会いに心を躍らせている様子の真辺先輩がちょっぴり眩しく見えた。


「この球体に最大火力の技をぶつけてみてください。その威力が点数となって背部のパネルに表示される仕組みです」


「わかった」


 合格した方々の平均点数は大体200点前後。

 最低でも150点は出さないと話にならない。


「(がんばって)」


 心の中でエールを送る。

 楽しそうに目を輝かせている先輩を見るとつい応援したくなってしまう。


「——出てこい。ピクシー」


 ——えっ?


 先輩のバチャモンボールから小柄の妖精が飛び出してくる。

 私はそのバチャモンを知っていた。

 それは私の憧れの人が使っているバチャモンと同じ種類だった。


「(まさか……ね)」


 バチャモンの種類が被ることは稀にある。

 ピクシーを持っているトレーナーだからといって、この方が赤覇王と同一人物であるわけではない。


 でも——

 それでも——

 私の心は昂っていた。


「草薙さん。始めていいか?」


「あっ、は、はい! で、では、お好きなタイミングで、ど、どうぞ!」


 今度は私の方がキョドって言葉を詰まらせてしまっていた。

 水野先輩が怪訝そうにこちらを見つめてきている。

 いけない。今は試験中だ。余計なことを考えずに真辺先輩の素質を見極めなければ。


「…………」


 真辺先輩はオブジェを前に両手を組んで無言でじっと測定装置を見つめている。

 何かを考えこんでいるようだ。


「「……??」」


 私と水野先輩は疑問符を頭に浮かべながら不思議そうに彼の様子を伺っていた。


「……よし。決めた」


 30秒くらいの沈黙の後、ようやく真辺先輩が動きを見せる。

 真辺先輩は右手を天に付き上げ、指を一本立てながら妖精バチャモンに指示を与えた。


「ピクシー。可能な限り天高く飛翔しろ」


「!?」


 な、なんですかその指示は。

 トレーナーってバチャモンに技を繰り出す指示を与えるだけの存在のはず。

 動きの内容まで指示しているトレーナーなんて見たことがない。


 ——いや、そういえばこんな噂を聞いたことがある。


 レートバトルにおいて、赤覇王こと『レッド』はバチャモンに細かな動きの指示まで出しているのではないか、と。


 レートバトルではバチャモンの姿しかディスプレイに映らない。

 戦闘後にどのタイミングでどの技を繰り出したのか、というログは残るけど、それだけではトレーナーが具体的にどんな指示を出しているのかまではわからないのだ。


 故にバチャモンの動きというのは単調になりがちなのだけど……

 レッドの持つピクシーだけは明らかに他と違う動きを見せている点から件の噂が広まったのだ。


 まさか——


 まさか、この人は本当に——!


「ピクシー。そこでいい」


 目を細めて空を見るが、バーチャル映像の雲しか私には見えない。

 肉眼では見えなくなるくらい空高く飛んでいるということだ。

 真辺先輩にはピクシーが見えている……の?


「全速力で下降してこい!」


 ピクシーが風を切って下降する音が聞こえてくる。

 音になって伝わるくらい速く、鋭い飛行。

 ようやく肉眼でピクシーの姿を捕らえることができたタイミングで、真辺先輩は次の指示を出した。


「ピクシー。その加速を保ったまま——物理型『ひっかく』だ!」


 まるで隕石。

 ものすごいエネルギーを持った物体の落下。

 その勢いを持ったままピクシーの爪は測定装置の中央部に命中し——

 4尺の花火が上がったかのような轟音がバーチャル空間に大きく木霊した。


 私と水野先輩は耳に手を当てながら、呆然と測定装置を眺めていた。

 『どんな衝撃にも耐えられる』が謳い文句の測定装置は明らかに今の衝撃に耐えられていなかった。

 骨組みの一部がブランブランと力なく揺れている。

 そして技の威力を数値化してくれるパネルには『999』と記されていた。


「あのー、水野さん、草薙さん」


「「は、はい!?」」


「えと、結果、どうかな? 俺、選抜トーナメントにエントリーできそう?」


 バトル前の真辺先輩の様子に戻っている。

 覇気すら覚えた威圧感は本当にバトル中にしか発揮されないようだ。

 色々と驚愕することが多すぎて声が出ない私の代わりに水野先輩が真辺先輩に結果を伝える。


「もちろん合格よ。ていうかカンスト記録を出す人を落とすわけないじゃない。真辺くん、絶対トーナメント勝ち抜いてね。そして私達と一緒に学園代表になりましょう」


「う、うん。やるからには全力で戦ってくるよ」


 そう、真辺先輩は言うまでもなく合格だ。

 というより、選抜トーナメントでも余裕で優勝するような気がする。

 もしかしたら水野先輩よりも強いのかもしれない。

 そして、私よりも——


 自分でも気づいていなかったが、私は俯いたまま小さく口角を上げていた。


 自分よりも強い人が目の前にいる。


 居る。居る。居る!


 赤覇王が——目の前に——居る!


 ガシッ!!


「——えっ?」


 気が付いたら私は真辺先輩の右腕を力強く握り締めていた。

 逸る気持ちが抑えきれず、思わず力が籠ってしまった。


「い、いたた……!」


「ちょっと! エリナ!? なにやってるの!?」


 水野先輩が慌てて間に入るが、私は真辺先輩の腕を離すつもりはなかった。


 やっと見つけた。


 やっと見つけた、私の憧れの存在。


 決して、離してなるものか。


 決して、逃してなるものか。


 私はこの時の為にバチャモンを続けてきたのだから。


「真辺サトル先輩——いえ、赤覇王様。私と、バトルを行いなさい!」


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