第8話 高レート保持者『エリィ』が出来るまで
【main view エリィ】
容姿端麗、成績優秀。
それらは日頃からたくさん研鑽してようやく手に入れられるものだけど、私はいつも人より早くそれらを手に入れていた。
好かれる容姿を研究し、それに近づける。
集中して授業を聞いて、わからないことはすぐに質問して、帰ってから復習をする。
私がやっていることはただそれだけ。
これくらいの努力、他にもやっている子はいるだろう。
なのにいつも私が抜きんでる結果を出せてしまう。
たぶん努力の『質』が違うのだろう。
何をやっても上手くいってしまう人種。
それが私——草薙エリナの特徴だった。
こう見えても私は勝負事が好きである。
ゲーム、スポーツ、勉学なんでもよかった。
いい勝負をして、互いの健闘をたたえ合う。そういう青春に憧れていた。
もちろん私も初見で経験者に勝つことなんてできない。
でも次は負けじと質の高い努力を重ね再戦する。
そして大抵の場合——
2回目の勝負で勝ってしまう。
3回目の勝負で大勝してしまう。
4回目の勝負で相手の心を折ってしまう。
5回目の勝負で……私が手を抜いていることを見抜かれ嫌われてしまう。
どうやら私は『手加減』というものが唯一苦手なことであるみたいだった。
こればかりは性質なので努力でどうにかできるものではない。
いつしか私は雲の上の存在とされてしまう。
『完璧美少女、草薙エリナ』。
学校ではみんな余所他所しく、遠くから眺められるだけ。
たまに告白してくれる方もいらっしゃいますが、全て丁重にお断りをさせて頂いていた。
私と一緒に居ても、いつか心が折られ、傷つけてしまう未来が見えたから。
僥倖があった。
『バチャモンバトル』。
3年くらい前に政府が国民全員に配布したバチャモンボールに私の心は踊った。
バーチャル対戦モンスターバトル、通称『バチャモン』。
誰も知らない。誰も見たことのなかった世界。
どう努力すれば上に行けるのかわからない、全くの未知数のゲーム。
先駆者など居ない未知が私は昂らせてくれる。
国民全員が一斉に『よーいどん』を切るのだ。
強くなる過程なんてわからない。努力の道筋が正しいのかすらわからない。
自分なりの道を見つけて、それを信じて勝ち進めていくんだ!
私はこのバチャモンに夢中になった。
クラスメイトとは未だ距離があるので、親戚と対戦したり、バチャモンカフェに通ってバトルを申し込んだりもしていた。
バチャモンは自由度が高すぎて皆様々な方法で手探りにトップを目指している。
もちろん私もその中の一人だった。
修行して、技を選定し、必勝法を研鑽する。
バトルし、勝利し、またバトルし、また勝利し、来る日も、来る日もその繰り返し……
夢中になって強さの上限を求めすぎた故に——
ようやく私はたくさんの人の心を折っていたことに気が付いたのだった。
私とバトルをしてくれる人は極端に減っていた。
『どうせ戦っても草薙エリナにはかないっこない』
ああ——
結局いつもと同じなんだなぁ——
バチャモンなら私を血沸き踊る気持ちにさせてくれると思っていなのになぁ——
私は半ば諦めていた。
何をやっても満足いく勝負なんてできないんだ。
そう思い始めていた。
——そんなときだった。
——『赤覇王』と呼ばれるバチャモントレーナーを見つけたのは。
『レートに化け物が居る』
ネットの匿名掲示板をボケーっと眺めていたら、そんなコメントがたまたま目に入った。
対戦動画に飛べるリンクが張ってある。
噂が誇張され、ちょっと強いトレーナーが晒されているだけなんだろうなと思いながら動画を開いてみたのだけど——
「なに……これ……?」
自分の中の常識を根本から覆された感覚だった。
愛らしい妖精バチャモンが10倍以上大きな相手を蹂躙する動画。
それも初期技である『ひっかく』だけでアッサリ勝利を収めていた。
ひっかくを一発繰り出すだけで相手の肢体は吹き飛んでいき、ある意味グロ画像とも言える代物だった。
あまりにもおかしな威力なので、一瞬違法行為を伺いもしたけれど、レートバトルは公式が用意したフィールドで戦う場であり、チートが判明した瞬間に運営から警笛が鳴らされるはずである。
つまり赤覇王は違法行為をしていない。
覇道極まる純粋な強さ。
その強さに私は魅了され——
気が付いたらレートバトルにエントリーを行っていた。
マスターランクにまで上り詰めれば彼と戦えるかもしれない。
求めていた血沸き踊るバトルが出来るかもしれない。
ライバルになってフレンドになれれば毎日赤覇王とバトルすることができるかもしれない。
曇りきっていた眼に再び光が灯り、目標を見つけた私はレートで勝ち進んでいき——
私がマスターランクになった頃、赤覇王はレートから姿を消していた。
「なんでぇぇ!?」
赤覇王がいなければ私もレートに潜る意味がない。
バトル狂と称されている赤覇王がもう1週間以上姿を現していない。
《引退》
その2文字が脳裏を霞める。
自分も進退をどうするか、それを決めようとしたタイミングで——
今度は『真辺サトル』という青年に出会うことになる。